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書籍『Character Strengths Interventions』を読み解く #5(第2章後半)

こんにちは。紀藤です。本日もシリーズ「書籍『Character Strengths Interventions』を読み解く」をお届けいたします。

今日のお話も、先日に引き続き、第二章の「シグニチャー・ストレングス(特徴的な強み)」をテーマにしたお話の後半です。

今日は「強みが盲目的になるとき」という、「強みの落とし穴あるある」について詳しく語られているパートとなります。ということで早速みてまいりましょう!

(前回までのお話はこちら↓↓)


第2章 シグニチャーストレングス(特徴的な強み)_後編

「強みを伸ばすか or 弱みを補うか」問題

強みについてよくある疑問の一つが「強みを伸ばすか」or「弱みを補うか」(弱みを改善するか)というものです。結論からすると、このことについて、その結果をいくつか示唆する研究があります。

 Cheabensら(2012)が行った実験によると、16週間の治療期間中へのうつ病の改善の場合、介入は弱み改善群よりも強み開発群のほうが持続的な改善を示した、という結果になりました(ただしこの研究には再現が必要)。

 強み開発群は「リフレクテッド・ベスト・セルフ・エクササイズ」というワークを行いました。これは、自分の強みについて5~7人にフィードバックを集めて、自分の強みを振り返り小グループで話し合い、最終的には強みと職務の適合性について検討して、自分の強みをどう活かすのかを伝える30秒間のピッチを作成するというものです。(リフレクテッドベストセルフについて、詳しくはこちらをご参照ください↓↓)

この研究はもちろん、「弱みを無視すればよい」という話ではありません。ただ、「自分の最高の資質(強み)を活かすことの価値」に対して示唆を与えるものである、ということです。

「特徴的な強み」はどのように機能するのか

「強みを活かす」というメリットはわかったとして、ではその強みはどのように機能するのか?というメカニズムも気になるところ。

このことについて、いくつかの理論と紐づけて説明することができます。(これまで読んできた論文が多数引用されていましたので、そちらへのリンクもご紹介いたします。うざかったらスミマセン汗)

●「特徴的な強み」の使用が、幸福と関係する初期的証拠を発見した。また、目標達成の進捗と、自律性、関連性、能力という基本的な心理欲求の中核的要素を満たすことに関連することを発見した(Linleyら)

詳細はこちら↓↓↓

●「特徴的な強み」の使用は、個人の「調和のとれた情熱」を高める。そして調和のとれた情熱はより高い幸福感につながっていた(Forest et al, 2012)

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また「個人文脈」であれば以下のような強みの成果が紹介されています。

・強みは努力と忍耐を高め、それによって幸福感を高める(Dweck, 1986)
・強みは人間関係の満足度を高める(Gable, Reis, Impett, & Asher, 2004)
・強みは、快楽的適応を克服するのに役立つ(Diener, Lucas, & Scollon, 2006)

そして「組織文脈」であれば、以下のような強み活用の成果が紹介されていました。

・ポジティブな情動が、特徴的な強みの活用とワーク・エンゲージメント、意義、職務満足度、職務遂行能力、組織市民行動などの職務成果との関連を説明する媒介因子であることを説明した(Littman-Ovadia et al., 2016)

詳細はこちら↓↓↓

これまで、強み論文で読んできたものから紹介されたものもいくつもありましたし、それ以外のものもあり、なかなか興味深いものでした。

「強み」が”盲目的”になる4分類

次に見ていきたいのが、「強み」を探求する際に、多くの実践者にとって躓くポイントになる「ストレングス・ブラインドネス(強みについて盲目的になるとき)」です。

以下、自覚度合いが低いものから順に4分類として引用・説明がされていました(Niemiec, 2014c)。

パターン1:強みに対する一般的な無自覚

自己認識の欠如や、自分が何者であるか(アイデンティティ)の不一致などの結果として現れます。当然ですが、”自分自身”に矢印を当てる思考習慣がなければ、自分の強みも弱みも、あるいは自分が大事にしたい価値観も、自分が興味を持っている関心事もわからないままです。

就職活動の自己分析で「あなたが得意なことはなんですか?」と問われたことがある方は少なくないかと思いますが、あれは就職するために問うためのものではありません。

人生は「自分」と共に生きていくわけですが、その自分がどのような能力・価値観・興味を持っているのかを深く考えることは、「強み」に限らず重要であるといえそうです。(そのような内省的な心理マインドをもたないことが多い状況を、著者のニーミック博士は著書内で悲しんでいました)

