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随想 ーー心を澄ますーー

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心の奥底に潜む声を掬い上げるエッセイ・詩など
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#現代詩

「弔うために生きよ」

 文庫本を閉じる前と同じ教室  聖パウロは今日も回心している  マスールのベールと同じ空…

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coyoly
3年前
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Vanishing Point

 ポケットの中にあるはずの世界が消えた  手のひらに収まる世界が  目の前には一つの世界し…

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coyoly
4年前
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Human Being −魔法使いの弟子−

 ラジカセを持ち入ってくる修道女  静まる教室  「考えなくていいから聞きなさい」  『星…

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coyoly
3年前
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残照

「昔、秋葉原にもバスケットコートがありましたよね」  私の渋谷の廃墟を見せた彼が言う …

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coyoly
4年前
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さまよい

 ここではないどこかを  探す気力すらなかった  そんなところがあると  憶うことすらでき…

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coyoly
4年前
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naked

 他者からの評価を 震えながら待った  逃げたら一生ここから逃げられない  そう言い聞かせ…

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coyoly
4年前

鼻に残るは君の忘れ香

深く潜る 深く潜るわたしを 私は見る 音もなく雪を吸い込む海 渚に座り 岬に立ち  結晶を顔に張り付け 私は見る 肌の上で融ける手紙を読む 桜貝の声を 私は聞く 砂まみれの爪で弾く そこに眠る声を 遥か遠くに隔てられた人の声を 人魚姫だったわたしの声を 私は聞く 怒り 憎しみ 慈しみ すべては海の底に わたしを殺したひとたちと ともに 私が殺した人達と 共に 凪も 時化も 津波も  生も 死も  すべては潮風と 共に わたしのうろこと ともに

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タイムスリップ

音の向こうに 二十歳の娘がいた 玉音放送を耳にし 何を言ってるのか 何が起こったのか …

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coyoly
5年前

幸福

ハッピーエンドを押し付けないで わたしから目を逸らさないで あなたが耳を塞ぐ痛々しさ それ…

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coyoly
5年前
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あはれ私は娼婦

終わるまでの時間をやり過ごしていた 何も感じることはなかった 「気持ちええやろ」「感じてる…

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coyoly
5年前
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美しき天然

土を掘り起こし蛹を潰す 毒霧を撒き虫けらを窒息させる やってくる鳥を睨み猫を追い払う 魚の…

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coyoly
5年前
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微睡みの彷徨

冥府で蹲っていると 突然手を差し出された 暗闇に現れた光 再生への密儀 触れた瞬間 温も…

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coyoly
5年前
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浄夜

汚辱に塗れた肉体を 彼は撫で浄める 特に念入りに 胸を 穢され続けた 胸を たとえその…

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coyoly
5年前
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Different phase/12歳、1月13日の金曜日

小学校6年生の冬休み最終週 朝起きるとシーツが赤黒く汚れていた がに股で階段を降りると 動揺する母は声を潜めて言った 「おめでとう、病気じゃないから」 視界がずれ、世界を踏み外しても 地吹雪の中、血を垂らし ピアノ教室へと歩くしかなかった 鍵盤は重く冷たく硬く 繰り返しもつれる指先から 世界がさらさら脱けてゆく 音は遠ざかり 時空は歪み 感覚と熱と鈍痛が 下腹部に集中する 世界が瓦解する 意味が消失する わたしのこころは わたしのからだを見失っていた

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