残照

「昔、秋葉原にもバスケットコートがありましたよね」
 私の渋谷の廃墟を見せた彼が言う

 少年時代の日曜日の夕方
 京浜東北線の車窓から眺めたバスケットゴール
 父親に手を引かれて歩いた秋葉原

 その時、女子大生の私は一人で道玄坂を駆け上がる

 2020年
 彼の憧憬は秋葉原UDXに
 私の恋心はMEGAドン・キホーテ渋谷本店に

 電脳空間の片隅で宝物を拾い上げる
 あの頃の未来とは違う場所で
 肩の代わりにSNSでコトバを寄せ合い
 胸奥のクラウドに共有する

 世紀末の夕暮れ時の東京の匂いを
 掻き毟られながら拾い直した欠片を
 微かな煌めきを そっと差し違える

 雷鳴のようなギターが三度轟く
 I don't belong here
 あの場所を二人で持て余す

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