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Local Visions Presents "視覴的" at CIRCUS TOKYOレポート

4月13日(土)、東京のクラブ「CIRCUS TOKYO」で行われたイベント「Local Visions Presents "視覴的"」に行ってきました。そのレポートです。


執筆・編集:アボかど|写真提供:Local Visions

全国から多彩な面々が集まるLocal Visions

Local Visionsは非常にユニークなレーベルだ。発起人のsute_acaは島根在住だが、先日もう一人の主催として新たに加わったTsudio Studioは神戸、共にプロデューサーユニットの光学を組むSNJOは京都、あっこゴリラxiangyuなどのプロデュースも行うGimgigamは東京……と、Local Visionsからリリースしているアーティストは全国に散らばっている。レーベルのBandcampページには「Izumo, Japan」と記されているが、地域を限定しないインターネットの色が濃いレーベルである。リリースしている音楽も多岐に渡っており、先鋭的なエレクトロニック・ミュージックやジャズ、インディポップなどがこのレーベルから送り出されている。それでいてヴェイパーウェイヴ愛好家としても知られるsute_acaの趣向もほんのりと漂っており、レーベルとしてのカラーはそれにより不思議とまとまっている印象だ。

そんなLocal Visionsが4月13日(土)、東京でイベントを主催するというニュースがある日届いた。出演者はこ.Oyama、SNJO、setta、Tsudio Studio、Gimgigam、オリーヴがある、そしてシークレットが一組。BGMはsute_acaが担当するという。全国に散らばるLocal Visionsのアーティスト(と発起人のsute_aca)が集まる機会はそうないと思い、新潟に住む私も遊びに行くことを決意。普段はヒップホップを中心に聴いている私にとって、非ヒップホップ系イベントもライブイベントもかなり久しぶりである。


こ.Oyamaの初ライブ

会場のCIRCUS TOKYOはバーカウンターや椅子があるスペースは一階、ライブを観るフロアは地下という構造になっている。道に迷ってしまい着いた頃にはライブが始まっており、まず会場に集まった客の多さに驚いた。フロアは既に満員で、遅れてきた私は階段から観ることになった。

一番手はこ.Oyama。リリースしている作品はフューチャーベースのようなシンセなどエレクトロニック・ミュージックの要素を踏まえつつ、カッティングギターも多用して歌うシティポップの変種のような印象だった。この日はPCとギターを持ち込んでおり、ビートメイカーというよりはSSW的な佇まいのライブを披露していた。声を張り上げて歌うそのパフォーマンスは、今まで私が気付いていなかったロック的な印象が強かった。後で来場者との会話で知ったのだが、なんとこの日が初ライブだったという。ハイライトは2021年のEP「目下」に収録された「社会人」。弾けるようなメロディのアンセム感が素晴らしかった。


ビートライブをして歌い、VJまで行うSNJO

二番手のSNJOは、ハウスなどの要素を含んだエレクトロニックなビートとメロウな歌声を聴かせるビートメイカー/シンガーだ。Local Visionsからリリースした2018年作「未開の惑星」も2023年作「care」も私のお気に入り作品で、かなり楽しみにしていたアーティストの一人だった。

当日はビートライブをして歌い、さらにVJまで行う多彩な側面を見せていた。このVJとビートライブを並行して見せるライブが新鮮で、映像と手の動き、音が一体となったパフォーマンスはそれまで未経験のものだった。音楽的にはエレクトロニカの要素を特に強く感じたが、歌に集中する際のステージングは完全にシンガーのそれだ。この一言で言い表せない豊かな表現がSNJOの面白さであり、Local Visionsの面白さでもあると思う。


ユーモアも交えてヒップホップマナーで魅せるsetta

この日の出演者の中では、私が普段よく聴いている音楽に最も近かったのが三番手のsettaだ。J DillaMadlibの系譜にあるサンプリングベースのヒップホップ系ビートメイカーで、当日もやはりヒップホップ色の強いオーセンティックなビートライブだった。

とはいえ、Settaの優しいメロディ感覚とBrainfeeder勢にも通じるユニークな音使いはこのイベントにも馴染むものだ。和楽器の音色を使った曲やアフロビーツ的なリズムの曲もあり、多彩な引き出しをユーモアも交えて心地良く聴かせてくれた。ステージングは完全にヒップホップマナーであり、要素を分解して取り出していくと出演者の中で異質にも思えるのだが、それを違和感なく観ることができたのはやはりLocal Visionsの懐の広さである。


プレイヤーとしての魅力も見せたTsudio Studio

ヴェイパーウェイヴ以降の質感を持ったベッドルームポップ、というのが私のそれまでのTsudio Studioの大まかな印象だった。しかし、この日ライブで観てそれは変化した。2ステップなどの要素を含むダンスミュージックとしての強度がライブならではの音量によって炙り出され、シンセの響きはフューチャーベースやエレクトロニカのニュアンスを強く感じさせるものだった。さらに速弾きなどでギタリストとしての側面も打ち出しつつ、ギターだけではなくシンセも弾いて歌う。これまで行ってきた様々な活動での経験が合わさって現在がある、キャリアの長いアーティストならではの魅力を持ったステージだった。

