鼻に残るは君の忘れ香

深く潜る
深く潜るわたしを 私は見る
音もなく雪を吸い込む海
渚に座り 岬に立ち 
結晶を顔に張り付け
私は見る

肌の上で融ける手紙を読む

桜貝の声を 私は聞く
砂まみれの爪で弾く
そこに眠る声を
遥か遠くに隔てられた人の声を
人魚姫だったわたしの声を
私は聞く

怒り 憎しみ 慈しみ
すべては海の底に
わたしを殺したひとたちと ともに
私が殺した人達と 共に

凪も 時化も 津波も 
生も 死も 
すべては潮風と 共に
わたしのうろこと ともに

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