Owen

良心的経済成長反対者 広島大学大学院総合科学研究科 博士課程前期修了 修士(学術)。 …

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良心的経済成長反対者 広島大学大学院総合科学研究科 博士課程前期修了 修士(学術)。 〈脱成長〉(degrowth, decroissance)についての雑記。海外記事の翻訳などを試みています。twitterはこちら@degrowthjp

最近の記事

脱成長と自由についての試論

はじめに  日本では、バブル経済の崩壊後、長期にわたる経済的停滞を経験しており、その間に幾度も景気刺激政策がとられたが、経済を好転させるには至っていない。一方で、世界に目を向けてみても、2008年の世界金融危機以来、世界経済の先行きは不透明さを増しつつある。そのような状況にあって、〈脱成長〉論を検討することにどのような意味があるのだろうか。  端的にいえば、〈脱成長〉論は、金融危機や債務危機に加え、環境問題への危機感から発展してきており、これらの危機を生み出してきた経済学

    • 中村修『なぜ経済学は自然を無限ととらえたか』日本経済評論社、1995

       中村は、経済学者以外の科学者の多くが、地球上における経済活動の限界を論じているにもかかわらず、経済学者があいかわらず経済成長を具体的な根拠もなく論じている状況に対する疑問から、本書を執筆した。そのため、本書の目的は、経済学者が論じる「成長」が非科学的な産物であることを証明することである。  この問題意識は、ハーマン・E・デイリーの『成長なき繁栄』での序文でかかれた4つの疑問と共通するものである。「経済が成長したら、(a)正確には何が大きくなるのか?(b)現在はどのくらいの大

      • 丸山真人「地域通貨論の再検討」

        はじめに  丸山はこの論文において、地域通貨の再生を考えるうえで欠くことのできない理論的前提と、地域通貨の使用によって可能となる新しい人間経済のあり方について、検討している。 1.広義の経済学と生命系  これまで経済学が扱ってきた市場経済を、2つの側面に大別して分析している。まず1つは、人間の生活を維持するために必要な物質的要求を、自然と人間との物質代謝および人間間のやり取りを通じてみたす側面であり、2つめは費用や手間を省いて最大化をはかる側面である。丸山は前者を技術・制度的

        • 玉野井芳郎「生産と生命の論理」『生命系のエコノミー』pp.135-143 新評論、1982

           1960年代後半から1970年代にかけて、産業公害、食品公害、農業生産の基礎をなす地力の減衰など、経済学の既成の対象の前提枠からはみ出るような諸事象が台頭した。経済学は、これらの新たな課題の出現を前にして、改めて生産力とは何かを問い直し、産出のネガ、生産力のネガの概念を問題としないわけにはいかなくなってきた。  今日の工業化過程に内蔵されている現代技術の特性は、技術の集中的システムとなっていて、一方では、大量生産・大量消費、他方では大量廃棄が生じている。玉野井は、原料から

        脱成長と自由についての試論

        • 中村修『なぜ経済学は自然を無限ととらえたか』日本経済評論社、1995

        • 丸山真人「地域通貨論の再検討」

        • 玉野井芳郎「生産と生命の論理」『生命系のエコノミー』pp.135-143 新評論、1982

          LETS

          海外における地域通貨の事例は様々なものがあるが、そのなかで最も有名なもののひとつがLETS (Local Exchange and Trading System)であろう。LETSのモデルとなったのは、ロバート・オーウェンの労働貨幣であるという[1]。LETSは、1983年からカナダのバンクーバー島のコモックスを中心として利用されている地域通貨である。通貨名はグリーン・ドルとよばれる。グリーン・ドルとカナダ・ドルとのレートは、1対1で固定されている。 また、グリーン・ドルは

          書籍紹介

          今回は日本における脱成長の先駆者と言っても過言ではない、玉野井芳郎の著作を紹介します。1960年代の環境問題、複合汚染に危機感を覚えた玉野井は、それまでの経済学説史研究から、経済過程に熱力学を導入したエントロピー経済学を構築し、「生命系の経済学」へと展開していきます。その後、ヨーロッパの地域分権にも興味を持ち、独自の地域主義を提唱します。そして、それまでの市場経済中心の経済学を「狭義の経済学」として、市場をその一部として含むような、「生命系を根底に据えた広義の経済学」の展開を

          書籍紹介

          書籍紹介

          今回は言わずと知れた哲学・経済学の巨人、カール・マルクスの書籍を紹介します。 私は宇野派マルクス経済学に影響を受けていて、宇野弘蔵も欠かせない。 マルクスと脱成長との関わりで言えば、斎藤幸平の書籍も要チェック。 マルクス『資本論』岩波書店 文庫本では第1巻だけで3冊あり、全3巻を揃えて読もうとすれば相当な根気がいる古典。私は第1巻が読めたらそれでいいと思っている。 マルクス『経済学批判』岩波書店、1956 マルクス『経済学・哲学草稿』岩波書店、196

          書籍紹介

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          今回はセルジュ・ラトゥーシュに〈脱成長〉論の先駆者として評価される哲学者イヴァン・イリイチ。 イヴァン・イリイチ『コンヴィヴィアリティのための道具』(渡辺京二・渡辺梨佐訳)筑摩書房、2015 I. イリイチ『シャドウワーク 生活のあり方を問う』岩波書店、1982 I. イリイチ『ジェンダー 女と男の世代』岩波書店、1998 この本でイリイチはフェミニストから厳しく批判された

          書籍紹介

          書籍紹介

          今回は20世紀の社会主義者、経済人類学者であるカール・ポランニーを紹介します。 ポランニーは最近研究が進んできており、研究書や論文などが多く刊行されています。 カール・ポラニー『大転換――市場社会の形成と崩壊』(野口健彦・栖原学訳)東洋経済新報社、2009 ポランニーの代表作であり、その構成はかなり複雑。労働・土地・貨幣の擬制商品論と社会から離床した経済を再び社会に埋め戻すという命題、自己調整的な市場経済とそれに対する社会の自己防衛という二重の運動は押さえておきた

          書籍紹介

          書籍紹介

          〈脱成長〉論を理解する上で重要だと思われる邦訳された書籍を紹介していきます。 解説はおいおいやっていきます。 セルジュ・ラトゥーシュ『経済発展なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』(中野佳裕訳)作品社、2010 〈脱成長〉論の基本書として位置づけられる。 セルジュ・ラトゥーシュ『〈脱成長〉は、世界を変えられるか?――贈与・幸福・自律の新たな社会へ』(中野佳裕訳)作品社、2013 〈脱成長〉論を倫理学の視点から捉え直したものである。 セルジュ

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          20代の頃、セルジュ・ラトゥーシュの〈脱成長〉論に衝撃を受け、その後カール・マルクスやカール・ポランニー、イヴァン・イリイチにもかなり影響されてきました。 日本の文脈においては、〈脱成長〉論は緊縮、あるいは清貧の思想として、かなり誤解された形で受容されているように思います。 ここでは、〈脱成長〉論関連の書籍の紹介や、ラトゥーシュの著作を通じて〈脱成長〉論の解説をしていこうと思います。

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