一番手のこ.Oyamaにも感じたことだが、Local Visionsのアーティストは想像していたよりもかなり楽器を弾くプレイヤーとしての側面が強い。しかし同時にDTM的な側面にもかなり真摯だ。ヴェイパーウェイヴはラフなイメージがある音楽だが、Local Visionsはそれとは遠いレーベルなのである。


多彩なゲストも交えたギタリストのGimgigam

Gimgigamは特にそのプレイヤーらしさが際立つアーティストだ。そもそもプロデュースワークではエレクトロニックなサウンドに振り切ったものも聴かせるが、Local Visions作品ではギタリストとしての側面も強調してきた。今回のライブでは音源をプレイしてギターを弾き続けるスタイルで、ステージングもビートメイカーというよりはバンドマン的。しかしDTMで作った音の太さが凄まじく、ビートメイカーとしての強みも表れていた。

また、KYOYOTOMCMON/KUshowmore根津まなみがゲストで参加。様々なアーティストと共作してきたプロデューサーらしさも見せていた。TOMCとMON/KUと共に披露した「I Wanna Blame」は、TOMCの振る舞いは完全にヒップホップ的なのに鳴っている音はポストパンクというギャップが強烈で、この日のハイライトの一つだった。


終始驚きのあったオリーブがある

オリーブがあるはこの日最大のインパクトだった。「自作のシティポップをセルフサンプリングしてフューチャーファンクを作る」というユニークな活動を行うオリーブがあるだが、そもそもプロデューサー、エンジニア、ヴォーカリストの三人組という編成も珍しい組み合わせである。ライブではエンジニアのko wadaが音源をプレイしてプロデューサーのJAWZZがドラムを叩き、ヴォーカリストのWOONOOが歌うという形でパフォーマンス。生ドラムのグルーヴが想像以上のバンド感を生み出しており、ストレートなポップスとしての魅力のあるステージだった。

……と思ったのは途中までで、突如WOONOOがステージを降りてシームレスにフューチャーファンク化。しかもJAWZZはそのままドラムを叩いており、DJでプレイされるフューチャーファンクとは違うライブ感を備えていた。これは完全に未知の体験だ。その後WOONOOがステージに戻って歌い、オリーブがあるがプロデュースした長瀬有花「Sleeper’s Store」のセルフカヴァーも披露。長瀬有花のラップ音源をプレイするサプライズも含め、終始驚きのあるステージだった。


イベントの集大成のような光学

シークレットはTsudio StudioとSNJOの二人組となった光学。GimgigamとJAWZZをフィーチャーしたシングル「波 (2024 ver.)」をフルメンバーで披露した。ここまで各自がプレイヤーとしての側面を見せてきたが、ここではSNJOがヴォーカル、Tsudio Studioがシンセ、Gimgigamがギター、JAWZZがドラムを担当。この日唯一のバンド形態のライブとなった。

各自のライブではプレイヤーとしての側面と同時にDTMのエレクトロニックな魅力もあるものだったが、光学のライブはネオソウルっぽいニュアンスが目立った。しかしノイジーなシンセの使い方やサイケデリックロック的な要素もあり、やはりストレートなネオソウルとは少し異なるものだった。一曲だけのライブだったものの濃密なパフォーマンスで、まさにイベントの集大成のような印象だ。


豊さと暖かさ

以前はLocal Visionsに対して最初に述べたような印象を抱いていたが、イベントを観てそれは覆されることとなった。全体を通して感じたのは「ヴェイパーウェイヴ以降の」というよりも、DTMにも演奏にもしっかりと向き合ってきた各々の表現の豊かさだ。そして、一人一人が持つ要素が多いからこそ、それを分解することでアーティスト同士の共通点が見えてくる。例えばTsudio StudioとGimgigamのレゲエ要素、オリーブがあるとsettaのR&B文脈のメロウネスのように。そういった部分的な重なりの集合体がLocal Visionsなのだ。

また、イベント全体に漂うピースフルな雰囲気も印象的だった。ライブが終わることに各自すぐに一階に移動し、物販を購入し来場者・演者との会話を楽しんでいた。来場者の中には音楽活動を行っているアーティストも何人かいたが、その音楽性もヒップホップやエレクトロニカなど多岐に渡っていた。幅広い地域・音楽の趣向の人が集まる場としてのLocal Visions、という図式は演者だけではなくその場にいる全員に言えることだったのだ。「捨てアカ」という匿名性の強い概念は、どこの誰でもないが誰でもあり得る。そんな名前を名乗る主催者のイベントは、ある意味その名の通り多彩なものを受け入れる豊かで暖かいものだった。


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