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AOR(アダルト・オリエンテッド・ラップ)とは?

4月30日(火)にJ-WAVEの番組「SONAR MUSIC」に出演してきました。テーマは「大人のラップを考えよう!AOR~アダルト・オリエンテッド・ラップ~」です。

アダルト・オリエンテッド・ラップという言葉は、今年私がヒップホップグループのDie, No Ties, Flyにインタビューした際にメンバーのpoivreさんから出たものです。メンバー全員が共通して好きな音楽としてロックが挙がり、私が「Die, No Ties, Flyの曲にはロックっぽさはそこまで表れていないような気がするので、そこは興味深いですね」と言ったことから出てきました。

LEXUZ YEN:かといって、ヒップホップマナーでやっている感じもあまりないんじゃないかなと。

VOLOJZA:そうですね。そこはデカい。

poivre:AORってあるじゃないですか。アダルト・オリエンテッド・ロック。Die, No Ties, Flyはそのヒップホップ版、アダルト・オリエンテッド・ラップだと思うんですよ。ある程度ロックが円熟してきたからAORが生まれたんじゃないかと勝手に思っているんですけど、ヒップホップも50年の歴史があって、その50年のいいところを自分たちで掬っていったらこんな風になったんじゃないかと思います。

Spincoasterでのインタビューより

SONAR MUSICでは元ネタのpoivreさんも交え、二人で選曲した曲を聴いて番組ナビゲーターのあっこゴリラさんと一緒に新ジャンルを考えるような話をしました。

そこで結論として出たのが、「歌詞であれサウンドであれ、キャリア・年齢を重ねてきたから作れるヒップホップ。30代以上のアーティストが中心だが、キャリアの歩みあっての曲なら若くてもそう呼べる。また、アーティスト本人だけではなく、ヒップホップの成熟も感じられるものも含む」というようなものです。あっこゴリラさんは「煮込まれている」と繰り返し話していました。そこで番組で流した曲にこの定義に沿う曲を追加し、25曲のプレイリストを作りました。

番組で私が選曲したのは、Killer Mike & Andre 3000「SCIENTISTS & ENGINEERS」ECD「5to9」Danny Brown「Hanami」の3曲です。poivreさん選曲はDie, No Ties, Fly「03」KM「夜のパパ」Lil Yachty「the BLACK seminole.」Common「The Light」の4曲、あっこゴリラさん選曲はLittle Simz「Gorilla」です。

「SCIENTISTS & ENGINEERS」は、Killer Mikeの王道アトランタヒップホップからオルタナティヴヒップホップのRun the Jewelsを経てきたキャリアの歩みが出た曲だと感じて選びました。このソウルフルでいてエッジーなシンセを鳴らすサウンドは両方の色が混ざったものだと思います。また、グラミー受賞時の「ラップをするには歳を取りすぎていると思っている人へ。そんなことはどうでもいいんだ。78歳でも老人ホームで何人のギャルをゲットしたとかラップしていてもいい」というスピーチも「大人のラップ」特集にぴったりだと感じました。

「5to9」は、仕事と育児に追われる忙しない日常を描写したリリックに若いラッパーとは違うものを感じて選びました。また、サウンド的にも一時期王道ヒップホップとは異なる路線を模索していたECDが、再びヒップホップ回帰的な動きを取りつつも初期に回帰したわけではない印象で、これもキャリアを重ねてきたからこそ作れるものだと思います。

「Hanami」は「ラップは若者のゲーム、もうお前はマークを外した。恐らくグラミーを取れず、チャート入りもないだろう。まだ続けるべきか、それとももう終わりにすべきか?」という、まさに大人だから書けるラインがあります。発声もトレードマークの素っ頓狂な高音ではなく落ち着いた低い声で、明らかに若い頃とは違うことをやろうとしている印象です。そのDanny Brown自体の変化と、弱さを見せるのがアリになったヒップホップ自体の成熟が感じられる曲ということで選びました。Rolling Stone Japanでのつやちゃんさんのインタビューもかなり「大人のラップ」らしい話をしています。また、Die, No Ties, FlyのVOLOJZAさんが共感していたことも理由の一つです。

poivreさん選曲ではLil Yachtyのみ若いラッパーですが、これもTame Impalaとの共演経験を経て出てきたものなので(制作時期は前後しているかもしれませんが)、そういった意味ではまさにアダルト・オリエンテッド・ラップだと思います。Commonは「2000年当時のヒップホップでストレートに愛を歌うのは大人ならでは」という理由での選曲。Die, No Ties, FlyとKMさんもリリック面での大人の視点が活きた曲です。あっこゴリラさん選曲のLittle Simz「Gorilla」は「回帰のようでこれまでの活動での挑戦も経てきたようなサウンド」という理由です。どの曲もまさにアダルト・オリエンテッド・ラップだと思います。

プレイリストには「経験が出たサウンド」でPusha TShabazz Palacesなのるなもない & YAMAANAl KaponeBoldy James & Sterling TolesCypress HillKojoe & OLIVE OILを追加。「キャリア・年齢を重ねたから書けるリリック」でPEAVISあっこゴリラAtmosphereStarlitoBlack MilkTyler, the CreatorJAY-ZBUPPONヤング・キュンDirty R.A.Y. & Moss.keyを追加しました。これまでにレビューを書いた作品の収録曲もいくつかあるので、あわせて是非。

また、PEAVISさんとAtmosphereのSlugには以前インタビューも行っています。どちらもキャリア・年齢を重ねてきたからこその話があるので、このテーマにぴったりです。これらもあわせて是非。


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