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001 |イベントレポート|「一般社団法人CookForJapan」の設立記者会見


#CookForJapan マガジン」では、CookForJapanの取り組みの告知やレポート、さらにはオリジナルコンテンツを配信していきます!

第1回目は、2月3日に開かれた「一般社団法人CookForJapan」の設立記者会見の内容をノーカット(全文文字起こし)でお届けします。

記者会見概要

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2020年2月3日 16時~ 場所:カステリーナ横浜

#CookForJapan 出席メンバー
神谷隆幸(南仏カーニュ / La Table de KAMIYA)
石川雄一郎(東京都港区 / 土佐しらす食堂二万匹)
江六前一郎(編集者)
小野田裕也(愛知県豊田市 / 車街酒場 WAO!)
表原 平(徳島県上勝町 / ペルトナーレ)
坂下寛志(石川県金沢市 / BAKE SHOP bien Bake)
サガワショーコ(新潟県佐渡島 / レストラン&バーこさど)
スラス・ステファン(東京都立川市 /立川カフェ Stephan and Joe)
関口幸秀(カステリーナグループ)
違 克美(神奈川県横浜市 / 旅するコンフィチュール)
西 剛紀(兵庫県尼崎市 / リビエール)
野田一寿(神奈川県横浜市/ Hitotsu)
丸橋裕史(丸橋企画株式会社 / プロデューサー)
渡邉泰史(埼玉県北浦和 / パティスリーポルトボヌール)

神谷隆幸:設立の経緯と活動の主旨について

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被災地農家応援レシピが始まったきっかけを説明します。

僕(La Table de KAMIYA / フランス・カーニュ)は、妻のクレール・マリと2人で、日本人の生徒さん向けにオンラインのお菓子教室・料理教室をやっています。たまたま妻のクレールがリンゴで作ったタルトタタンのレシピを(オンライン教室に)あげたとき、生徒さんが作ったものをTwitterに投稿してくれました。そのタイムラインのすぐ下に、長野が台風で被害を受けたというネットニュースが目に入ったんです。

そこで、「これからタルトタタンを作るならば、長野のリンゴを使ってほしい」と生徒さんたちにお願いしました。けれども、その程度の購入では足りません。

なのでTwitter上で、僕のダイレクトメール(DM)に被災地のリンゴを買ったレシート等を送ってくれたらクレールのタルトタタンのレシピをお返ししますと発信しました。これが「#被災地農家応援レシピ」が始まったきっかけです。

それから、この投稿が拡散されると、すぐに坂下寛志シェフ(BAKE SHOP bien Bake / 石川県金沢市)が賛同し、お店で出しているクランブルのレシピを投稿してくれました。

続いて、西 剛紀シェフ(リビエール / 兵庫県尼崎市)や表原 平シェフ(ペルトナーレ / 徳島県上勝町)もレシピを投稿。賛同してくれるシェフたちは増えていきました。さらにシェフたちだけでなく料理研究家の方々、一般の方や編集の方も賛同してくださったおかげで、120以上のレシピが集まっています。

これらの投稿を見て、「一体どこから被災地のリンゴを買ったらいいの?」という疑問には、食べチョクさん(株式会社ビビッドガーデン)やポケマルさん(ポケットマルシェ)がすぐに応えてくれました。特に食べチョクさんは、被災地のものは手数料を取らないという被災地支援をすでに始めているところでした。そのおかげで、長野のフルプロ農園(長野市 / 徳永虎千代 代表)のリンゴはすぐに完売。このように、僕らの活動を支えてくれる人たちがいます。

ここにいる #CookForJapan のメンバーは、全員Twitterつながりです。同じくプロデューサーの丸橋裕史さん(丸橋企画株式会社)もTwitterからつながりました。なので、この会場で初めて会ったメンバーがほとんどです。(Twitterのアイコンが写真でないため)顔を見るのが初めての人もいます。

