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【CQ×TRAPOL】岡山県美作市上山で、2泊3日のサステナブルツアーを開催。里山で暮らすローカルフレンドが教えてくれた「与え合い、分かち合う」生き方【上山ツアーレポート前編】

ゼロカーボン社会を目指し、行動変容を呼びかける『CQプロジェクト』は、ローカルフレンド(現地の人々)と出会い、現地に溶け込むような旅を提供するサービス『TRAPOL(トラポル)』とコラボして、環境課題への価値観を変える「サステナブルツアー」を企画・開催しています。

今回は、CQ×TRAPOLのサステナブルツアーの第2弾として、2023年11月20日〜22日に岡山県美作市にある「上山(うえやま)」を訪れました!

人口160人ほどの集落のなかで、40人は移住者という上山では、住民が力を合わせて再生した古き良き「棚田」でお米を作り、みんなで分け合って暮らしているのだそう。

このツアーでは、住民によって守られてきた棚田の歴史を知るとともに、上山で里山暮らしを営むローカルフレンドの生活を一緒に体験。

そして、『世界は贈与でできている』の著者である哲学者・近内悠太さんとともに、「贈与」について考えるプログラムを実施しました。

この記事では、そんな盛りだくさんのツアー1日目をレポートします!


ツアー1日目:里山を巡り、近内悠太さんとローカルフレンドの語らいに耳を傾けた夜

■岡山県美作市上山に到着。車に乗って、集落を一周

今回訪れたのは、岡山県美作市上山。美作市は、南北に長い地域で、最北端は鳥取県との境、上山は美作市のなかでも南の端に位置しています。

上山は名前の通り、山の上にあるため交通手段は車のみ。岡山駅から車を走らせて1時間ほどで、目的地である集落に到着します。

全国から約20人のツアー参加者がこの上山の地に集合し、まずはローカルフレンドの案内で集落を一周することになりました。

ローカルフレンドの指示で山の上へ上へと上がっていった先で、車のドアを開けると、頬がピンと突っ張るほど、冷たい空気が入り込んできます。
予想以上の寒さに震えながら、ふと顔を上げるとすぐに目に入り込んできたのは、緑色に染まった田んぼが山の斜面に沿って連なっている美しい「棚田」の景色。

どこまでも広がっているように見える棚田ですが、ローカルフレンドのこうたさんによると、実は全体のほんの一部分なのだそう。

奈良時代から江戸時代の全盛期にかけて、8300枚もの田んぼがあったという上山地区。しかし、1970年代以降は、高齢化によって田んぼを管理できる住民が減り、そのほとんどが耕作放棄地になっていったといいます。

棚田について教えてくれたローカルフレンドのこうたさん。

2007年には、全体の9割以上が耕作放棄地になり、薮に覆われてしまった棚田。そんな棚田を再生しようと立ち上がったのが、「英田上山棚田団(あいだうえやまたなだだん)」でした。

上山の棚田の再生というので、てっきり地元住民が集まって作業を行っていたのかと思いきや、発足当初は都内を中心に通いで集まっていたメンバーがほとんどだったのだそう。

遠路はるばる上山に訪れて、途方に暮れてしまうほどの広さの薮を、草を刈り、竹を伐採して燃やす作業をひたすら繰り返した棚田団のメンバーは、やっとの思いで住民から借りた3枚の田んぼを使い、お米づくりを始めました。

今回、集落を案内してくれるローカルフレンドの皆さんも、そんな棚田を守る棚田団のメンバーです。

棚田の前で、CQポーズ!

こうたさん「1度耕作放棄地になってしまった棚田を元に戻すには、10年以上の年月がかかります。棚田を覆う薮のなかでも、竹薮になってしまった棚田は、竹の根を刈るのが難しく、再生にも時間がかかるんです。里山での暮らしは、草との共存が課題といえるでしょう」

その後、2020年には棚田団によって、10ヘクタール以上の土地が管理されるようになり、現在は「ふくひかり」という品種のお米を育てているのだそう。夕食では、そんな棚田から収穫したお米が食べられると聞いて、楽しみでなりません。

■ローカルフレンドのこうたさんが営むキャンプ場を見学

ローカルフレンド・こうたさんが運営する大芦高原キャンプ場の管理棟。内装や家具のほとんどをこうたさんが手掛けている。

続いて、棚田を案内してくれたこうたさんが運営する「大芦高原キャンプ場」を訪れました。実は、こうたさん自身も東京から上山の地に移住してきた移住者の1人。

新卒で証券会社に入社したという彼は、サラリーマン生活を送るなかで「自分の仕事の先にどんな価値があるのか」と違和感を覚え、休日に上山の地に足を運んだといいます。

自然と人を大切にする里山での生活に惹かれたこうたさんは、なんと上山を訪れた次の日に移住を決意したのだそう…!