パターン2:強みの意味を繋げられない

パターン1は、そもそも内省的な問いをもたないため、強みが理解できていない、というケースですが、パターン2は「強みの意味の認識がやや粗い」といえるパターンです。

たとえば、そもそも回答が漠然としていたり(例:「自分には強みはありますよ(何かわかんないけど)」)とか、性格的強みや興味、才能やスキルが混同しているパターン(例:「音楽を聞くのが好きだ」「野球が得意」など
)があるようです。

パターン3:強みを「特別なもの」ではなく「普通なもの」と捉える

このあたりになると「強みに対して自覚的」になってきます。ですが、その上で多いパターンが「ああ、この性格ですね。確かに私はそういう強みはあるかもですね。ただ、大したことはないと思いますけど」という感想を持つ状況です。

これは、自分の強みを軽視している、無頓着である、というパターンです。
これが何が問題かというと、自分の核になる特徴に目をつぶっており、取るに足らないものと認識していることが「固定マインドセット」(=自分は変わらないと思う)になっている可能性があります。そうなると、「強みの過少使用(使わなさすぎ)」へと繋がる可能性があります。
 
すべての人は、100%自分の強みを使えているとは限らない」と著者は述べており、強みの活用に関しては、新しいアプローチ、新しい使い方、微調整、新しい視点の開拓の余地がありそうです。自分の強みに好奇心を持ち「成長マインドセット」で取り組むことで、強みを伸長させる可能性を持つことがポイントのようです。

パターン4:強みの使いすぎ

最後のパターンは、「ある特定の状況において、その人が自分の強みをあまりに強く発揮してしまうこと」とされています。

たとえば、好奇心が強すぎておせっかいになる、リーダーシップが強すぎて自己アピールが強すぎる、慎重さの強みを過度に発揮してしまい身動きがとれなくなる、謙虚さの強みを過度に発揮して個性を押し殺してしまう、、などなど。

懸念すべき点は、強みの使いすぎは人間関係に影響を及ぼすものの、「自分自身はその影響に気づいていない場合が多い」ということです。この対処方法は後に続く章で語られますが、一つのポイントは「マインドフルな強みの活用を行う」ということです(強みを使っている際の、自分の内面に焦点をあてる)。

強みを新しい方法で活かすためのヒント

第二章の最後では、特徴的な強みを新しい方法で活かすためのアイデアが記載されています。

この内容は、英語バージョンの内容「強みを新しい方法で使う(2パターン)」と、日本語翻訳版(『強みの育て方』)の「強みの小さな使い方の例」で違っていましたが、いずれも興味深い内容でしたので以下引用させていただきます)

