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Paris,Texas 再見

 「パリ、テキサス」WOWOW放送もう終わったのにずっと脳幹が痺れたまま放心している。
 この映画を初めて観たのは大学生の時で、その頃の私にはわからなかった主人公トラヴィスの揺れ動きが、一挙手一投足がわかってしまって今うまく目が開かない。彼は喋らないのではなく喋れないんだ。特定の人への言葉をまとめようとすればするほど瓦解してしまう現象に何より今私が悩まされているのでどうしようもないの心底わかる。
 実は初めて観た時も小学校から高校までピアノ教室で場面緘黙に陥ってたからその感覚は知っているはずなんだけど、東京の大学生の私と函館の小中高生の私の間に積極的に断絶を作ろうとしていたからあえて思い至らないようにしていた気がする。
 この世に身の置きどころがない人間がああなってしまうのは今の私が何より知っていることだから「なんなのこの人記憶喪失なの?」と思っていた大学生の自分が眩しい。
 どうしても資本主義に馴染めないと、この世に身の置きどころがなくなってしまうのだけど、トラヴィスとジェーンはその「資本主義社会に馴染めない」という連帯感を恋と錯覚してしまっているので、これはもう破綻することが織り込み済みの関係なんですよね。
 でも世界に一人だけ、と思っていた二人が出会っても二人で力合わせて世界と和解しよう、にはなれないんですよね。あまりにも繊細で真面目な二人が煮詰まってしまうと近視眼的に傷つけあってどちらかが殺されたり逃げるまで解放されないのわかってしまうんです。
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 コロナ自殺増えるかと思いきや2020年4月の自殺者数20%減に驚きましたけど、資本主義社会を一旦お休みしましょうと要請されただけでこんなに自殺者数の変動があるということは、資本主義社会に馴染めない人が想像以上に多数いたということなのでしょう。それにしてもこれだけいるのか、ベーシックインカム導入で救われる命って膨大じゃないのかとも思いました。
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 閑話休題。
 トラヴィスの弟夫婦はとても良い人たちだけど、あの意図しない「普通」を私らみたいなのが浴び続けるとそれはそれで生きた心地がしないんですよね。その優しさが怖い。
 初見の時はトラヴィスのことが全然分からなくて前半は弟の妻の視点から物語世界を見つめていたので夫の兄の得体知れなさに底知れない恐怖を味わってました、が、その時の私は「普通」の世界に馴染まなければと必死だったし、男性恐怖も今よりずっと酷すぎたのでトラヴィスのことを分かってはいけなかったのでした。あれほど憧れ焦がれた「普通」からあっけなく滑り落ちて落伍者としての人生も長くなってしまうと「普通」の人に怯えてしまうから、あれが分かった瞬間に自分は世界から隠遁しなければならないと知っているから「普通であればそれでいい」と言われ続けた私はトラヴィスを切り捨てるしかなかった。
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 「普通」を両親からとにかく求められました。他人に迷惑をかけたくない、世間に迷惑をかけてはいけない、というメッセージを強く押しつけられました。後にADHD診断受けるので今なら「普通」は無理だ、と言えるんですけど、私と世間体が衝突した時に両親が優先するのは常に世間体で私は選ばれなかったので彼らが私より優先した「世間体」に馴染もうと必死でした。過剰適応してしまっていました。なので「私だけが我慢すればそれで丸く収まる」「他人に迷惑かけたくない」「こんなに他人を困らせる私が消えればいいのに」という思考が最優先で出てきがちです。自分を優先できなくて対立すると身を引きがちなんです。認知の歪みが相当酷い。
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 弟夫婦が育てていたトラヴィスとジェーンの息子が養育してくれる弟夫婦に遠慮して父のことを忘れているかのように振る舞っているけどその実は生みの父母を慕って寂しい思いを噛みしめてる描写、押し付けがましくなくさらっと済ませるうまさ良かったです。彼、養育者が自分を手放したくない、と壁挟んだ部屋で吐露してることで救われてるんですよね。彼は育ててくれた二人への信頼感を適切に育んでいるので育ての親がどういう人間なのかもそこで分かってくる。養育者の方も子供がいない設定だからあれだけ執着してるのもあるんでしょうけど、弟の妻は妊娠できない体なのかな、だとしたらその執着から悲痛の意味がより際立ちますね。私は病気のため薬で生理を止めているのでまた自分の体を使ってこの世に他人を送り出すことができないのですけど、その事実に安堵しか感じないので子供が欲しくて欲しくてたまらないというのは分からない、けどそういう人がそれなりにいることは知っている。あの子は利発で将来の可能性に満ち溢れている前途洋洋な若人なので、弟夫婦が自分を見捨てたくない、奪われたらどうしようと思ってるという事実から生まれる信頼感がわかってそこで自信がついてトラヴィスとヒューストンまで行く。だから彼らは彼に「帰る場所」を保証している、あの二人からこんなにひなたの匂いがする子に育てたことはとてもすごいけど、ひなたが眩しすぎてトラヴィスが近寄れなくなる原因にもなってるよね…

