コヨムのnote|暦で読むニュースレター

コヨムは、メンバー3人でレターを紡いでいます。 七十二候ごとに、メンバーがそのとき感じ…

コヨムのnote|暦で読むニュースレター

コヨムは、メンバー3人でレターを紡いでいます。 七十二候ごとに、メンバーがそのとき感じたことを、それぞれのトーンで書いています。 不定期にやってくる “雑節” には、ゲストの方を招いて、レターを書いてもらいます。 https://coyomu-style.studio.site/

最近の記事

また今日も畑に出る

芒種|蟷螂生 令和6年6月9日 畑が忙しくなってきた。 毎年この頃になると,4月に蒔いた種たちがそれなりの大きさにまで成長してくる。その一方で虫たちの活性も高まり,草たちも旺盛に居場所を競い合う。 畑のある暮らしも4年目。これまでは日々の草取りに充実感を感じたり,収穫にこそ歓びを感じていた。 今年は「観察」が一番の醍醐味だ。畑に出ても手は動かさないことが増えた。一晩で真っ赤に染まるラズベリーや,新芽が押し返した土の一片にも気づく。日々の流れのなかで些細な変化に気づき続け

    • ニライカナイに恋をして

      小満|紅花栄 令和6年6月1日 去年の秋に沖縄に行って以来、「ニライカナイ」がずっと頭から離れなかった。海のむこうの理想郷であり、幸福・豊穣の神がいるとされる場所、ニライカナイ。場所や文献によって、ニルヤカナヤ、ギライカナイ、ジレーカネーなど、様々な呼ばれ方があるらしい。どうしてそんなに心惹かれていたのか、今でもよくわからないけれど、沖縄から帰ってからというもの、取り憑かれたように論文や本を読み漁った。根の国という説や、ミロヤ(土の屋)とカナヤ(日の屋)という説など、ニライ

      • ツバメの質量

        小満|蚕起食桑 令和6年5月25日 ツバメは驚くほどに軽い。いつものように古民家の手直しのために現場に向かうと,家の片隅で仰向けになり,その体温を失っていた。横たわったままの彼,または彼女をそっと持ち上げたのでその質量をよく知っている。 玄鳥至(ツバメキタル)という七十二候が4月4日頃,玄鳥去(ツバメサル)が9月17日頃。その間を日本で過ごす。南の国からはるばる海を超えてやってくるツバメたち。そのうちの一羽が,日本の里山のまさに目の前で息を引き取った。何千キロと旅する身体

        • 幾度目かの新生活

          立夏|竹笋生 令和6年5月20日 5月も後半。今月は香港旅行に始まり、続いて10日ぶりの社会生活の再会は新しい環境でのものとなった。転職したわけではなく、グループ会社への出向という形で。 これで身を置いたことのある会社は計4社となる。環境適応はさすがに慣れたものとなったのか、帰宅後ぐったりするほどの強い緊張や不安はなかった(もちろんあるにはあったが、比較的、少なかった)。新しい仕事・環境でまずなにを把握したら良いのかというものがわかってきたのかもしれない。 仕事の難易度が

          遊びの師匠

          立夏|蛙始鳴 令和6年5月6日 以前のコヨムのレターで紹介されていた「こころの旅」をGW中に手に取った。30歳を迎え,暮らしのいろいろが劇的に変化してきた。特に2年前に子どもが生まれてからは,私の「こころの旅」に凄まじい変化が訪れた。そんな折にちょうどよく紹介されたものだから,気忙しい日々が少しでも客観的に眺められると期待して,子どもが寝静まったあとにゆったりと自身のこころの旅をなぞっていった。 家庭内への子どもの参入は,異質な他者を迎える営みであって少なからず摩擦が生じ

          香港紀行 序文

          穀雨|牡丹華 令和6年5月4日 昨年末頃にふと、初任給でご馳走をしたり何かを買ったりと、目に見える形での親孝行をした記憶がないな、と気がついた。 それもあって、今年の目標を人生ビンゴの形で設定した時、1マスは「親を旅行に連れて行く」にした。そして無事、5月1日から今日まで、3泊4日の家族旅行を決行することができた。 現在帰路の電車の中でこの文を書いている。自分の中で(そして親の中でもそうあってもらえたらと願う)一生の記念ともなるこの出来事を、腰を据えて文字に起こし、次の私

          最後の霜が降りる

          雑節|八十八夜 令和6年5月1日 この間、“そろそろ彼に会うべき頃だ”という天啓が謎に降ってきて、大学時代の盟友だったその男に連絡を取り、武蔵小杉の串焼き屋で日本酒を呑み交わした。「ちょうど今日、絞った日本酒があるんです」という素晴らしいカードを引き当てたわれわれは、“垂直飲みができるね”と心が浮き立った様子の彼による、実に心地よいドライブによって、現在と過去を行き来し、豊穣な大地を駆け巡り、都会の夜の空へと舞い上がった。甘美なロマンスに身を委ねていた人々を除けば、その日わ

          酒のカン世界

          穀雨|霜止出苗 令和6年4月27日 日本酒と一口に言っても、冷酒と燗では全く違う世界が広がっている。いま若者のトレンドである日本酒とは基本的に冷酒のことを指すが、燗も一部では熱狂的に愛されている。そもそも「日本酒」と呼ぶのは主に冷酒の世界であって、燗の世界では単に「酒」と言うことが多いように感じる。スタンディングの日本酒バーは「十四代」や「新政」の冷酒が似合うコンクリート打ちっぱなし、一方でカウンターに大皿が並ぶ小料理屋は「十旭日」や「玉櫻」や「剣菱」の燗が映える立派な一枚

