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評論家の女

彼女のペン1本で、いくつもの人生が終わる。

巨額のお金をかけた作品が、1つの記事で大失敗に終わる。


「評論家として、当然のことをするまでです」

何年か前のインタビューで、彼女は、涼しげな顔でそう言い放った。


「致命的な駄作」

「歴史に残る酷さ」

「老いぼれの悪あがき」

彼女は容赦無く、きわめて簡潔に、関係者の心の弱さを言い当てる。

作品を見た人も、見ていない人も含めて、何万人もの人が落胆する。

そして「やっぱりダメだったんだ」と、安堵する。

ともすれば世界中の人が、その幻滅を楽しみに待っている。


彼女は作品を見て、批評する。

膨大な知識と論理的な分析力。

詩的な感性と卓越した筆力。

そして作品の圧倒的な鑑賞量が、彼女のナイフ。

それで目玉をくり抜いて、表現者の臓物を食う。

時に生きたまま解剖し、脈動を観察する。

返り血を浴びながら、そのぬめった赤がゆっくりと冷えていく様を、シンプルに言語化する。


舞台の上で、拳銃で自殺未遂をした俳優を、彼女は絶賛した。

「舞台がしばらく忘れていた、本物の血」と。

彼は、病院の窓から飛んだ。


彼女は、敵でも味方でもない。

評論家という職業だ。

ただでさえ難解な芸術に、なぜ評論という職業が生まれたのか、誰も知らない。


いや、難解だから生まれたのか。

とにかく、彼女はそれでご飯を食べている。







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