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#海外文学のススメ

おすすめの作品や作家、注目している国や地域を教えてください!

急上昇の記事一覧

星の王子さま(図書係の思い出)

小学5年の2学期に入ってすぐ、班替えがあって島田さんと同じ班になった。男子2人、女子3人の班で、班長は私だった。 学活のとき、どの班がなんの係活動をするのかを決めることになった。 まず班ごとに話し合いが行われ、私は班員に「お楽しみ係がええんじゃないん」とすすめた。お楽しみ係とは、お楽しみ会を企画・運営する係で、男子のあいだで人気があった。 「読書の秋じゃけ、図書係にしようや」 さっそく島田さんが立ちはだかった。図書係の仕事といえば、学級文庫の整理くらいだ。 「いやじゃ

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クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社

ずっと気になっていた。SFの古典的傑作だというこの小説。なんで「幼年期の終わり」なのか。児童心理学みたいな不思議な題名だ。いつか読んでみないとねーと思ってはや数十年。やっと手に取ったかと思ったら、数ページ読んだあと家の中でしばらく行方不明になっていた。なかなか読めないものである。やっとベッドの隙間に発見して、今回めでたく読むことができました。 ところで、わたしはSFというジャンルにはちっとも興味がないので、(あ、もちろん『スローターハウス5』とか『夏への扉』はSFと呼ばれて

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推し活翻訳8冊目。The Ghost’s Child、勝手に邦題「まぼろしの子」

原題:The Ghost’s Child 原作者:Sonya Hartnett 勝手に邦題:まぼろしの子 「真っ暗な空を稲妻が切り裂き、天を衝く大波が地滑りのように崩れ落ちた。もうだめだと思った瞬間、マディーは声を限りにフェザーの名を呼んだ。姿を見せてくれてもいいはず。こんなにも、あなたが欲しいのだから」 概要と感想: 一人暮らしの老女マチルダが、冷たい霧の午後、犬の散歩から帰ってくると居間で見知らぬ男の子が待っている。不思議な客人は、訪問の目的も、自分の素性も告げ

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『あのころ、天皇は神だった』ジュリー・オオツカ(小竹由美子訳)【読書感想文】#38

ジュリー・オオツカ(岩本正恵・小竹由美子訳)『屋根裏の仏さま』(新潮クレスト・ブックス)が良かったので、『あのころ、天皇は神だった』をつづけて読む。小竹由美子訳。フィルムアート社。 こちらがデビュー作だそうで、そう知って読むせいか、『屋根裏の仏さま』へ通じる書き方が垣間見え、愉しい。 具体的なのに抽象的(象徴的)で、ひとりだけど複数の語り、詩的な繰り返し、などなど、独特の文学は本作に早くも顕れている。 日経移民の強制収容という状況の残酷さに比して、風景の描写が美しい。

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言葉の森をさまよう -小説『森のバルコニー』の美しさ

【水曜日は文学の日】 小説というのは、現実の体験から、現実を超えた何かを味合わせてくれるゆえに美しい。そんな風に思っている人は多いと思います。 フランスの小説家、ジュリアン・グラックの1958年の小説『森のバルコニー』は、そんな美しさを持つ小説の一つであり、私の偏愛する作品の一つです。 ジュリアン・グラックは1910年、フランスのロワール川近くのロワール県生まれ。ナントで歴史の教師をしながら、小説『アルゴールの城にて』を出版。これが、ブルトンに絶賛され、彼の

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好きだった人の旅立ち

4月の末にポール・オースターの訃報があったばかりなのに、今度はアリス・マンローが亡くなったという。92歳だったそうだ。生きている人は必ず死ぬ。分かってはいるけどやはり悲しい。もう新作が読めないのだから。 アリスの話はこのnoteでも何度か書いているので、今日はポール・オースターの話を書きたい。初めて手に取った作品は「偶然の音楽」だったと思う。 とても読みやすいし、ポール・オースターの事を知らなくても楽しめる。特に好きなのが冒頭の約2ページ。名文と言われる&有名な書き出しは

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埋められない溝を見事に描いた台湾グルメ小説「台湾漫遊鉄道のふたり」楊双子著、三浦裕子訳

