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うるしで繕う生活道具 / 家で使うものは過不足なく修理

少し前に、数年使っているドリッパーの袴部分を折ってしまいました。
金継ぎが出来るおかげで、割った時の胸の痛みは昔に比べずいぶん軽く感じます。

ご依頼も抱えているいるのであまり手をかけられず、折れたままで使えなくもないのですが、そのままではやはり痛々しいので麦漆で接着しました。

麦漆(むぎうるし)は小麦粉と漆を練った接着剤で、陶磁器を接着する際に使っている材料です。陶磁器は割れた衝撃で所々ほつれている部分が残ることが多く、ご依頼のものは錆漆という漆と砥の粉のパテで丁寧に埋めるのですが、自宅使いの道具は、最小限の修繕で済ませています。
ヒビは生漆を染み込ませて止める、欠けなども使用に差し障りがなければ角を研いで指の辺りを軽くして、色を足すくらいでも充分。
しかし一度合成接着剤を使ってしまうと接合面のphバランスが傾いたままで、剥離剤のち漆で金継ぎし直しても接着の強度が高まらず、、という事態に。
なのでとにかく接合だけは済ませています。

金継ぎで直したものは再び火にかけられない、という情報もありますが、これは耐久性が落ちることによるもので、我が家では漆直しの前と同じように使っているものも多くあります。マグカップは漆直しにして電子レンジを使いますし、ヒビが大きくなった土鍋は錆漆を補填して再び火に掛けています。
蓋が割れた場合は蒸気が当たるので、麦漆接着より、錆漆でつけると丈夫です。

四半世紀使用している羊窯の土鍋は底のヒビに錆漆
(漆のパテ)を詰めて都度補修


これまで生活を共にしてきた愛着のあるものをどのように活かすのか、と考えた時にあまり気負うと直しが億劫になるので、手がかけられない時は最小限に。
目一杯手法を詰め込んで直すもの、少し手前で手を止めておくもの、機能の補完だけするもの、買い直すのか自分である程度手掛けるのか、はそれから考える。
金属の蒔きがなく、うるしが馴染んでいく姿は趣深くて、新たに迎える道具もそれが似合うものを選ぶようになりました。


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