イコンの街

 わたしにはだれもいなかった
 ただ風景だけがあった

 そこは美しい街だった
 斜陽の美しさしかない街だった
 外に出してもらえなかったわたしは
 ひたすら窓を見ていた

 窓の向こうはすべてイコンだった
 イコンの中へ、イコンの奥へ
 風にこころを乗せて海まで飛んだ
 星にこころを預けて本を読んだ

 十八歳の三月、
 待ちに待った命のビザが届いた
 わたしのだれかをさがすため
 一目散に駆け出した
 イコンを飛び越え旅に出た

・・・

 それから幾星霜経った
 だれかがいてもいなくても
 とにかく生きねばならなくて
 だれかがいてもいなくても
 イコンはわたしの中にある

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