 と、ここまでうだうだ書きましたけど、ヒューストンの覗き部屋にいるジェーン!これが完全に私!私すぎて何も考えられなくなってしまう!若い女性であった時分、ああやって資本主義社会、男性社会をやり過ごそうとしていた私しかいない!あそこはもうシンクロ率400%になるので頭がぼーっとしてうまく考えられない。でも私がナスターシャ・キンスキーがジェーンとして着ていたモヘアのセーターがものすごく欲しくなって探して買った理由は今回よく分かった。あの人完全に私だからだ。
 ラストのトラヴィスの選択って理解に苦しむ人多いでしょう、かつての私もそうだったけど。でも人生色々重ねてきたらわかった。あの厳しいシチュエーションでも逃げずに立ち向かえるのがジェーン、それが私。そしてああやって男性が逃げてゆく。逃げる人の心理は今もわからない、でも実際にそれを何度も経験したから逃げられてしまうことは経験から学ばざるを得ない。男性は私からああやって逃げる、弱さの連帯から始まった関係だと内面の何かしらの強さに怖気付いてしまうのかも知れない。そして私は押し付けられ取り残される。あのラストのトラヴィスの行動を不可解と思う人が多いんだろうし私も思うけど、でもあれは実際によく起こる。あの二人がよりを戻してうまくいくとも思えない。ああなるしかない。何度かこれを繰り返すともう裏切られたくない、と恋愛自体を諦める。ジェーンはハンターというひなたの匂いのする息子にエスコートされて暗闇を出る。トラヴィスはまた暗闇に舞い戻る。暗闇を彷徨いながら妻子を想う。私はもうそんな男に想われたくないと思う。
 初見の時、覗き部屋の二人のやりとりを観て「どうせこうなるんだから私は恋愛をしちゃいけないんだな」と自分に呪いをかけてしまった、きっと。
今はひなたの匂いがする男の子にこの手を取ってもらって光のもとまでエスコートしてもらいたいと思う。幻の息子に、その手を離さないで、と強く握りながら光り輝く彼の居場所まで連れ出してもらいたいな、と思う。

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 夜中に「パリ、テキサス」を観終わった後、嗚咽しながら今この感情は刻み付けておかねばならない、と直感で書き記したので乱文ご容赦ください。

 元気かと問われたら元気ではありません。心配したよ〜🥺という感情を私が受け止めなければならない義務も義理もありません。
 香港人の友達の「香港に対してあんなことが起こっているのに日本のTLはピカチュウばかり」という嘆きが、まさに私が味わったものと一緒だったので、彼女もまた「普通のいい人」の無視・無関心に殺されかけている様を見て、それはまさに私が傷つき苦しみ殺されかけているものなので黙って見てはいられませんでした。

 私を殺そうなど思ってもみない人たちにセカンドレイプを受け、実生活にまで踏み込まれ、心身へのダメージが激しく病院巡りをする日々です。あの人たちは私が今死んでも自分が殺したとは夢にも思わないんだろうなとわかってしまうので、絶望を検査数値を見ながら日々積み重ねています。

 ネット中傷でまた一人女の子が命を落としました。私には他人事とは思えません。

 ツイートに直接言葉を刻むということがどうしてもできませんでした。回復への道のりは遠いです。

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 何卒よろしくお願い申し上げます。


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