文学ラジオ第154回の紹介本 埋められない溝を見事に描いた台湾グルメ小説 「台湾漫遊鉄道のふたり」 楊双子 著 三浦裕子 訳 中央公論新社 パーソナリティ二人で作品の魅力やあらすじ、印象に残った点など、読後の感想を話し合っています。ぜひお聴きください! 今年の第十回日本翻訳大賞の最終候補/まるで日本の小説のよう/趣味が合うか不安はあったけど心配無用だった/著者&作品紹介/日本人作家が書いた小説という構成がユニーク/グルメエンタメ/台湾人のアイデンティティ/作品の時代背景

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「ある犬の飼い主の一日」が両手に握らせてくれるもの

生きるって本当は、胸をえぐられる案件に満ちていると知ってしまったのはいつからなんだろう。生きている時間が長くなるほど、絶対に失いたくないものを失う経験が増える。どうしても欲しいものがどうしても手に入らない経験もする。時が癒すことのできない傷がある。「ある種の悲しみは存在しつづける… 常に形を変えてではあるけれど。」 これはそんな傷を抱えた56歳の独身男ヘンクのある一日のお話。 この本を読んだのは2023年の9月頃。大谷選手の犬がコーイケルホンディエだということが日本中で注

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書簡体小説は、新境地へ。 【おすすめ書簡体小説3選】

「書簡体小説」とは、登場人物の書簡を用いて、間接的に物語を展開する小説のことである。 古くは、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』、夏目漱石の『こころ』など、数々の傑作文学でこの手法が用いられてきた。 2年ほど前、書簡体小説がなぜ読者を惹きつけるのか、その面白さについて考え、noteを書いたことがある。 手紙には、宛先がある。 手紙に書かれる文章は、通常の小説のような不特定多数に向けた文章ではなく、特定の個人に宛てて綴られた文章だ。 書き手と読み手の世界に閉じた、ごく個

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わたしたちの詩 #36

ハヤカワ・ミステリ文庫(メグレ)→ 光文社古典新訳文庫(『ペスト』)と海外文学をつづけて読んだら、つぎは新潮クレスト・ブックスを読みたくなる。 近く新作の出るらしい、ジュリー・オオツカ(岩本正恵・小竹由美子訳)『屋根裏の仏さま』を、その予習がてら手に取る。 写真だけを頼りに海を渡った日系移民一世「写真花嫁」たちの物語だ。 時代や共同体といった、個人ではどうすることもできない運命に翻弄される過酷さは悲痛であり、その内にあっても連帯し、芯を強くもち懸命に生きるさまは美しくも

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誰も幸せになれない話は【八〇〇文字の短編小説 #13】

あの日から、父親のダグラスは、息子のスティーブンに本当のことを伝えるべきではなかったのではないかと考え続けている。母親のシモーヌが緑内障で目が見えなくなるかもしれない現実を、まだ幼いスティーブンは受け止められずにいる。真夜中に二階の子ども部屋からときどきうめき声が聞こえてくる。 シモーヌは気丈に振る舞っているけれど、スティーブンの心の痛みまで抱え込んでいるように見える。シモーヌと話し合った結果とはいえ、ダグラスは自分の選択が間違っていたのではないかと思ってしまう。八年前に父

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『自傷行為』

self-inflicted wound Charles Bukowski やつはスタインベックとトマスウルフについて話しをし2人を掛け合わせたような文章を書いた オレはフィゲロア通りにあるホテルに住んでいた 近くにはバーが所狭しと並んでいる やつは郊外の小さな部屋に住んでいた オレたちは2人とも作家になろうともがいていた オレたちは市民図書館で会い、石のベンチに座り話しをする やつはオレに短編を見せた よく書けていた、 オレの短編よりもはるかに優れていた、 やつの短編には

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推し活翻訳7冊目。The Royal Rabbits of London、勝手に邦題「ロンドン・ロイヤル・ラビット隊1 シャイロの大冒険」

原題:The Royal Rabbits of London 原作者:Santa Montefiore, Simon Sebag Montefiore 勝手に邦題:ロンドン・ロイヤル・ラビット隊1 シャイロの大冒険 概要と感想 「生きることは冒険だ。この世に不可能なことなどない。やる気と運、新鮮なニンジンと、しめった鼻先と、ほんの少しの度胸があればなんでもできる!」 いなかに暮らすウサギのシャイロは、体が小さく兄姉たちのいじめの的ですが、好奇心がとても強く、群れの

