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D.A.ノーマンの近著から考える「人間中心デザイン」から「人間”性”中心デザイン」へのモード転換

※本文章は、2021年10月末日にHCD-Net会員向けニュースレターに寄稿したHCDコラムの転載です。


D.A.ノーマンの近著『より良い世界のためのデザインー意味、持続可能性、人間性中心

昨年10月に、ドナルド・A・ノーマンによる近著"Design for a Better World-Meaningful, Sustainable, Humanity Centered."(MIT Press, 2023)の和訳書『より良い世界のためのデザインー意味、持続可能性、人間性中心』(新曜社、2023年)が出版されました。
「人間中心デザイン」という概念の提唱者でもあるノーマンは、HCDに関わる私たちに多大なる影響を与え続けているデザイン研究者の一人であり、『誰のためのデザイン?』(増補・改訂版、新曜社、2015年)をはじめとする彼の著作から学ばれた方も少なくないと思います。

「人間中心」から「人間性中心」への転換

そのノーマンが、近著においてかつて自身が打ち立てた「人間中心デザイン(Human Centered Design)」をある意味で自己批判し、「人間”性”中心デザイン(Humanity Centered Design)」へとデザインが向かう先の転換を提案したことは、HCDコミュニティにとっては注目すべきことでしょう。
「脱」大量生産・大量消費型経済をはじめとする持続可能性に関する議論を受けて、近年「人間中心」から「人間性中心」へのモードチェンジが急速に求められています。ノーマンも当然この流れを汲んだ持論を近著で展開していますが、私が個人的に最も関心を持ったのは「デザインの民主化」についてのノーマンの考えです。

新たに加えられた「人間性中心デザインの5つめの原則」

この観点は、本書で提唱されている「人間性中心デザインの五つの原則:人間中心デザインから人間性中心デザインへの転換ー五つの基本原則」に表れています。ノーマンはかつての人間中心デザインの原則を4つ挙げたうえで、それらの4原則に新たに5つめの原則を追加しています。それが「コミュニティとともにデザインし、コミュニティによるデザインを可能な限り支援する。」(229頁)です。この新原則はデザイナーの役割を、従来の「誰かのためのデザイン( design for〜)」を施す立場から、「誰かとの(design with〜)デザイン」と「誰かによる(design by〜)デザイン」を手助けすることで、コミュニティの人々自身が自分の関心事を満たせるように支援する立場へと転換させていく必要性を訴えているのです。(正確には原則2と3も修正されています。詳しくは書籍をご参照ください。)

「デザインの民主化」では足りない

そして、誰もがデザインできるようになるための教育や道具を整備し、提供することの重要性についても言及しているのですが、ノーマンの提言が素晴らしい点は、単に知識や道具を提供するだけではデザインの民主化は不十分であることを指摘している点です。では、何が必要か?
ノーマンは、「失敗」を祝福し、より良い方向に向かうために人々が互いに助け合うことと、そのためにはまず、専門家と非専門家の間の隔たりを取り払うことだと言っています。HCD-Netで教育事業担当理事を拝命している私にとって、今後のHCD教育を考えるうえでノーマンのこの言葉は大きな刺激になりました。

HCD-Net教育事業部は、今後より一層HCD教育の機会を提供するとともに、実践者が安心して失敗でき、失敗から学ぶことで、互いに成長しあえるような場づくりを目指したいと考えています。教育事業部の活動に関心のある方は、ぜひ私たちの仲間になってください。お声がけをお待ちしています。

<参考文献>

※サムネイル画像は画像生成AIが作成した「人間中心デザインから人間性中心デザインへのモード転換」のイメージです。






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