賛同してくれたシェフや料理人がまだたくさんいるにもかかわらず、ここにいる人たちに #CookForJapan のメンバーになってもらったのには理由があります。

料理人やパティシエは普段あまり発信はしません。上下関係の厳しい世界です。客商売でSNSで拡散される危険性もよくわかっています。

ここにいるメンバーは「何かしているなぁ、とりあえず様子を見て盛り上がったらやってみようかなぁ」と思った人たちではありません。僕の発信を見ていいなと思い、すぐに手を挙げて、行動してくれた人たちがここにいるメンバーなのです。(だから初対面ではありますが)メンバーのことはかなり信用しています。やっていることも、住んでいる場所も、それぞれできることもさまざまです。けれども向いている方向は同じ。だからこそ、幅広い方法での支援が可能ではないかと感じています。

たとえば、2月7日から9日に開催される長野でのコラボディナー(アップルライン復興プロジェクト×#CookForJapanコラボディナー)。長野の食材のみを使い、関口幸秀シェフ(カステリーナグループ統括料理長)、野田一寿シェフ(Hitotsu / 神奈川県横浜市)、梅田正克シェフ(ゲストシェフ、ル・ボン・ヴィボン軽井沢 / 長野県軽井沢町)、クレールと僕でおこなうコラボディナーです。

僕は料理を作ることとTwitterで拡散することしかできません。コラボディナーは、アップルライン復興プロジェクトというクラウドファンディングのリターンです。「神谷さん何かやってもらえませんか?」と言われて、「それならばコラボディナーをやりましょう」となりました。僕がコラボディナーをやりますと言ったとき、関口シェフと野田シェフがすぐに「やります!」と言ってくれました。

すると、2月のバレンタインで忙しいにもかかわらず、パティシエのいがらしろみさん(Romi-Unie Confiture / 神奈川県鎌倉市)、西シェフ、坂下シェフ、渡邉泰史シェフ(パティスリー・ポルトボヌール / 埼玉県北浦和)が手を挙げてくれました。「ミニャルディーズ」という食後に食べる小さな茶菓子があります。パティシエのみなさんからは、それを人数分だけ送ってもらえることになりました。それぞれのパティシエの茶菓子を集めた豪華なミニャルディーズです。

食べチョクの秋元里奈さんに「コラボディナーに協力してもらえませんか?」とお願いしたところ、すぐにOKの返事をいただきました。僕たちシェフは長野のことがまったく分かりません。食べチョクさんが長野で採れる食材をリスト化し、農家さんへの発注や発送などの細かい作業をやってくれています。

ホテルメトロポリタン長野さんも協賛してくださり、僕らの長野での宿泊場所を提供してくれました。オステリア・ガットも無償でコラボディナーの会場を貸してくださいます。

また、プライムミートさんも信州プレミアム牛を無償で提供してくださいました。コラボディナーのメインに使ってくださいとのありがたいお話です。

長野のコラボディナーは、3日間で70名以上のお客様を迎えることになっています。90%以上が長野県外からのお客様で、長野に宿泊予定です。

お客様はSNSをやっている方が多いので、当日のコラボディナーの様子や長野観光の良さ、被災のあとに感じた長野についてを投稿してくれると思います。今まではSNS上だけで広がりを見せていたことが実際に長野に来て行動することでまた違った広がり方をするのではないでしょうか。そして、さらなる話題をSNS上で広げることができるのではないかと期待しています。

僕たちは、できることも、やりたいことも違います。だからこそ、食べることだけでなく、作ることで生産者と一般消費者をつなげて、みんなで楽しくやっていきたい。楽しんだ結果が支援につながる。そんなイベントや発信を今後も続けていきたいと考えています。

このような経緯で一般社団法人CookForJapan(登記上は#をつけない)を設立いたしました。

基本的に、やりたい人が、やれることを、やりたいだけやるのが(#CookForJapanの)基本理念です。支援を続けていく中で、やりたいと名乗り出るメンバーが増えたり、もう続けられないというメンバーがいるかもしれません。それでもみなさんに温かい目・長い目で見ていただければ幸いです。

