金継ぎというと誤解されがちな「うるし繕い」
金継ぎだから金?
金継ぎの請け負い仕事を始めて10年以上経ちますが、以前に比べて広く認知されるようになったと感じます。やってみたいと反応をいただいたり、割れた部分が美しく再生されているということに、海外からも注目が集まっています。
金継ぎというとやはり金を施したものというイメージが浮かびますよね
ですがこのところの金属の高騰で、蒔絵用の金粉が15年前と比べて約4倍。。
小さな欠けでも、うつわの値段の何倍にもなるほど、金や銀はほんとうに高価になりました。
ご依頼で金を使った仕上げの見積もりを提案するときは、なんとも申し訳ない気持ちになりますし、作業費を下げて調整したりするときも。
ですので通常は金仕上げ以外の提案もします。
代用金(真鍮粉)は気軽に雰囲気を味わえます。錫も昔から下地に使われている材料です。骨董などの特別なうつわ以外は金や銀にこだわらず漆塗り仕上げも増えてきました。自宅で使っている修理品はほとんど漆塗り仕上げです。
これも金継ぎです。
金ではないけど金継ぎ
「蒔かかなくてもいい」と初めて金継ぎを習う方にお話しすると、ほとんどの方が驚きます。金や銀は(代用も)、繕った部分を隠すときに使う材料で、修理の最後に金属のお化粧をする工程が蒔きです。
修繕の強度にほとんど影響はありませんし、なくても大丈夫です。
場合によってはむしろ隠さないほうがよい雰囲気になることも多いのです。
金属を蒔かないと金継ぎと言わないのか、というとそういう訳ではないのです。
うつわを漆で繕うこと全般を「金継ぎ」とすることが認知されれば、新しい繕い方と混乱を招かずに済むのにと、常々思うところです。
うるしの黒や弁柄色は飽きのこない艶や質感があります。いつものお惣菜を並べた食卓で、繕った器が多く並んでも侘しさを感じません。
なぜ金で隠さなくていいのか
すこし手法の話をしますと、うるし繕いは主に"麦漆(むぎうるし)”という、小麦と漆を合わせた接着剤と、”錆漆(さびうるし)”という、砥の粉と漆をあわせたパテを欠けの補修に使います。
補修個所は、盛った錆漆を平らに研ぎ、更に漆を塗り重ね浸透させるので、すべてがうるしで固められ、その部分は後々引き締まって、まるで漆器のような雰囲気を纏います。修理が完成した部分は時間をかけて艶や質感に変化しています。
強度は永久というわけではありませんが、数年かけて硬化が完了するので、仕上がった直後は伸びしろが十分ある状態です。
一方で、簡易金継ぎは接着に合成接着剤を使い、エポキシ樹脂を使って欠けている部分を埋めます。修理跡は直した直後は無色であったり、白色です。徐々に劣化して数年経つと樹脂特有の黄ばみを帯びた色が表れます。
仕上げに漆を塗った繕い方も下地に漆の層がないので、うるしが透けるに従って修理部分は明るくなっていきます。数年後の姿は漆繕いと大きな違いが出てきます。なので金属で覆い隠す必要があるのです。
簡易金継ぎは修理キットが付属したムック本も販売され、修理期間の短さやかぶれにくい特性と手軽さから大変人気があります。しかしながら昔から行われている修理方法を、あえて漆を強調して説明しなければ誤解を生じたり、漆繕いの良さが伝わらないのはとても残念に思います。
金継ぎはうるし繕い
繕いのある古美術の茶碗や壺は、金で蒔いてあるところに目が行きがちですが、蒔きが外れてうるしがあらわになっているところも美しいです。
民藝館に収蔵されているものには漆塗りだけも多く、どれも健康的に感じます。
古の直しのほとんどは今行っている漆繕いと同じ材料を使っています。
漆で繕う金継ぎはとても身近なものです。
金継ぎは漆を使って仕上げることで、独自の美しさ、深みと輝きが生まれるのではないでしょうか。
もし、割れたうつわを直すことがあれば、またどこかに預けて繕いを依頼することがあれば、漆で繕う漆塗り仕上げを選んでみてください。
堂々とした主役にも名脇役としても、欠かすことの出来ない存在感を発揮する漆の直しを生活に役立てて頂ければと思います。
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