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最近読んだ本たち(ゆっくりさんな11月分)

時の流れは早いと毎月書いていて、自分で嫌になる。悲しいくらい同じことを書いている。けれど今月も書く。ほんと、早いよねえ。だって、11月もすごい勢いで過ぎていったから。

気持ちが上すべりする原因がたくさんあった。本を読んでいる場合じゃなかろう、との心の声もときどき響いた。それでも少しは読んだ。ときに読書は現実逃避のための手立てだ。そしてときに本は心を救う道具でもある。「いいなあ、本って」と思わされたひと月だった。

小説が2冊。
ほんとうはもう少し小説読みたいなあ、と。

『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』 ダニエル・ソカッチ

とにかく読むのに時間がかかった。「知っているように思っていたけど、知らんことだらけやん」。そうぶつぶつ呟きながら、ときどき調べものをしながら、読み進めた。

いつも読書記録はネタバレしないよう書いている。これについても詳細は書かないけれど、教科書的な記述だけでは理解しきれないことを掘り下げられる本。「インティファーダってあれだよね、パレスチナ人の一斉蜂起、みたいな……」という、私のいいかげんな理解に鞭打ってくれた。

1、2週間かかっても読む価値あり。

『血も涙もある』 山田詠美

山田詠美育ちである。高校生のときに『放課後の音符(キイノート)』に出会って以来、私の精神の柔らかいところは山田詠美の文体に掴まれたままだ。

いつだったか、ネットサーフィン中、口さがない書きこみがあふれる掲示板にたどり着き、「山田詠美はもう終わってる」なんて言葉を見かけた。なにがやねん、と反感を大いに燃やしながら読んだのを憶えている。

軽妙さを漂わせながらも心のひだにじわじわと入りこんでくる毒のような切なさ。これぞ山田詠美じゃないかと思う。「エイミー!」と叫びたい気分。

うん、山田詠美は終わってなんかない。

※ 余談だけれど、高校時代、私の学生鞄を勝手にあさり、山田詠美の小説を取り出して「いやあー、これセックスって書いてあるよおぉー、ぎゃはは、きもーい!!」と騒いだ同級生のフルネームを今でも覚えている。私なりに腹立たしく感じたのだろう。おかげで、人のバッグやポーチの中身に異様に興味を示し、ことわりもなく触る人が大嫌いになった。

『号泣する準備はできていた』 江國香織

久しぶりの江國香織小説。ひと言で言えば、豊かな時間が下りてくる本だった。心においしい描写がいっぱい。

日常にむこともある。閉塞感を抱えたまま、ぎこちなく日々をやり過ごすことも。でもみんな生きている。やるせなさに溺れそうになるなか、ささやかな自恃心を頼りに、顔をあげて生きていく人たちの姿。なんだか心がざわざわした。

心の底に沈殿し、すっかり固まってしまっているものを撫でていくあの感じ。江國香織作品を読む醍醐味だと思う。私の場合、『洋一も来られればよかったのにね』にはぞっとしてしまった。結婚はかならずしも人になにかを与えるとは限らないなあ、と考えこんだ一篇。

『生きるための哲学』 岡田尊司

自分でもよく忘れかけるけれど、私は哲学科出身である。厳密には私の母校の文学部には「人文学科」一つしかなく、私が在籍していたのは哲学・思想文化学専修という専攻区分だ。

同級生、先輩方はきっと思っているはず。「お前が哲学科卒を名乗るんじゃねえ!」。そう思われても仕方ないほど、私は勉強しない学生だった。

でも、哲学にそっと触れながら生きる人生を歩みたいのだ。それくらい許されるだろうと思っている。

研究対象としての哲学は私のなかから抜け落ちてしまった。でも、生きるための哲学は携えて暮らしたい。そういう気持ちに、岡田尊司作品はずばっとハマる。精神科医としての臨床経験をもとに、苦難を生き抜く思想を授けてくれる感じがあって、読了後の私の心にはじんわり希望が湧いてくる。

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11月は自主忌引きを設けたおかげで猛烈に忙しかったけれど、読書はマイペースに進められた。ドタバタのなかにもゆっくりと流れる時間を持てたと思う。こういうのも悪くない。

12月はなにを読もうかな。


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