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人生の土用

冬ノ土用
令和6年1月18日

冬の土用ー。

今回寄稿を依頼されたテーマであり雑節である土用。
「土用丑の日」「夏の土用」は聞いたことがあるが、「冬の土用」は聞き慣れない。

土用とは、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」の前、約18日間ずつの期間を指す。季節の変わり目の養生期間のようなものだ。これを書いている今は、冬の土用を直近に控えた小寒のど真ん中。歩く頬に当たる風が今までとは打って変わり一層冷たく、ついつい身体中の筋肉が強張るほどだ。急激な気温の変化で体が疲れやすい時期だからこそ、旬のものを食べて体をゆっくりと休める期間と言われているのも納得がいく。土用とは、次の季節のページを捲る前の調整期間のようなものなのだろう。

かくいう私にとっての2023年は、まるで“20代の土用”、人生の変わり目の養生期間だった。
2022年の冬に社内異動した先では、ミッションも役割も人間関係も変わり、いろいろな要因が重なり心身ともにコンディションを崩した。新卒から長年お世話になった会社ではあったが、一度仕事そのものから離れようと思い退職した。そこから2023年の秋までの約1年間、何をするわけでもなく、ただただ毎日を過ごした。朝は8時頃に起き、ゆっくりご飯を食べて洗濯や掃除をし、昼過ぎに地元の激安スーパーに買い物に行き、カフェで日記を書いたり本を読んだりして、夕方からインスタグラムで見つけたレシピを片手に2,3時間料理をする。仕事終わりの夫と共に夕飯を囲み、1日の出来事を共有しあい、お風呂に入って眠りにつく。基本はこんな感じ。
転職活動は始められなかった。どうしてこうなったのか。自分のせいなのか。また次の会社で同じようになるのではないか。また自分に負けるのではないか。そんな考えがぐるぐると巡り、自分の中で納得のいく答えが出るまでは、働く自分が想像できなかった。

それでも季節は変わった。
休み始めてすぐにきた冬。伊豆のみかん農家さんの手伝いで、みかん狩りに行った。11月だった。みかんの旬は1月と言われるが、収穫してから数ヶ月寝かせたものがスーパーに並ぶのか。普段何気なく食べているみかんの収穫時期の早さと、厳しい寒さを超えるからこそ甘くなるのだと知った(あまりの寒さでそこから1ヶ月間は鼻水が止まらなかった)。春は近くの鶴岡八幡宮の段葛の桜が見事だった。夫と共に桜の見えるレストランでピザを食べ、遊びにきた友人を夜桜のライトアップに連れて行った。寒い冬を超え、それは見事な花が咲いていた。
夏は長谷寺の紫陽花が綺麗だった。多くの人でごった返す時期を外し、三分咲き、七分咲き、見頃過ぎに、3回見にいった。どんな時期に行っても美しかった。
そして秋がきた。心はだいぶ軽くなっていて、また働きたいと思えるようになっていた。運命とも言えるのか、奇遇なことに果たして前職に戻ることになった。改めて受け入れてもらえたことにただただ感謝している。

話は土用に戻して、この期間、実は避けた方がいいことがあるという。
・土いじりや草むしりなど、土を動かすこと(※)
・新しいこと
・場所を移動すること
体調を崩しやすい期間だからこそ、避けたほうが安全という考えからである。

仕事を離れ、何をする訳でもなくただただ毎日を過ごしていたあの期間。私の人生の土用においても、きっと避けた方がよかったことがあったのだろうと思う。でも考えてみると、人生100年時代、人にも「土用」があったって良いじゃないか。美味しいご飯を食べ、四季の移ろいを感じ、自分にとっての新しい季節がやってくるのを静かに待つ。そうして人生のページをめくっていくのもまた悪くないと、今はそう思える。

(※) 間日(まび)と呼ばれる、土を動かしてもOKな期間もある。

-R.I.

冬ノ土用

フユノドヨウ
雑節

暦といえば、ここ数年愛用しているのが 天然生活手帳。二十四節気・七十二侯や月の満ち欠けが書かれてあり、平野 恵理子さんによる優しい言葉と季節の挿絵に癒される。真っ白な手帳を自分色に染めるのも楽しいが、暦や季節のさし絵から、思い出が蘇ったり、季節の移り変わりの中で今日があることに思いを馳せたりできる一冊も楽しい。
今年初めて購入した D-BROSの二十四節気カレンダー も部屋を彩ってくれる。季節の行事や自然の恵み、名人たちの俳句が、小山 麻子さんによる味わい深いイラストで綴られている。

もうじき、大好きなコデマリがたくさん出回る時期。我が家でもまだ蕾のコデマリをお迎えした。


参考文献

産泰神社, 【2024年最新】冬にも土用がある!土用とは?してはいけないことは?うなぎ以外の縁起のよい食べ物も紹介 | 神社豆知識 | このはな手帖, 閲覧2024年1月14日

カバー写真:2024年1月18日 部屋に貼ったD-BROSの二十四節気カレンダー


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人生の土用
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