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セルヴェの考え ♯2 パナシェとグラスホッパー

海の上をカモメが優雅に飛ぶ。かもめのジョナサンを思い浮かべるような鳥だ、凛々しく飛んでいる。
これにセルヴェが話す。

麗な朝だな。まるで映画にでそうだ。

と、パイプを吹かす。パイプはリバプール型だ。

このパイプはこの船で知り合った男性、カサブランカで降りた人に頂いたものだ。モロッコはすべて青い街があると聞いた。その人は革製品を作る仕事だそうだ。
その男は小柄で、落ち着いている。カサブランカには友人がいて、その友人に会いにいくと言っていた。
男は船が好きでイタリアからよくモロッコまでいく。
セルヴェはロックマンの腕時計を見る。

さて、そろそろコラツィオーネ。

コラツィオーネはイタリア語で朝ごはん。客船にはルームサービスが豪華だ。毎日朝食、昼職、夕食が変わる。今日はパンだ。セルヴェはチャパタというパンを食べる。これはイタリア語で「スリッパ」という意味だ。スリッパのような形をしている。生地に加える水分が多くしっとりとした食感が楽しめる。
セルヴェはこのパンが好きだ。コスタ・マリーナにある雑誌を手にして、朝食を食べた。

ファション雑誌で、イタリア語で書かれている。本当は新聞が読みたいところだ。
セルヴェはラ・レプッブリカが好きで、よく読んでいた。

今日で14日目だ。まだ先は長い。パンを食べながら船でやることを考えた。

さてと、海の写真でも撮るか。

そう言うと部屋に戻って、カメラを取り出す。ヤシカフレックスAIIIは1960年代に生産されたカメラ。白黒写真になる。昼頃まで、優雅に椅子に座って写真を撮る。セルヴェは昔からカメラは好きで、色彩のある現代よりモノクロの世界に興味があった。マトリョーシカ作家として、モノクロの世界は非常に興味がある。黒だけのマトリョーシカがあってもすごく楽しいし、あってもいい。マトリョーシカは自由だ。ただの民芸品ではない。大人の趣味だ。だが、子供から大人まで楽しめるものは数少ない。例えば絵本やチェス、子供から大人まで楽しめるのはこの辺だろう。マトリョーシカは世界的に有名なものだが、持つ者は少ない。
興味のあるコレクターは、セルヴェの所にやってくる。彼はオーダーメイドとレディメイドの2つのパターンがある。オーダーメイドのほうが圧倒的に多い。
工房からでる時、最後の仕事は日本からの顧客だった。なんでも昔話の桃太郎が好きで桃太郎のデザインのマトリョーシカを制作して欲しいと言われた。
できた時、その日本人はかなり喜んでいた。自分でも最後にふさわしい仕事だった。

海の写真は良く撮れた。その時、トビウオが跳ねた。
その時のシャッターチャンスは最高の出来。モノクロだが、感動ものだ。

13時頃、バーでカクテルを呑みながらいつもの日記を書いていた。
その時、1人の男性が喋りかけてきた。

やあ! なんだ? 日記書いてるのか!?

この男はマクソン・クラリー、大柄のルーマニア出身でイタリアのジェノバ在住だ。彼は速記者をしている。マックというネームで呼ばれる。彼はアルゼンチンに行くそうだ。
彼は速記者の傍ら、雑誌ライターをしている。今回アルゼンチンの民族衣装ガウチョの取材に行くところだ。船に乗って11日目に出会った。
手にはパナシェを持っている。

やあ、マック。そうだ日記だ。君はパナシェを呑んでいるのかい?

ああ、このビール美味しい! 君は? その青色のやつなんだったかな?

これはグラスホッパーだ。

あー! それね!

呑むかい?

いいや、甘口は苦手でね。

辛口のほうがお好きか。

まあね。

僕は甘口でも辛口でもいける。ワインは呑めるかな?

いやワインは苦手さ。

イタリアに居るのにかい?

生まれはルーマニアさ、まあワインが苦手なルーマニア人がいてもいいだろう?

そうだな。僕はワインよりカクテル派だ。

おれはビールやウイスキーがいいな!

ウイスキーか、いいね。なにを呑むのだい?

ジェムソンはすきだ!

ジェムソンか、アイリッシュは僕もすきだ。どうだ、今度呑みにいくかい?

いいね! またその時連絡くれ。

わかった、君の番号に連絡するよ。

ああ! またな! ガハハハハ!

そう言うとマックはバーの女の子に話しかけに行った。

まったく、元気なお人だ。

マックとお酒の話で盛り上がった。この話はセルヴェも好きなので、楽しい思い出だ。「あの男とはどこか気が合う」そう思いながら、グラスホッパーを飲み干した。

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