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芸術研究科目<芸術研究ライティング>2・書評を書く

課題:武蔵美通信、芸術研究コースの科目、美術系の本を探して、書評の作成をする。書籍は自分で選択する。書評を書く前に、選択理由、書評を載せる場合に考えられる媒体なども記すこと。

以下レポートより

選択書籍:『カフェから時代は創られる』飯田美樹 著 クルミド出版 2020年

タイトル:カフェに住んでいた「天才」たちと出逢う

 飯田美樹著の『カフェから時代は創られる』は、2009年に出版され た書籍を2020年に新たに編集し、版元を変えて出版したものである。 これは、フジタに関する本を探していて見つけたカフェ文化研究論であるが、文化論を超えて、カフェに関わりのある人間「天才」たちと彼 らを支えた人々の成長物語としても読むことができる重層のテキストとして、興味深く感じたために紹介することにした。 飯田氏は、子供の頃からフランスに焦がれ、大学在学中にパリ政治学 院に留学、その間にパリのカフェ文化に興味を持ち、のちに研究テーマ としたという。
 内容は全部で6章に分かれている。1. カフェと「天才」たちとの不思 議な関係、2.カフェに通った「天才」たち、3.カフェに出会う以前の 「天才」予備軍の共通点、4.カフェという避難場所、5.商売人として の主人、6.カフェと人の相互作用、以上で、そのほかに章の間にミニコラムが挟まっている。 カフェ文化の担い手として登場するのは「天才」たち、日本のフジタ 、ピカソ、モディリアーニ、キスリング、ボーヴォワール、サルトル、 マン・レイと、壮大なメンバーである。著者はカフェ文化研究者である 。自身もカフェの経営を経験し、パリのカフェで取材を重ね、「天才」 たちの膨大な随筆の中に残されたカフェに関する記述を余すところなく 取り上げて、提起するテーマごとに振り分け、引用している。その引用 は確かに著者のカフェ文化への気づきを後押ししている。 カフェの場所は主にパリである。しかしカフェ文化発祥といえば、ウ ィーンを忘れてはならない。というわけで引用文にはときおりツヴァイ クも顔を出す。
 文学と文化史にも名を残すパリのカフェとして取り上げられているの は大まかに拾うと、カフェ・ドゥ・マゴ、カフェ・ド・フロール、ロト ンド、クローズ・デ・リラなどである。他にも主役級ではないがカフェ の名前が随所に見られた。現在も残るカフェもあれば、もはや昔の世界 になってしまったカフェもある。 カフェ・ド・フロールでボーヴォワールやサルトルが執筆活動をして いたというのは有名だが、この本を読んでいると、読者はいつの間にか、この「サードプレイスとしてのカフェ」で彼女や彼が懸命に生きてい る様子を、自分も彼らの隣のテーブルに座ってその世界に入り込み、目の前で見つめているかのような臨場感を味わうだろう。天才たちは読者 のすぐ隣で生きて呼吸し、語り合い、議論に白熱する。フジタもボーヴ ォワールも、カフェに通いながら徐々に自分たちの確執や問題点と真摯 に向き合い、自分たちの目指すところへと成長してゆく。著者は資料を 読み解きながらそれを読者に丁寧に提示している。 著者は実際にパリのカフェで知り合いを作り、「哲学カフェ」という ワークショップに参加し、カフェに集う人々との関係を構築してゆく経 験を語る。その瞬間、著者自身もカフェ文化の一員になり、パリのカフ ェ文化の一端を担っているのだ。研究者としてはこの上ない体験だろう 。
 開花途中の天才たちが集うカフェで、さらに、その才能を持つ「アトラクター」(=魅力を持ち、他の人々を集める人たち)に魅惑を感じて 引き寄せられる「何者かになりたい」人間たちもいて、カフェのオーナ ーや店主がいる空間は透明で熱い空気で覆われているのだ。やがて「アトラクター」として萌芽してゆく人間もいれば、才能があるのにそれを磨か ずに朽ちてゆく人間について取り上げられていて、人生の深淵をも感じ させる。
 著者は、執筆にあたって、膨大な資料を収集し読み解いている。 カフェ文化形成の歴史をそれを作り出して率いてきた作家や画家という芸術家たちの言葉を巧みに配置して、読者に向かって提示し、問いかけている。おそらく「カフェとは何か」を著者は読者に問いかけ、また自 分が探し出して感じた「カフェ」について論じている。無論、お客の立 場である芸術家やその卵たちだけではなく、カフェを経営し、運営するオーナーたち、店長や店員たちにもスポットを当てて、カフェに居る人 たちの関係性や情景を余すところなく書き出している。 原稿用紙にして1200枚強の論説は読み応えがあり、読者をヨーロ ッパのカフェに取り込んでしまう。情報量が多いためと著者が伝えたい テーマが巨大で膨大であるため、読者は本の中で時折、迷子になるかも しれない。もう少し整理されていると、長編ものを読み慣れていない読 者でも手に取りやすいかもしれない。 だが、どこから読んでもあるは、一つの項目だけを読んでも何かしらは感じる。 日々の忙しない時間の中で少しだけ休憩し、コーヒーでも飲みながら 、ちらりとページをめくって、出会ったエピソードを拾い読むだけでも 新しい発見があるのではないだろうか。

課題を終えて:先の、書評を書く前に記す項目のうち、媒体を考えることを忘れてしまい、減点になってしまった。それでも、先生の講評はとても暖かいもので勉学を続ける気力が湧きました。書評を書く、って本当に難しいと感じた課題だった、、、。

(芸術研究ライティング課題1:美術に関するエッセイを書く)


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