          終わらない改修,代謝する建築

          穀雨|葭始生 令和6年4月20日 「お施主さま」と呼ばないでで書いたように古民家の改修が進んでいる。当初は年度内での完成を目指していたが,そういった時間の目標は立てないことにした。あるいはそんな締切は無意味なことだと気づき始めた。 建築という圧倒的な実在は時間と空間の制約を受ける。リモートで勤務していた頃とは全く違う感覚だ。漆喰は下塗りをしてから仕上げるまでに,一日空けなければならないし,現場に足を運ばなければ,左官をすることさえ叶わない。壁が仕上がるという生々しさは,P

          終わらない改修,代謝する建築

          心のスイッチの潤滑湯

          清明|鴻雁北 令和6年4月12日 仕事量にはタフな方だが、仕事の種類が増えると途端に心が窮屈になる。新しいことが好きで、すぐにいろんなことに手を出してしまう性格ゆえ、自分からしんどさの渦中に飛び込んでいる。忙殺され、心を失いかけたときにはいつも、箱根の天山湯治郷に行くようにしている。先日も朝早く家を出て電車を乗り継いで、天山湯治郷の「一休」という湯に入った。一休は山の中に湯があるだけの日帰り温泉施設で、洗い場もなければサウナもない。耳を澄ますと川の流れる音が聞こえてくる。湯

          こころの旅

          春分|雷乃発声 令和6年4月1日 3月初頭。日本橋のコレド室町を訪れた際、地下に「タロー書房」なる本屋があったので、寄ってみた。本のラインナップはなかなか興味をついてくるものばかりで、思わず1時間以上は滞在してしまった。 その中で出会った「こころの旅」(神谷美恵子 著)という本が自分にとってかなり刺さる本だったので、紹介したい。 人が生まれてから死ぬまでの精神世界の成長・変化を旅になぞらえ、10章に分けて論じている。 著者は精神科医でもあり母でもあったので、客観的な立

          あるクモの話

          春分|桜始開 令和6年3月29日 部屋で飼っていたクモが亡くなった。飼っていたと言ってもエサをやったりしていたわけではなく、けっこう前から部屋に生息していたクモである。部屋に入るときに足元をウロウロしていて、踏んじゃいそうになったことが何度もあり、その度にどこか安全なところに巣でも作ってほしいものだと思っていたら、そのクモが自ら定住の場所として定めたのが、部屋のインテリアとして飾っていたワンカップ瓶の中だった。いつの間にか姿が見えなくなってどこかへしまったと思っていたのが、

          いつだって青く見える

          雑節|春ノ社日 令和6年3月25日 東京に憧れていた。最寄り駅から歩いて50分もかかってしまう私の実家は,どこにでも行けて,なんでも見られて,なんでも体験できる東京とは明らかに違って見えていた。観光地がないことで有名な私の出身地にはなんにもない。そう思っていた。 高校を卒業してから,東京に出てきた。東京にはなんでもあった。日本中どころか世界中の食事も,娯楽も,文化も,出会いも,別れも,楽しさも,退屈も。 そんな東京に少しでも染まろうとしていた。標準語とそれほど遠くない方

          暦のないコヨム

          春分|雀始巣 令和6年3月20日 春分になった。ちょうど3年前の「春分」にコヨムが始まったので,今回の節気にはどこか特別な思いがある。 まもなく迎える雑節「春の社日」には高校からの友人にレターを依頼した。細かいことは省略するが,今年の「春の社日」は3月15日と3月25日が候補となる日だ。レターのリリース日をどちらにするか決めるためにいろいろと調べていると,地球の赤道の延長面を太陽がまたぐ瞬間が重要なようだ。今年の春分の瞬間は12時6分。午後にあたるから後者の3月25日を取

          暑さ寒さも彼岸まで

          雑節|春ノ彼岸 令和6年3月17日 お彼岸といえば死後の世界のことを比喩的に言った言葉と認識されている。 「三途の川の向こう岸」というわけだ。これには異説も多いようだが、とにかく現代的解釈のお彼岸は春分と秋分の日の前後に死者の国、そしてご先祖様のことをおもう期間と捉えてよかろうと思う。 「ご先祖様のことをおもう」と言って、皆様はご自身のご先祖様についてどれほどご存知だろうか。 私はどれくらい知っているだろうか。皆様も思い出したり、年上の家族に聞いてみたりしてほしい。

          日記:末っ子の卒業と愛猫の法要

          啓蟄|菜虫化蝶 令和6年3月16日 今日は朝から天気も良く、絶好のお出かけ日和 末っ子の大学の卒業を祝って、家族でご飯を食べに行きました。 自分にとってはまだ中学生くらいの感覚で止まっている末っ子が 社会に出て働き始めるなんて驚きです。 これからつらいことも楽しいこともいっぱいあるだろうけれど 精一杯人生を満喫してくれたらな、なんて思います。 午前中は愛猫の彼岸の法要でした。 両国で生まれ、捨てられていたのを私の友人が拾ったことで我が家にやってきた猫。 動物を飼う予定なん

          日記:末っ子の卒業と愛猫の法要