石川雄一郎:#CookForJapan の成果の報告

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これまでの成果は、おもに3つあります。

#被災地農家応援レシピ のハッシュタグをつけてインターネット上に、料理人や料理研究家の方々がレシピを投稿したことにより、たとえばフルプロ農園さんのリンゴが被災直後に1,000㎏ほどの在庫が一瞬で完売になりました。また、サツマイモ、シイタケなども完売。皆さまのご協力のおかげです。ありがとうございます。

続いて、私たちが初期から応援してきたアップルライン復興プロジェクトとのクラウドファンディングについてです。クラウドファンディングのリターンの一つとして、コラボディナーを一口15,000円で販売しました。すると開始からおよそ5時間で3日分の席が売り切れに。70名以上の方が長野にお越しいただく予定です。アップルライン復興プロジェクトは我々の力も多少ありつつ、1,000万円の目標金額に対し115%の達成率で終了しています。

#被災地農家応援レシピ に協力するお店、現在10店ほどでは、リンゴをはじめ、被災地の農産物を使ったレシピを使ったケーキやコース料理を提供してくださっています。注文に対し一定金額を #CookForJapan に寄付する流れができおります。こうした寄付など、お金の管理のためにも一般社団法人化しました。

――石川雄一郎(土佐しらす食堂二万匹 / 東京都港区)

野田一寿:チバベジとの商品開発について

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2019年の台風15号のときに設立された千葉県被災地農業支援のチバベジさんからお話をいただき、ピクルスを作る取り組みをしています。

チバベジさんは、台風15号で被災してしまったけれどもまだ使える野菜を2,400kg買い取り、販売した実績があります。その野菜のなかで使えるけれども規格外(形が悪い)のものがたくさんあるという話を聞きました。

形が悪いだけで捨てられてしまう野菜を、消費者のもとに美味しく届けることはできないか? との相談があり、ピクルスのレシピを考えました。日本酒やゆず、菊の花といった日本を代表する食材を使ったピクルスです。このピクルスをチバベジさんのクラウドファンディングのリターンとしています。

今後、ピクルスを商品化して、これから販売する流れになっています。

チバベジさんとのコラボ商品は、関口シェフと表原シェフのカレー、違(ちがい)克美さん(旅するコンフィチュール / 神奈川県横浜市)のトマトのコンフィチュールを進めていく予定です。

関口幸秀:ミラノで開催される信州食材イベントへの商品提供

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クラウドファンディングでも注目されていたフルプロ農園さんのリンゴを使ってモスタルダというイタリアのマスタードの作り方を、#被災地農家応援レシピとして私が投稿したところ、色々な方に作っていただきました。

その流れから、2月14日と19日にミラノで行われる、信州(長野)の食材を使ったイベントにいらした方々にお配りするお土産としてフルプロ農園さんのリンゴを使ったモスタルダを作らせていただきました。

ミラノで配るモスタルダには、生食用ではない加工用のリンゴをフルプロ農園さんから購入して作りました。

日本では、リンゴというと生食というイメージがあると思います。とくにサンフジなどは蜜が入っているのが付加価値になっているので、少し時期が遅くなると蜜がリンゴの内部にまわってしまって、1/10程度の価格で販売されてしまうんです。

しかし、安いからといって、リンゴの甘さは変わらないんです。僕ら料理人、パティシエにとっては、水分が少なめなので、むしろ都合が良いんですね。そのため、今回は加工用リンゴを正規の値段で買い取らせていただいて、モスタルダを作りました。

江六前一郎:レシピブックの制作と#被災地農家応援レシピを作る会 の報告

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私からはクラウドファンディングとイベントの2点についてご報告いたします。

まずクラウドファンディングについてですが、現在100品以上投稿されているシェフのレシピをまとめたレシピブックを作るため、クラウドファンディングを実行する予定です。

(#CookForJapan の前身でもある #被災地農家応援レシピ は)秋から冬に始まった取り組みなので、今後は春~夏の食材を使った野菜や果物のレシピも加え、通年利用できるレシピブックが作れたらと考えています。期間は4月1日から30日(予定)、モーションギャラリーというプラットフォームを使用します。リターンとしては、シェフの力を存分に使わせていただき、被災地食材を使った六次化商品や、被災地に直接行って産地を見て購入するような農家訪問ツアーを考え中です。

