『あのころ、天皇は神だった』ジュリー・オオツカ(小竹由美子訳)【読書感想文】#38
ジュリー・オオツカ(岩本正恵・小竹由美子訳)『屋根裏の仏さま』(新潮クレスト・ブックス)が良かったので、『あのころ、天皇は神だった』をつづけて読む。小竹由美子訳。フィルムアート社。
こちらがデビュー作だそうで、そう知って読むせいか、『屋根裏の仏さま』へ通じる書き方が垣間見え、愉しい。
具体的なのに抽象的(象徴的)で、ひとりだけど複数の語り、詩的な繰り返し、などなど、独特の文学は本作に早くも顕れている。
日経移民の強制収容という状況の残酷さに比して、風景の描写が美しい。
リズムも良く響きスラスラ読め、状況とのギャップが際立ったり、過酷さを和らげたりする。緩急がある。
収容所へ向かう準備をする母、列車での姉、収容所で育つ弟、帰ってきた一家、取り調べを受ける父、と章毎に視点がかわる。
列車や収容所では自然の美が強調され、夢だったり過去だったり非現実が混ざり合って幻想的ですらあり、悲惨さは薄れる。
或いはそうでもしなければ生き延びられなかった、ということなのかもしれない。
一方で、行く前や戻ってきてからの、日常生活の侵食されたり歪んだりするさまのほうが、辛さはいや増す。
目立たないように存在を消す。
さきのアカデミー賞授賞式で、アジア人俳優のプレゼンターが白人俳優の受賞者に無視される、という事件がおもいだされる。
マイクロアグレッションは日系人(をはじめとするアジア人)が目立たないよう生きてきたからで、その根っこを遡れば強制収容という悍ましい迫害の歴史がある、とそんなことを考えたりする。
差別は日常に潜む。それをするのは僕かもしれないし、被害と加害の立場はいつでも逆転しうる。そんな構図はいまもつづいている。決して他国や過去の話だけではない。
もうすぐ翻訳の出る著者の次作は、認知症と水泳が中心にあり、移民や自身のルーツを扱ったこれまでの作品とは異なる物語になるそうだが、果たしてどうか。ますます愉しみである。
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