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「ホンダやVW、自動車メーカーが半導体を直接調達へ」に注目!

ホンダやフォルクスワーゲン、自動車メーカーが半導体を直接調達へ - 日本経済新聞 (nikkei.com)

「自動車メーカーが勉強してくるようになった」。ある半導体メーカーの部門長が明かします。かつて1次部品メーカー(ティア1)に丸投げしていた車載半導体の選定。自動車メーカーはなぜ改心したのでしょうか。

半導体メーカーの部門長が続けます。「自動車メーカーのやりたいことが複雑になり、ティア1に指示するだけでは形にできないことが増えた。だから、自動車メーカーの技術者自身が半導体を学び、我々と直接議論するようになってきた」

対話の先に、自動車メーカーと半導体メーカーによる直接供給契約の締結があります。直接契約のきっかけは新型コロナウイルスのまん延で始まった半導体不足への対応策でしたが、いつしか目的が変わったそうです。

自動車業界を襲った半導体不足によって、生産計画は何度も狂りました。工場は止まり、納車待ちは長期化していましたが、ようやく出口が見えました。ホンダ副社長で最高執行責任者(COO)の青山真二氏によると、2023年下期に入って「ほぼ問題ない状況になった」といいます。

2020年に始まった危機的状況は脱したものの、自動車業界には苦い記憶が残ります。

発注量の増減が激しい上に、数が出なくて製造コストも高い――。半導体メーカーにとって自動車業界は、「面倒な客」に映りました。そして、自動車業界が「買い負けるようになった」(ある自動車メーカーの調達担当者)。半導体メーカーは、発注量を長期確約しつつ早期に製品を切り替えてくれるデータセンター/スマートフォン業界のほうが付き合いやすい顧客と判断しました。

長期発注に切り替えたり標準品を採用したり、自動車業界は半導体メーカーに寄り添う姿勢を見せました。これによって「自動車業界に回ってくる半導体が増えていった」(前述の調達担当者)といいます。

部品不足の騒動で自動車メーカーは半導体と向き合い、そして気付いたそうです。「大事な部品は自ら調達すべきだ」(ある日系自動車メーカーの幹部)と。

独フォルクスワーゲン(VW)グループは2023年8月、部品調達に関する新戦略を策定したと発表しました。半導体をはじめとする電子部品を、ティア1経由から直接購入に切り替えると決めました。

VW乗用車部門の調達担当取締役を務めるディルク・グローセ・ローハイド氏は、「戦略的に重要な半導体や、将来的にグループ独自で開発する予定の半導体は、半導体メーカーからの直接購入に頼ることになる」と方針を説明します。

従来、電子制御ユニット(ECU)などに使う半導体はティア1がほぼ自由に選定できました。VWグループはその方針を改めるため、2022年初頭に各ブランドや事業部門を横断して部品調達を管理する組織「Cross Operational Management Parts & Supply Security(COMPASS)」を立ち上げました。

COMPASSの責任者であり傘下のチェコ・シュコダの調達担当取締役でもあるカルステン・シュネーク氏はこの再編の狙いの1つとして、「部品のバリエーションが減り、結果としてソフトウエアの複雑さが軽減される」と語ります。

ソフトが車の機能や特徴を決めるソフトウエア定義車両(SDV)の時代に向けて、ハードウエアの集約が重要だと判断したわけです。安定調達の観点でも、ハードの種類が少なければ代替品に切り替えやすいです。

欧州ステランティスも、重要な半導体は直接契約する戦略を構築しました。同社は2023年7月、独インフィニオンテクノロジーズ、オランダのNXPセミコンダクターズ、米オンセミ、米クアルコムといった半導体メーカーとの連携を開始したと発表しました。

ホンダも、「2022年度あたりから半導体メーカーとの直接のやり取りを進めてきた」(青山氏)と明かします。取り組みの一例が、2023年4月に公表した台湾積体電路製造(TSMC)との提携です。足元の半導体調達を安定させることだけでなく、将来への備えという側面もあります。青山氏は「SDVで半導体に対する要求が強くなる」と読みます。

SDV時代に向けて、クルマの電気/電子(E/E)アーキテクチャーが変わっていきます。多くのECUを使う「分散型」から、数個の統合ECUにデータ処理を任せる「中央集中型」に移行していくとされます。

統合ECUに使う高性能なSoC(システム・オン・チップ)は、クルマの商品力、ひいては自動車メーカーの競争力も左右すると予想されています。青山氏の発言から、ホンダがSoCを半導体メーカーから直接調達する姿勢がうかがえます。

自動車メーカーの思いを、半導体メーカーも感じ取ります。ルネサスエレクトロニクスのハイパフォーマンスコンピューティング・アナログ&パワーソリューショングループBusiness Development Unitユニット長兼車載デジタルマーケティング統括部総統括部長の布施武司氏は、「具体的な話はできない」と前置きしつつ、「ECUの統合化を背景に、自動車メーカーと直接議論することが圧倒的に増えた」と明かします。

統合ECUに搭載するSoCの他にも、自動車メーカーが重要半導体と位置付けるものがいくつかあります。オンセミExecutive Vice President & General Manager Power Solutions Groupのサイモン・キートン氏は「パワー半導体とイメージイメージセンサーは直接のやり取りが重要」と話します。

電力を制御するパワー半導体では特に、次世代素材のシリコンカーバイド(SiC)への関心が高いです。SiCパワー半導体を電気自動車(EV)に適用すれば、現行のシリコン(Si)品に比べて電力損失を大幅に削減できます。800ボルトの高電圧系では、「SiCパワー半導体は必須」(ある自動車メーカーのEV技術者)ともいわれます。

イメージセンサーは、自動運転システムや先進運転支援システム(ADAS)向けのカメラに使うもの。前方監視用では200万画素クラスが主流だが、より広範囲の状況を把握できるように今後は500万〜800万画素に増えていく見込みです。クルマ1台あたりに搭載するカメラの数も増加傾向で、高性能なイメージセンサーの確保が課題になりつつあります。

ここで気になるのが、ティア1の役割です。自動車メーカーと半導体メーカーが直接契約すれば、ティア1の出番は減ります。表向きには、VWグループはどの半導体を使用するかはティア1と連携した上で決定する方針を掲げます。半導体メーカーも「ティア1とは緊密な関係性を維持していく」(オンセミのキートン氏)と説明します。

自動車メーカーや半導体メーカーの配慮が見え隠れしますが、ティア1自身も存在感を高めていく必要がありそうです。方策の1つが、半導体の内製化です。

デンソーや独ボッシュは、SiCパワー半導体の生産能力を強化します。例えばデンソーは、2023年10月にSiCウエハー企業の米シリコン・カーバイドに対して5億ドル(約730億円)出資すると明らかにしました。

「半導体の直接調達は一過性の取り組みではない」。ある日系自動車メーカーの幹部が話すように、ピラミッド型と呼ばれる自動車産業の力関係が変わりつつあります。

従来、半導体調達は自動車メーカーとティア1の間でECUなど電子機器の仕様を決定しますが、ティア1と半導体メーカーが使用する半導体を自由に選定ができました。しかし、今後は、自動車メーカーがティア1を飛び越して半導体メーカーに半導体を選定し、調達を直接契約することが増えそうとのことです。ホンダも、モビリティを進化させていく中で、求めていくものも変わっていくと思います。また、デンソーのようなティア1はSiCパワー半導体を強化してEVへの対応を強化していくと予想されます。今後も、ホンダやデンソーがよりよいモビリティを創っていくことを期待しています。