つづいてはイベントについてです。

1月18日に、投稿されているシェフのレシピを使った「#被災地農家応援レシピを作る会」を開催しました。

もともとシェフが集まる #CookForJapan の中に、編集者という異質な立場の僕がいるのは、神谷シェフがTwitterで「誰かレシピ本を作ってくれないかな」というメッセージを受けとった結果です。制作を手伝いたいと言ってくれている編集者やライター、カメラマンさんも現在10名ほど集まっており、ぜひ制作を実現させたいと考えています。

ただ、クラウドファンディングもこれからという状況で、実際に取り掛かれる時期はまだ先になりそうです。それまでにどこかのタイミングで僕たちの取り組みを発信できる場を作りたいと考えました。それが一般の方たちと一緒に料理を作るイベント「#被災地農家応援レシピを作る会」です。

この日は石川さん発信の「かぶとリンゴのサラダ」や野田さんの「リンゴのタルティーヌ」など、フルプロ農園さんのリンゴを使ったレシピが中心でした。

会場としてお借りした東西線・葛西駅近くの「葛西スペース」さんのご厚意もあり、当日は3~5歳の未就学児のお子さんも複数名来場されました。なかには「初めて料理した最初の食材がリンゴだった」という子もおり、作ることで産地を応援する目的で開催した会でしたが、実際にやってみたら食育にもつながるなど、色々な発見ができました。

僕らは文担当なのでレシピは作れませんが、イベントを行い、その様子を書いて発信することで、この取り組みが継続してくれたらいいなと思っています。

3月14日には、2回目の「#被災地農家応援レシピを作る会」を実施予定です。参加については僕のTwitterのDMに直接連絡をくだされば受付しますので、ぜひご応募くださると嬉しいです。

――江六前(えろくまえ)一郎(編集者)

秋元里奈氏:「食べチョク」のサービスと#CookForJapanとの活動について

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「食べチョク」は、web版のファーマーズマーケット(マルシェ)です。
生産者が商品の情報を直接、食べチョクのサイト上にアップロードして、それを消費者や飲食店の方が購入できるサービスを展開しています。

このサービスを始めたきっかけは、私の実家がもともと小規模農家だったからです。生産者にとって、既存の流通には「希望の価格で取引できない」「規格外商品が販売できない」などの課題がありました。なので、「なるべく自分で価格を決めて売りたい」「規格外も売りたい」と考える生産者さんが選べるファンドがあったらいいなと思い、このサービスをスタートさせました。現在、全国750軒ほどの生産者さんに登録いただいています。

#CookForJapan に協力するきっかけとなったフルプロ農園も登録農家の一つでした。2019年の台風被害は、これからリンゴを収穫し、出荷を迎えるタイミング。台風被害によって、全体の畑の8割が浸水して使えなくなったところから販売がスタート。

食べチョクでなんとか残り2割(1,500㎏)のリンゴを高く売れないかとフルプロ農園さんと話し合いました。

食べチョクは、生産者さんに利益を返す意味で、今回被災した農家さんからは手数料を一切いただいていません。プラットフォームを開放し、自由に売っていただく形をとっています。

この取り組みをスタートさせてから、なんとかリンゴ500㎏を販売できました。けれども、だんだんとスピードが落ちてきてしまい、どうしようかと悩んでいるとき、たまたま神谷シェフのツイートを見たんです。そしてDMを送ったのがきっかけで、#CookForJapan とつながることになりました。

神谷シェフとお会いするのは今日が初めてです。まだお会いしたことのない段階にもかかわらず「では、ぜひ一緒に売りましょう」と神谷シェフが情報発信を協力してくれました。そのおかげで、いきなり勢いがついて残りの1,000㎏もあっという間に完売しました。

食べチョクは、プラットフォームを貸すことで商品が販売できます。けれども、一般のお客さんからは「調理の仕方がわからない」という声が非常に多くありました。

被災地農家のために、お客さんたちは「なるべく多くの量を買いたい」と思ってくださっています。その一方で「リンゴ5㎏をどう食べたらいいかわからない」「ひとりだから3㎏でも食べきれない」と戸惑う声も多かったんです。

