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「鬼滅の刃」の名セリフで思い出したのは、自ら選択権を持つことの大切さ:みずほ銀行に勤めている◯年前の私へ(財務サービス部編3)

経営者は選択肢を増やすことに力を注ぎ、選択権を他人に渡している場合は許容可能なリスクを測定する

生殺与奪の権を他人に握らせるな!!

これは人気漫画「鬼滅の刃」の第1話で水柱と呼ばれる冨岡義勇が主人公の竈門炭治郎に対して発するセリフです。

実は財務サービス部で学んでいたオプションについても、同じことが言えます。

オプションは日本語で言えば「選択権」ですが、金融派生(デリバティブ)商品で言えば

・オプションを売る
・オプションを買う

の2種類があります。

そして、オプションを売るということは、選択権を売った相手に渡してしまうことになります。

銀行で扱うオプション取引としては

・9月23日に1$=100円で3,000万円相当の円をUS$で買う

といったものがあります。

この場合、そのオプションを買っていれば、その権利を行使するかどうかは本人の自由です。為替相場が自分にとって有利であれば、権利を行使して3,000万円相当の円を買えばOKです。

けれども、問題はオプションを売っている方。選択肢は自分ではなく、そのオプションを買った相手が持っています。そして、その権利を持っている相手方は、その時の市場との関係で自分にとって有利な状況であれば、必ずその権利を行使してきます。

例えば、昨今のように円安が進行して、仮に円相場が1$=150円とすると、オプションを買った側は必ず権利を行使してきます。一方、オプションを売った側は、その権利行使に応じる義務があるので、

・オプションを買った側:必ず利益が出る
・オプションを売った側:必ず損失が出る

訳です。

オプションを買うにはオプション料を支払う必要があります。一方で、オプションを売る側は、そのオプション料をもらえる権利があります。そこで、銀行では既存の融資と組み合わせて、魅力的な商品を作るためにオプション売りと組み合わせた融資商品がありました。

仮にそのオプション料を100万円とすると、「融資を受ける側は実質的な負担が100万円減る」というメリットがあります。しかしながら、デメリットとしては、為替相場や金利が当初に設定してたよりも、逆の方向に行った時に、「100万円以上の損失が出る」可能性があるのです。

そして、実は実際には、オプション売りとセットにした金融商品が原因で、お取引先が借りたお金を返せない状況が何件か発生していたのです。

私のような研修生は、そのような難しい案件のことはあまりタッチしませんでした。けれども、部署内では、一部の方々が支店や審査部等を交えて、オプション売りに関する不良債権問題について時々打合せされていたのです。

つまり、オプション(選択権)を売るということは、時には「生殺与奪の権を他人に握らせる」ことになります

会社経営では、売上を上げる、利益を確保する、ために様々な選択肢を用意した方が有利です。

もちろん、選択肢を用意するにはそれなりのお金もかかりますが、想定されるリスクはある程度計算できます。先のオプション取引で言えば、一定のオプション料を支払えば、仮に買ったオプションを行使しなかったとしても、損失としてはオプション料の範囲に収められます。

しかしながら、オプションを売っている場合、市場の動向によっては、損失は1,000万円にも、1億円にも膨らむ恐れがあるのです。

そして、「鬼滅の刃」で冨岡義勇のセリフに接した時、私が真っ先に思い出したのは、このオプション取引のことでした。

中小企業の場合、時には販売先や仕入先、また銀行などに結果的に選択権を渡してしまっていることがあるかもしれません。

けれども、その選択権が「生殺与奪の権」になっていないでしょうか。もし、他者に生殺与奪の権を持たれているとすれば、それは大きなリスク。まずは、それが許容可能な範囲内にあるかどうかを確認しましょう。

内容の薄いビジネス本を何冊も読むくらいなら、「鬼滅の刃」を何回も繰り返し読んだ方が、よほど学びが多いです。


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