こもれびより ~commoré-biyori~ vol.11「 一語一会 ~言葉の横顔~」(2020/2/22) レポート

​ こんにちは。語学塾こもれびの根本です。
 2020年2月22日(土)、こもれびよりVol.11「一語一会〜言葉の横顔〜」を開催しました。当日は9名の方に足をお運びいただきまして、おかげさまで大盛り上がりの会となりました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 今回のテーマ「一語一会〜言葉の横顔〜」は、いくつかのきっかけで生まれたものでした。

 ひとつは、前回のこもれびよりVol.10「Les Petits Princes〜翻訳の向こう側〜」(2019年12月開催)に関連して「根なし草」という言葉が出てきたこと。地球にいるバラが人間たちの様子を見て「根がない」と言います。
 「根がない」ということからは「根なし草」という言葉が連想されるわけですが、イベント後、塾長・志村がとある方からこんなことを言われたそうです。

 「響先生は、自分のことを根なし草だと思ったことなんてないですよね?」

 志村曰くその口調は「今までの人生で万引きなんてしたことないですよね?」と聞くのと同じようなもので、発話者が「根なし草」=「万引きと同じくらい悪いもの」と思っていることが伝わってきた、とのこと。ところが聞かれた志村の方は「根なし草」にネガティブなイメージを抱いてはおらず、そこに「ズレ」があることが面白いと思った彼だったのでした。

 そしてもうひとつは、志村がTwitterでこんなアンケートをとったこと。

ちなみに僕の中で木漏れ日と言えばわりとこれ(木の葉越しに正面から見るやつ)なんだけど、意外と個人差があるよう。みなさんはどれ?

 ・葉越しにみる太陽
 ・線状に漏れる光
 ・陰に映った光

 ご覧いただけばお分かりかと思いますが、結果はほぼ三者が拮抗しました。これまた、使う人によって言葉の印象が異なる例です。

 これらの話を志村から聞き、スタッフ同士で「面白いね〜」と話したのが1月中旬ごろ。その後、今回のこもれびよりのテーマを決める段になり、「この面白さを参加者の皆さんと共有できたら、きっともっと面白いよね!」ということに思いが至り、めでたくテーマとしてこの「人による言葉の印象の違い」が選ばれたのでした。

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 そんなわけでテーマは決まり、告知もしたのですが、実は当日を迎えるまでスタッフ一同(もしかしたら私、根本だけかもしれませんが)、大変ドキドキしておりました。というのも、「きっと面白いよね!」で決めたテーマではあるものの、皆さんが志村と同じように「これって人によってこんなに使い方が違うんだ〜!」という経験をされたことがあるとも限らず、イベントの中で出てくるのは志村が提示する「根なし草」と「こもれび」だけになってしまうのではないか…と危惧していたからです。
 「もしそうなって、イベントが盛り上がらなかったら悲しいぞ…」という思いから、いざという時のために提示できる言葉を考えようと思ったのですが良いものが浮かんでくることはなく、やや不安なまま迎えた当日でした。

 ただ、ご参加いただいた皆さんにはご納得いただけるのではないかと思うのですが、結果、私の心配は杞憂に終わりました。次々と「他の人がどのように使っているのか気になる言葉」が出てきたのです。いくつかの例を挙げてみます。

 ・(自分が必ずしもそのグループに普段から属してるわけではない場合に、例えば何かの集まりに呼んでもらえることになった場合)○○さん「も」どうぞ、と言われることがあるが、その「も」、たった一言で、「あなたは私たちの中に含まれてはいないが、今だけは含んであげる」といったニュアンスが醸し出されてしまう
 ・「倍半分」という言葉が表す量は、いったいどれくらいなのか
 ・就職のための面接で志望理由を聞かれ、率直に「生活のため」と言った。「生活のため」に働くのは悪いことなのか

 個人的に面白いと思ったのは、最後の「生活のため」という言葉。これ、例えば「生きるため」と言い換えてみると、なんだか面接の場で言っても良いような気がしてきます。志村が言っていたことだと記憶しているのですが、「生」も「活」もどちらも「いきる」という決して悪い意味ではない(むしろ良い意味)の言葉なのに、それが合わさって名詞化するとなんだかニュアンスの幅が狭まってしまいます。これが「生きる」という動詞になることで、動きが出て、幅も広がるように思うのです。
 ちなみにフランス語ではこれ、”la vie quotidienne ”と表現するようですが、ネガティブな意味はないそうです。こうした言語間の違いもまた、面白いものですね。

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 さて、イベントの終盤では、例の「こもれび」アンケートを実地で行ってみました。結果は…やはり見事にバラけました。ただ今回は顔を合わせてのアンケートなので、「なぜそう思うか」といった背景まで含めた回答をしてもらうことができました。そのやりとりを書くと長くなりすぎてしまうので割愛しますが、まさに人それぞれの捉え方を知ることができてとても楽しいものでした。

 参加者のお一人がポツリと「他の捉え方があるなんて考えたこともなかった」と呟かれたのが印象的でした。
 ここから先をどう考えるかはそれこそ人それぞれだと思いますが、例えば「こもれび」と言われた時に人が思いかべるものは様々であったとしても、それは要するにどの部分(上なのか、横なのか、下なのか)を見るかが異なっているだけで、一応現象としては同じものを指しているわけです。ただ、「他の捉え方」があることすら知らない場合には、当然同じ見方をしていると思って話し始めたものの、何やら話に食い違いが…といったことも起こりうるわけです。事が「こもれび」であればおそらくその会話シーンは平穏なものだと思われますが、より緊迫した、例えば政治的・軍事的なシーンでこのような食い違いが起こってしまっては、下手をすると取り返しのつかないことになってしまいかねません。
 ですから、つい真面目なトーンになってしまいますが、コミュニケーションというのは思った以上に、危うい足場の上で成り立っているものなのだということもできるでしょう。「同じと思っていたら違った」「違うと思っていたら同じだった」ということが起こるのが、その現れです。そう考えてみると、我々人間は日々、なんと奇跡的なバランスを保ちながら「生きて」いるのだろう、と驚嘆してしまいます。
 まぁ、だからこそ、そんなコミュニケーションを成り立たせている「言葉」は面白いものだなぁ、とも思うわけですが。

 ぜひこれをお読みの皆さんも、ご自身の周りで「こもれび」アンケートを実施してみてください。予想以上に結果がバラけることと思います。ただし!やってみるとかなり議論が白熱しますので、お時間に余裕がある時に、白熱した議論を交わしても決して喧嘩にはならないような間柄の人たちとお話しいただくことを強くお勧めいたします。

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 今回もお菓子や飲み物の差し入れをAさんからいただきました。2月22日は「猫の日」ということで猫の手の形をしたチョコレートがあり、また苺の季節ということで苺のムースがあり、また初めて作ってみたという申告が信じられないほど見事なマカロンがあり…とついつい目移りしてしまうラインナップでした。今回も本当にありがとうございました。

 次回のこもれびよりは2020年4月18日の開催予定。日程や内容の詳細は未定ですが、決まりましたら追ってお知らせさせていただきます。次回もまた、皆様のお越しを心よりお待ちしております。


転載元:語学塾こもれび イベントレポート


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