水曜日にはホットケーキを
昔勤めていた会社では、水曜日が「早帰りデー」と設定されていた。残業せずに定時で退社しましょう、という日である。職種によってはそうできない人もいたようだけれど、管理部門の一角に席があったわたしは毎週わりとスムーズに「早帰り」できていた。
早めに退社することがあらかじめわかっていると、お稽古事の予定が入れられたり、友人との待ち合わせがしやすかったりと、メリットがたくさんあった。実際にいくつかの映画をこの時間帯に観たし、思い出に残るイベントにも参加した。
それから10年くらい経った今、我が家の娘たち(小学1年)にも週に一度、早く帰宅する日がある。入学後しばらくは午前中のみの授業だった学校生活も5時間授業となった。ただ、週に一日だけは授業が4時間で終わるらしい。
彼女たちの帰宅が早まると、できることがいろいろある。その一つが親子共同での作業だ。
春休みから二人がハマっているのは、料理のお手伝い。
ホットケーキをつくるのをよく手伝ってくれる。卵を溶き、牛乳を追加したところにホットケーキミックスを混ぜ込む。
ママが担っていた作業をやってみるのがなにより楽しいようで、「まぜまぜー」と言いながら二人で交替しては泡立て器を動かしている。
混ぜたものをフライパンに投入するのも手伝ってもらった。高めにお玉を持ち、ととーんとフライパンに生地を落とす。ぷつぷつと穴が空いてきたら、ひっくり返しどきだ。次女がわたしの顔を仰ぐ。
「いいの? いいの? 裏返すからね?!」
せーの、でひっくり返す。念のため、わたしはターナーに手を添えている。このあたりから、甘く香ばしいホットケーキの匂いが立ちこめる。
焼き上がったホットケーキは娘たちお気に入りのお皿に盛りつける。彼女たちがおいしそうに頬張るのを見て、わたしの表情が思わず緩む。自分たちでつくったものの味は格別だそうで、おかわりも。
わたし自身の子ども時代を振り返ると、母とこういう共同作業をした記憶がほとんどない。母は忙しい人だったから、わたしと妹はよく二人で遊んでいた。ほんとうはお菓子づくりなんて、すごくやってみたかったけれど。
仕事でも趣味でも人付き合いでも、「自分がしてもらっていたら嬉しかっただろうこと」を想像し、提供したときに喜ばれることが多い。
去年、友人に出産祝いを贈ったとき、わたしが産後すぐの頃に手に入れられなくて困った化粧品をいくつか添えた。友人からはびっくりするほど感謝された。
そういう場合もあるので、自分がしてもらえなかったこと、手に入れられなかったものを記憶に留めておくことも悪くない。だから、娘たちとふれあうとき、わたしは子どもの頃に自分がしてほしかったあれこれを掘り起こしてみている。
これからも早帰りの日にはなにか楽しいことをして過ごそう。
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