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最近読んだ本たち(駆け抜けた8月分)

8月はあれこれ立てこんでいて、忙しかった。夏休みがあったので、娘たちの昼食をつくり、遊びにも参加し、もちろん仕事もした。

終えてみると、駆け抜けた感じ、達成感が大きい。一つの山を越えては「なんとかなるもんだ」と、息をつく。そんなことを繰り返して、ここまできた気がする。

5冊以上は読みたいと思っているのですが、なかなか。

『旅をする木』 星野道夫

写真家としてアラスカで暮らした、星野道夫のエッセイ集。

アラスカの州都・ジュノーや、オーロラの町・フェアバンクスの写真をGoogleで引っ張りだし、眺めながら読んだ。素朴なのに鋭い、叙情に満ちた文章と、景色とを並べると、本のなかの文字が立ち上がるように感じられて楽しさ3割増しである。

アラスカの古本屋でおばあちゃん店主と話すときの筆者の優しい物腰まで想像できそうな、豊かな空気が詰まっている。いいなぁ、こういうの。

この本を書いた頃の筆者は、私と同じ、40歳前後。でも、当たり前ながら、私と彼の人生はまったく違う。人には、こんなふうに自然とともに生きる道もある。郊外の町で、育児と仕事に不器用に向き合って生きる道もある。でも、たくさんの人生のほとんどは重ならない不思議。生き方を分かつものってなんだろうと考えながら読み終えた。

解説が池澤夏樹だったのが嬉しかった。知らずに購入したので、なんだか得した気分だ。池澤夏樹の『インパラは転ばない』は、私の大好きな旅エッセイ。

『掏摸』 中村文則

冒頭に目を通したときの印象は「なにこれ、めっちゃ面白いやん」。なんばのおしゃれなカフェで読みはじめたのだけど、一瞬でストーリーに引きこまれ、前傾姿勢で読みふけっていたと思う。たぶん寄り目。怪しくなかっただろうかと今になって思っても、もう遅い。そして、帰りの電車の中でなんども財布を確認してしまった。「オッケー、すられてない……よね」。読む者にそれをさせるリアルな描写がすごい。

『私の消滅』に続き、2冊目の中村文則作品は、読みごたえがあった。

『ハンチバック』 市川沙央

この作品に関して、さまざまな意見を見かける。私はこれを読んで、健常者を中心に回っているこの国への怨嗟えんさだとは思わなかった。ただ、とんでもない熱量が感じられて、読み終えたあとしばらくぼんやりしてしまった。

ページをるあいだ、ずっと居心地の悪さのようなものを感じていたのは、私が健常者優位の価値観を持っているからなのだろうか。私は自分のマイノリティ要素を自覚しているけれど、社会に向ける意識は人によって濃淡があるだろう。答えはまだ出ていない。とにかく、そういう問いにぶつからせてくれた作品。

『三行で撃つ』 近藤康太郎

「読んでなかったんかーい!」と言われそうな(誰に?)一冊。ライターとして文章を書くうえで読んでおきたいと思いつつ、手をつけられていなかった。序盤で参考としていきなり小林秀雄が引かれていて、テンションが上がる。

常套句づかいとオノマトペが大好きな私にとっては耳の痛い章もある。読む者が「ひー」と恥ずかしさのあまり走り出したくなる指摘が詰まった章も。でも、そういう指摘を実際に受けられる機会は少ないのだし、文章力を鍛えるための本はときどき無性に読みたくなる。この恥ずかしさがブラッシュアップにつながる……といいけど。

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8月はもっと読んでやろうと意気ごんでいた。多く読めばいいというものでもないけれど、たくさん読めるなら読みたい派。

「人生ってなんて豊かなんだ!」と高揚する気持ちを抑えきれず立ち上がったり、羞恥心から階段を無駄に昇降してみたり。

そういう衝動が生まれるきっかけを与えてくれるのが本だと思っている。静的な趣味だと思われがちな読書。私にとってはけっこう動的に作用している。

9月はなにを読もうかな。

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