<特徴的な強みを新しい方法で使うためのアイデア>
●創造性
・問題のひとつを考え、2つの可能な解決策を考えてください。解決策を非言語的に誰かに(アクトやマイムなどで)示してみてください。
・無生物(例えば、クリップや爪楊枝など)を意味のある何かに変えてみてください。
●好奇心
・初めての食べ物を試してみてください、できれば自分の文化と異なるもの。
・異なるルートを使って新しい地域や近所を探索してみてください。
●判断力(批判的思考)
・自分とは異なる視点からの政治番組を見て、心を開いてみてください。
・異なるアプローチを持つ人(例えば、ベジタリアンなど)に1、2の質問をしてみてください。
●向学心
・オンラインでガンジーの原著を読んでみてください。
・好きな科目について考え、インターネットで調査をして、新しいことを発見してみてください。
●大局観
・今日の交流の中で、まずはしっかりと耳を傾け、次に自分の考えや思いを共有してみてください。
・遭遇した最も賢い引用を考え、それに基づいて行動を起こす方法を一つ考えてみてください。
●勇敢さ
・自分の関心分野に合った新しい冒険や趣味に挑戦してみてください。
・個人的な恐怖のひとつを考え、それに立ち向かうための小さな健康的な行動をとってみてください。
●忍耐力
・放置していた小さなプロジェクトを完成させてみてください。
・小さな目標リストを作り、今後遭遇するかもしれない問題にどう対処するか計画を立ててみてください。
●誠実さ
・内なる真実を表現する詩を書いてください。
・「部分的な真実」を話した家族や友人に連絡して、完全な詳細を伝えてください。
●熱意
・ユニークな方法でエネルギーを発散させてください — ベッドの上で跳ねたり、その場で走ったり、ヨガや体を伸ばす運動をしたり、子供やペットを追いかけたりしてください。
・鮮やかな服装や靴、アクセサリーを通じてエネルギーを表現してください。
●愛情
・小さなプレゼントを贈って気持ちを伝えてみてください(例:花やスターバックスのコーヒー)。
・あなたが使ったり見たりした強みについて誰かに話して、その価値をどれほど評価しているかを伝えてください。愛情を込めた言葉で確認してください。
●親切心
・お金が切れた誰かの駐車メーターにコインを入れてあげてください。
・病院や老人ホームを訪れ、孤独な人の相手をしてあげてください。
●社会的知性
・通常、あまり話さない人と会話を始めてみてください。その人はチェックアウトカウンターの女性やテレマーケター、新入社員かもしれません。
・挫折、失望、緊張を感じたとき、それを健康的でわかりやすい方法で表現してください。
●チームワーク
・チームメンバーが示した強みを見つけて、評価を表現してください。
・過去のポジティブなチームインタラクションを思い出し、その瞬間を頭の中で再生して、チームミーティングで共有してください。
●公平さ
・通常は軽視されたり嫌悪されたりする存在(例えば、人や動物)を見つけ、正しく扱うために努力してください。
・通常、グループや会話から除外されがちな人を会話に加えてください。
●リーダーシップ
・自分が信じる原因を支援するためのグループをまとめ、リードしてください。
・直属の部下と話し合い、彼らの主要なキャラクターの強みをどのように活かすかを検討してください。
●寛容さ
・小さなイライラや恨みを手放してください。
・間違いを犯すことを自分に許可してください。
●謙虚さ
・通常、多く話したり共有したりする傾向がある相互作用を見つけ、その役割を逆にして相手がより多く話したり、あるいは共有したりするようにしてください。
・自分の成長や問題について、信頼できる人にフィードバックを求めてください。
●思慮深さ(慎重さ)
・通常は簡単に決めるような決断をする前に、1分間考えてみてください。
・今日残りの時間の各時間について、どんなに些細なことでも計画を書き留めてください。
●自律心
・今日、イライラしたり神経質になったと感じる次回は、その経験を10秒間静かに呼吸して感じてみてください。
・食べたものや飲んだもの全てを記録して、追跡表に記入してください。
●審美眼
・20分間、美しい環境の中で静かに立ち、外の音に耳を傾けてください。
・非凡と見なされる音楽や作品を聴いて、その制作に込められた才能に感嘆してください。
●感謝
・通常は認識されない人に「ありがとう」と言って、感謝の気持ちを伝えてください。
・誰かの机の上にポストイットで感謝の気持ちを書いたり、思いがけないメールを送ってみてください。
●希望
・自分が抱える問題や困難について考え、2つの楽観的で現実的な思考を書き出してみてください。
・希望のメッセージを伝える映画を観て、そのメッセージが自分の人生にどのように当てはまるかを考えてみてください。
●ユーモア
・他の人と一緒に何か自発的で楽しいことをしてみてください(例えば、変な声を出す、体を変な形にする、面白い話をするなど)。
・まだ見たことのない古典的なコメディ番組を見て、できるだけ多く笑ってください。
●スピリチュアリティ
・自分のものと異なる宗教やスピリチュアリティについて読んで、そのコアメッセージがどのように一致するかを探ってみてください。
・この瞬間の「神聖さ」を考え、この瞬間に意味を見出してみてください。

Chapter2より引用 著者にて翻訳
特徴的な強みを新しい方法で使うためのアイデア
『強みの育て方』 P45-46

まとめ

改めてこの著書を読みながら、これまで集めてきた様々な強みについての知識や論文が再整理されていく感覚を得ています。

たとえば、特徴的な強みはどのように機能するのか?についても、これまで「ああ、この論文は読んだな」と思うものを再度引用することで、その論文の信頼性を確認することに繋がったり、またよく出てくるトピックの「強みが”盲目的になる」というのも、「自覚的でない→自覚的」というステージを4分類としてこのように並べられていることで、より頭の中で整理がつくようになりました。

こうした概念が、日本でももっと伝わるようになると良いな、と思いましたし、それらを伝えるための言葉を持つようになりたい、とも感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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