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カミュの陽射しに微睡む #35

連休中に読もうとがむばって仕入れた大著は、けっきょく一冊も読まなかった(読めなかった)。 斯くして積読の魔の山はまたもその高さを増したのであった。まあ、そんなもんだよね。 その代わり、というわけでもないが、カミュ『ペスト』を読む。中条省平訳、光文社古典新訳文庫。 そのまえに読んでいた『感染症の歴史学』(岩波新書)で『ペスト』のことが想い出され、積読の山から引っ張り出された。 僕にとって『ペスト』はこの数年の挫折本であった。新訳の出てすぐに買われ読んだから、挫折したのは

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『はだかの太陽』アイザック・アシモフ

動機1『はだかの太陽』というタイトル 90年代の後半、Moon ChildというバンドがEscapeという楽曲を出していた。ともさかりえ主演のドラマのタイトルになった曲で、たぶんこのバンドのヒット曲はこの1曲だけだったのではと思う。Moon Childというバンド名からCharの影響を受けているんじゃないか?と思えたが確証はない。ただ、Charを崇拝する私にはグッとくる1曲だった。その中の歌詞に妙にひっかかるものがあった。 この歌自体はラブソングの要素もあるけれど、人生に

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紙の動物園

初めて読む作家の本。 ふと手に取って、読み始めたので、あとから他のかたの読書感想を今、確認した。 あれ?折り紙って、日本の発祥じゃないの? から読み進んだ。 人種差別などの難しい内容が、わかりやすいファンタジーに込められている短編。 同じ本の中のいろいろな作品がそれぞれ違っていて、後書きで、プログラマーと作家を共存させてる頭脳の持ち主が書くとこういう作品になるのかという感想を持った。 いちばん最後の作品が、内容的にかなり重くて ずっと心に残っている。 文字占い師とい

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「母の日」に、ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』(改訂)

ディケンズと並び称される、19世紀イギリス文学を代表する女流作家です。 彼女の代表作のひとつ「サイラス・マーナー」は、「大人のためのおとぎ話」として海外では広く読まれている作品です。 「他人への愛」や「因果応報」をテーマとしたシンプルな内容ですが、端役にいたるまでの緻密な人物描写・心理描写が感情移入を促します。 読後感がこの上なく素晴らしい物語です。 女性が愚かであるということを 私は否定しませんが 全能の神は 男性につりあうように 女性を作られたのです

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【本の話】SFの正しい装丁について

いまさらだけど、ハヤカワ文庫のフィリップ・K・ディックの装丁って、かっこいいよね。 私が昔読んだ『マイノリティ・リポート』って、こんなんだったなあ。これはこれで味わい深いんだけど。 それに引き換え、ロバート・A・ハインラインの原書は、いまこんな事になってる。 『月は無慈悲な夜の女王』 『異星の客』 『宇宙の戦士』 これはダメでしょう。これじゃイメージ湧かんよ。 もしかしてあちらではインテリジェントでスタイリッシュ、とかということになってるのだろうか。 まあ訳書

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リセットできない世界を生きる話: "Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"by Gabrielle Zevin

 北斎の巨大な荒れ狂う波。ゲーミングデバイスを連想させる虹色のポップな書体。一度目にしたら忘れることのないタイトル。"Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow"は、初めて書影を見た時から私の意識の片隅に居座り続け、あらゆる雑誌のレビューから顔をのぞかせ、発売当初から「もしかして読んだ方がいいんじゃない?今」と絶えず訴えかけてきた小説だった。日本語訳が近所の書店に平積みされ始めたあたりであらすじに目を通し、観念して購入した。書籍のデザインや広報に

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推し活翻訳6冊目。Island、勝手に邦題「キキクタルク — ハーシェル島の精霊たち —」

原題:Island 原作者:Nicky Singer 勝手に邦題:キキクタルク — ハーシェル島の精霊たち — 概要と感想 カナダ北部、北極圏の海に浮かぶハーシェル島。イヌイットが、キキクタルクと呼ぶその島の夏空に、死を呼ぶといわれるウークピク(シロフクロウ)が舞う。時を同じく、北の海からピスグトゥク(ホッキョクグマ)も島にもどり、島の守り人であるイヌイットの老婆アトカに姿を変える。 ツンドラが緑におおわれた白夜のその夏、大都会で生まれ育った13歳のキャメロンが、

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