現在は、パートナーのななほさんと一緒に、キャンプ場を運営しながら、上山地区の活性化に力を注いでいます。

こうたさんが即日で移住を決意したという上山には、どんな魅力があるのでしょうか。移住者を呼び寄せるこの地の持つ魅力と出会うことが、今回のツアーにおける1つの目的です。

■かつて地元で暮らしていたおじいちゃんが作った展望台で、上山の景色を一望

キャンプ場を出て、さらに車を走らせて10分ほど。次は、少し開けた土地に塔が立っているのが見えてきました。

こちらは、上山に暮らしていたおじいちゃんが私財を投じて作った「展望台」なのだそう。3階建ての展望台の頂上には、小さな展望室があり、そこから上山中を一望することができます。

展望台を作ったおじいちゃんはすでに亡くなったそうですが、生前から観光客が上山の景色を楽しめるよう展望台は開放されており、現在は集落の住民の手で大切に管理されています。

おじいちゃんが自分だけが楽しむために「所有」するのではなく、住民も観光客もみんな一緒に楽しめるよう「共有」された展望台は、上山に根付いた「分かち合う精神」を象徴しているかのようでした。

展望室から見えたのは、はっとするほど美しい山々。
風に揺れる草木から、自然の息吹を感じます。

■夜は古民家「いちょう庵」で、近内悠太さんとローカルフレンドが「贈与」についてトークセッション

集落巡りを終えて、上山のリラクゼーションスポット「雲海温泉」で、冷えた身体を芯まで温めたら、棚田団の拠点となっている古民家「いちょう庵」に向かいます。

実は今回のツアーには、ベストセラー『世界は贈与でできている』の著者である哲学者の近内悠太さんにも参加していただき、特別にトークセッションを実施していただくことに。

上山で過ごす1日目の夜は、そんな近内さんから「贈与」について教えてもらうとともに、ローカルフレンドの皆さんと上山を通して見る「贈与」についてお話していただきました。

いちょう庵に集まって、近内さんのお話を真剣に聞いた夜。

まず、近内さんのお話は、「インセンティブ(報酬)とサンクション(制裁)では人は動かない」というところからスタートしました。

インセンティブ(報酬)とは、何かをやったことに対する見返りのこと。そして、サンクション(制裁)は、何かをやったことに対する罰則を指します。

一見すると、この2つは半強制的に人の行動を促す理由になるように思えます。しかし、近内さんによると、この2つは「何をしてくれたから、何かをあげる」「何をしなかったから、何かを奪う」という「交換」という現象であり、それでは人は動かないというのです。

交換とは簡単にいえば、「助けてあげる。で、あなたは何をしてくれるの?」という状態。そんな等価交換をするだけでは「社会を支えることはできないのだ」と、彼は続けます。そして、交換だけでは解決できないことを補うのが、今回のテーマである「贈与」だと教えてくれました。

近内さんによると、「「贈与」とは、「自分の意図して手に入れることができず(=お金で買うことができず)、誰かから手渡してもらわないと手に入れることができないもの、およびそれを「受け取る」こと。「与える」ことではなく。」を指すのだそう。

見返りを求める「交換」に対し、見返りを求めない「贈与」は、そこから信頼や協力を生む。だからこそ、社会における「緊急事態」にも無茶が通るのだといいます。

さらに、近内さんの語る贈与の概念において、重要なキーワードがあります。それは「大切にしているもの」という言葉。

私たちが大切にしているものを思い返してみると、おそらくそれらすべては「自分で手に入れたもの」ではなく、「誰かから手渡されたもの」のはずだと、近内さんはいいます。

つまり、自分にとって「大切にしているもの」がある私たちは、すでにもう「贈与」されてきているというわけです。

上山のローカルフレンドにとっての大切にしているものとは、代々受け継いできた「棚田」であり、自然から受け取ってきた「里山での豊かな暮らし」でしょう。

私たちはすでに「受け取って」きている。そのことに気がつくことが、今回の旅を、本当の意味でスタートさせてくれる扉となるのではないかと感じました。

■囲炉裏を囲んで、ローカルフレンド特製の塩麹鍋でお腹いっぱいになり、ツアー1日目が終了。

ローカルフレンドが作ってくれた塩麹鍋。里山で採れた野菜がたっぷり入って、栄養満点!

