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Oneness ー音楽の魔法ー

ジャズのライブシーンでは、同じ曲でもその時々で細かな展開が変わっていくということがよくある。

ジャズは紙切れ一枚のようなシンプルな譜面で演奏をする。シンプルな譜面というのは、メロディとそれに付随するコード(和音)書かれているだけのものをいう。それは、ジャズという音楽の性質上、決め事をできる限り省いて自由度を高めるということが求められるからだ。また、リハーサルもなく演奏する現場も多く、渡された譜面ですぐさまその世界を作り上げなければならない。その時に、複雑な進行が書かれた譜面では仕事にならないのだ。

シンプルな譜面だからこそ、遊びがあり自由に世界を行き来できる。音楽は指示がない限り、ときが進行し続ける。音というのは、その実体がないにも関わらず、時間という制限の中に存在しているところが実に興味深いのだが、そのテーマはまた別の記事で追求しよう。ここで言う遊びと自由というのは、同じ曲でもその世界を変えることが出来るということだ。基本的に譜面を演奏者に渡した者がその世界を提案する役割を担うことになっている。ボーカル付きのジャズであれば、歌手が譜面をメンバーに渡し、やりたい世界観を提言する。具体的には、テンポやリズムを示唆する。

メンバーは「そういう世界ね!」と理解するやいなやその世界観での糸を紡ぎ出す。演奏が始まってしまったら譜面のFine.フィーネが来るまで音楽は進行し続ける。その途中で、テンポやリズムを変えて全く別の世界観へ誘うこともある。譜面にその指示があれば事故はない。でも、その指示を書いていなくとも、メンバーの心がひとつになっていれば別の世界への移行はスリリングな感覚を持ちながらもスムーズにできる。

そんな劇的な展開をしなくても、私達は演奏しながら常に言葉ではない何かで会話をしている。それはまるでさながらエスパーにでもなったかのようで、音楽の中で繰り返し行われる。メンバー全員がひとつの気持ちになった時、予想もしないような化学反応が起こることもある。それは筆舌に尽くしがたいほどの快感だ。音楽やっててよかった!と思う瞬間だ。

女性はいつも、男性に対して「言わなくてもわかってくれたらいいのに」と思う。男性はいつも「言わなくてもわかっているだろう」と思う。この差は男性と女性の脳の違いによって引き起こされることだが、うまくいっている時の音楽に関しては完全にそんな行き違いはない。それは、恐らく個でありながらも個ではなくなっているからなのだと思っている。

なんでもそうだと思うのだが、人は個でありながら全体ひとつになった時に感動を覚える生き物なのではないだろうか。これは、心理的なことだけではなく肉体的にもそうだと思うが(後者の方は超絶くだらない拙著『アムールの交差点』の中の”世界童貞ハンター”を読んでお勉強していただくこととして)今回は心理的なことに言及したい。

これは私の持論だが、人は ”個” を経験するために ”ひとつのもの” から離れてこの世に来ていると信じている。個であるがゆえに伝わらず、個であるがゆえにすれ違う。でも、個であるがゆえにひとつになるということが経験出来るのだ。影の中に影を見つけられないように、光の中に光を見つけられないように、全体になってしまったらそれぞれの ”個” は見つけられない。だから敢えて私達は ”個” として別れた状態で生きているのかな、と。

音楽はその ”個” をひとつにできる感動的な魔法なのかな、と思う。それは音楽を奏でる方も然り、聴く方も然りだ。私達は振動しながらそこに在り続けている。そして音楽は振動そのものだ。歌は声帯を振動させ、体を振動させ、空間を振動させ、鼓膜を振動させ、その音が心に届いて、そしてやっと聞き手の心が振動する。つまり「心が震える」状況が生まれるのだ。物理的な振動が心理的な振動に変化する時、演奏者と聴衆者の間に感動が生まれるのだと私は思っている。それはまさに演奏者と聴衆者を ”ひとつにする” 体験なのではないだろうか。音楽は魔法だ。正しい呪文を唱えることができれば、その場にいるみんながひとつになれる。ライブハウスやコンサートホールなどで生演奏を聴いてぜひ体験して欲しい。

ああ、私の中にある音楽の秘密をここまで語り、なんだか清々しい気持ちだ。こんな清々しい気持ちの日には、とびきり大きなオムライスが食べたい。Uber? いいや、他人のグランデは私のショート。大盛りを謳いながら小鳥の餌くらいの量だった時の失望に地団駄を踏む経験とはもうおさらばだ。私は学習したのだ。グランデもチョモランマも、私自身が切り開く。あなたの大盛りが私の大盛りなのではない。そのような世間の大盛りとは決別し、私自身による大盛りを築こうではないか。私による私のためだけのチョモランマオムライス。なんなら私自身がオムライスになってもいい。雪のはだけたこのコンクリートジャングルで声高らかに叫ぼう。

I am Omelet Rice!!

#昔
#山田邦子が
#国際便の機内で
#飲み物を注文する時に
#アイアムオレンジジュース
#と言ったのがツボです



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