そこで、「どう料理したらおいしく食べられるか」をよく知っているシェフの方々と組ませていただきたいと考えました。お客さんは食材を美味しく食べられ、生産者さんには利益になる。そんな状況が作れれば、双方のメリットになるのではないかという思いがあります。

これから先の取り組みについても、私たち食べチョクにできることがあれば協力していきたいと考えています。

――秋元里奈氏(株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長)

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黒柳英男氏:提供食材「信州プレミアム牛」について

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私は、長野県に生まれました。

業務用食肉卸専門店である株式会社プライムミートは、今回の台風で、とくに被害が大きかった長野県のアップルライン近くに工場を持っています。台風直後は凄惨な状況でしたが、その後色々な方々の協力を得て、いまも泥のかき出しなど一部継続作業はあるものの、復興に向けて進み始めています。

私たちプライムミートも地元のために何かできることがないか、と模索していたときに、アップルライン復興プロジェクトのクラウドファンディングのことを知り、ぜひ協力させてほしいと神谷シェフに申し出ました。

今回の協賛品「信州プレミアム牛」はオレイン酸の含有量をはかり、4~5等級に値する量のもの、つまり「間違いなく美味しい」と証明されているものだけが称号を得ることができる商品です。2019年から海外の輸出も行っており、ぜひこの機会にたくさんの方に知ってほしいと思いました。

今日も試食(下写真)できる形で用意しております。ぜひ楽しんでいってほしいと思います。

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神谷:黒柳社長、ありがとうございます。そして今日、そのお肉を焼いてくれているのは、銀座「ティエリー・マルクス」の総料理長をつとめる小泉敦子シェフ(下写真)です。#CookForJapanのメンバーではないのですが「肉焼きに行きます」と名乗りを上げてくれました。

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小泉:素晴らしい機会があると聞き、今日はお肉を焼きに来ました!よろしくお願いいたします。

質疑応答

読売新聞社 記者
一般社団法人化されましたが、今後の活動に向けての意気込みを教えてください

神谷:#CookForJapan のメンバーは、できることもやりたいことも違うのでしっかりと話し合わなければなりません。話し合いながら、クラウドファンディングを織り交ぜて、生産者と消費者のイベントをおこない、「楽しく作って、楽しく食べて、みんながハッピーになれる」ようにしていきたいと考えています。その結果として、生産者さんたちの助けになるような活動をどんどんやっていくつもりです。被災地のことが忘れられないようにするためにも活動を続けていくのが大切だと思っています。

記者:今回の被害は台風でしたが、国内では災害が相次いでいます。今後も災害があったらみなさんでほかの被災地を支援していく考えでしょうか?

神谷:はい。メンバー全員、その準備は整っています。すぐに動きます。

フリーライター 松沢直樹氏
近年、一般家庭で料理する機会が減り、外食がデフォルトになってきているように思います。私が椎茸のレシピを投稿すると、「もう少し詳しくレシピを教えてほしい」と言われることがとても多かったです。昔の家庭料理のレベルだったら、私が出したレシピの内容でも十分理解できた気がします。つまり消費者の料理レベルが下がっているように感じるのですが、そのレベルを上げていくような考えはありますか?

神谷:松沢さんは、干し椎茸を使った「最強のだし醤油」をはじめとするさまざまなきのこレシピを出してくださり、「君嶋きのこ園」の椎茸が売り切れるという事態をつくり出した方です。ご協力ありがとうございます。

Twitterは書ける文字数が決まっているので、簡単に書くしかありません。けれども、投稿されたレシピは、料理レベルを上げなくても「これだったら自分でも作れるな」というレベルがほとんどだったと思います。「実際に作ってみたよ」と投稿してくれる人も多く、それを見た人が「じゃあ私も作ってみよう」「買ってみよう」という輪がすごく広がりました。これは、とても良いことではないでしょうか。