引き続き、ローカルフレンドと贈与についてトークセッションをしながらも、すでにお腹はぺこぺこ。そんな空腹を満たしてくれたのは、ローカルフレンド特製の塩麹鍋でした!

味付けに使われている塩麹は、棚田で収穫したお米で作った上山オリジナルの品。まろやかな味わいのなかに、お米の甘みが広がり、野菜や肉の出汁との相性は抜群です。

さらに、お鍋と一緒にいただいたのは、同じく棚田で採れた炊きたてのごはん! ふっくらと粒立ちのよいお米は、噛みしめるたびにほのかな甘みと、豊かな香りが溢れ出してきて、「ごはんってこんなにおいしかったんだ!?」と、目を見開いてしまうほど。

参加者の皆さんも「おいしすぎる」と言いながら、何杯もおかわりしていて、自然から与えられている恵みをダイレクトに感じた夕食になりました。

いちょう庵で、この日最後の集合写真。

1日目を振り返ると、この日出会うことができたのは、「都会でたくさんのお金を稼いで暮らす」という世界から抜け出し、上山の地でお互いに助け合って生きている移住者の皆さんの生活でした。

合理的な目線で見ると、経済的に安定した生活があったにもかかわらず、仕事を辞めて上山に移住してくることも、すでに大量生産化が進み、お金を出せば簡単に手に入るにもかかわらず、わざわざ荒廃した棚田を再生して生産するのは、非合理的な行動です。

しかし、近内さんが教えてくださった「贈与」の概念と照らし合わせてみると、そんな「にもかかわらず」やっている行動こそが、この地で暮らす人々の幸福に繋がっているのかもしれないと感じます。

上山に訪れたばかりのツアー1日目の夜は、近内さんの教えてくれた贈与の輪郭を掴めそうで掴めない、もどかしい気持ちで終了しました。

「棚田」が繋ぐ、里山の共同体。そこには、お金では買えない幸せがあった。

近内さんによると、上山に暮らす人々は、棚田や自然環境、人々との繋がりという「大切にしているもの」が共通しているからこそ、住民全員がまるで家族かのように見えたといいます。

上山の人々は棚田の再生をすることを中心にしており、それが人々の「大切にしているもの」そのものであり、暮らしの象徴にもなっていますが、都会での暮らしには、そんな象徴するものがなく、それぞれが大切にしているものがバラバラになり、「大切にしているものを共有している」という感覚がありません。

共有する大切なものがない人々の関係性は希薄になり、自分の家の隣に住んでいる人の顔すら知らないということもあるのではないでしょうか。

そして、その希薄な人間関係しか持たなくなった結果、「自分さえ持っていればいい」という所有の概念に囚われてしまうのかもしれません。この所有の概念こそが、地球環境を脅かす「大量生産・大量消費」の世界に繋がっているともいえます。

「交換と所有」の概念で“日々”を生きる都会での生活と、「贈与と共有」の概念で“今”を生きている上山での暮らしは、どちらのほうが良いか悪いかを決めることはできません。

しかし、その違いにはCQプロジェクトの目的である「脱炭素」と、そこから繋がる私たちの幸せや未来を考えるための、重要な鍵が隠されているのではないでしょうか。

脱炭素を含め、環境問題は既に私たちが地球から受け取り過ぎてしまったことから起こっていること、そのために、次の世代の生活が脅かされているという問題。だとすると、既に今の生活を受け取った私たちが、次の世代の生活を守るための取組みを行っていく、これはまさに贈与の形ではないでしょうか。

また、移住者の1人であるローカルフレンドのだいちさんが、夕飯の時間に棚田で採れたごはんをおいしそうに食べる参加者の顔を見て喜びながら、こう言っていたことが印象に残っています。

「僕たちは、日々こうしてたくさんのものを自然から受け取ってきている。だから、与え合うことや、分かち合うことが得意なのかもしれません」

上山のローカルフレンドが当たり前のように与え合い、分かち合うことができるのは、自然との関わりのなかに「贈与」があるからなのかもしれない。

1日目にして、少しずつ里山の暮らしと密接に関係している「贈与」の輪郭が見えてきたところですが、ツアーはまだ始まったばかり。

レポート後編では、里山での暮らしに密着すべく、参加者たちがさまざまなアクティビティに挑戦する様子や、棚田の運営に欠かせない水路掃除に参加した様子をお届けします。

(取材・執筆=目次ほたる(@kosyo0821)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)/(撮影=深谷亮介(@nrmshr)、ツアー参加者提供)

高めよう 脱炭素指数!

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