以前、イタリアのアマトリーチェで地震が発生したときに「アマトリチャーナを食べて応援しよう(Eat for Amatrice!)」という動きがありました。でも、食べるだけだと、それだけで終わってしまいます。

一方、フランスには、作ってシェアするという考えがあるんですね。今回の#被災地農家応援レシピ の動きでは、シェフたちがレシピを惜しみなく出しています。そのレシピで作って、食べて投稿する形でシェアが広がっています。「みんなで作って食べて美味しい」というシェアは、誰も傷つかないやり方です。だから、この動きは続けていきたいなと思っています。

朝日新聞社 記者
2月5日から7日におこなわれるクラウドファンディングのコラボディナーに使う食材について、もう少し詳しく教えてください。

神谷:僕たちは長野にどんな食材があるかをよく知りません。なので、食材については食べチョクの元平さんにおまかせしています。今の時期に長野で採れるものの数量、値段などすべて調べていただき、そこから僕、関口シェフ、野田シェフ、軽井沢の梅田シェフが選ぶことになっています。

3日間通しで前菜とメインの肉料理は僕が担当。アミューズと魚料理は、関口シェフ、野田シェフ、梅田シェフが順番で担当し、それぞれ違う食材を使うことになっています。

#被災地農家応援レシピ の中から使われるのは(関口シェフの)モスタルダだけです。

お肉はプライムミートの信州プレミアム牛、お魚は信州大王イワナと信州サーモンを使います。野菜は食べチョクさん経由で大きく3つの農園の食材を使用します。

くさぶえ農園:ビタミン大根、ビーツ、にんじん(標高1000mの場所にある農園なので、甘みのある野菜を作られている)

すみれ自然菜園:「このかぼちゃを食べると赤ちゃんがにっこりする」というエピソードが由来の独自品種「天使のかぼちゃ」(蒸しただけで甘い糖度が高いかぼちゃ)、雑穀

農ingやまだ屋:セルリアック(根セロリ)

今回のコラボディナーの協賛で、えのきの生産者さん(株式会社丸金)が加わりました。えのきを育てた土は栄養価が高く、それをリンゴの木に使うと育ちが良くなるという話です。そこで、きのこを使ったお肉料理のメニューを考え中です。

記者:コラボディナーの食材は被災された農家のものをすべて使う予定ですか?

神谷:今回被災された農家さんは、ほとんどがアップルラインのリンゴ農園です。一番ひどかったのがフルプロ農園さん。野菜はほぼ無事だと聞いています。でも食材は長野産のものを使います。

記者:ではコラボディナーに被災地のリンゴを使うのでしょうか?

神谷:使います。デザートは、妻のクレールがデザートに「リンゴのプレッセ」を作ります。あと、関口シェフがモスタルダを信州大王イワナと合わせた料理を作る予定です。

フリーライター 小村トリコ氏
関口シェフのミラノの話をもう少し詳しく聞かせてください。

神谷:プライムミートさん主催で、長野の食材のアピールのためのイベントをミラノで開催します。長野出身のシェフ3名と、長野食材(米、酒、わさび)を使って、ディナーやアペリティーボとして振る舞う予定です。そのとき、招待客250名分のお土産としてリンゴのモスタルダを出荷する流れになっています。

プライムミート 黒柳英男 代表取締役社長:2月14日と15日の2日間、信州の食材を使ったイベントをミラノで開催します。長野出身のシェフ3名で、250名分のアペリティーボと20名分のコースディナーを提供する予定です。
今回、台風で被災したことを受けて、信州の食材を世界で販売しようという話が持ち上がりました。そのときに、ちょうど#CookForJapanの動きがあり、関口シェフのリンゴのモスタルダを提供することで少しでも活動を宣伝できればいいなと企画しました。

250名はほとんどが一般の方で、一部業者もいます。少し追加料理を払うと、信州サーモンを使ったお寿司や信州のラーメンなどが食べられるようにする予定です。和食文化にプラスアルファで、日本の食文化をエッセンスとして出せる料理を考えています。


取材・編集:江六前一郎、藤野こと、田窪 綾
撮影:Shoko Yamahara、藤野こと、田窪 綾