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〈エモエモの実の能力者〉新海誠の好きな作品ランキング

 現代日本でもっとも人気といっても過言ではない映画監督、新海誠。ぼくは特別ファンというわけではないんですが、主要な作品はだいたい観たので、ランキング形式で色々語っていこうと思います。本当はベスト10にしたかったんだけど、そんなに観てなかった……。


第8位 星を追う子供

 ジブリっぽい印象のある作品。正直面白くなかったです。というかほとんど覚えていない。何かをやりたかったのだと思うけど、ぼくにはそれを受け止めることができませんでした。

第7位 雲の向こう、約束の場所

 『星のこえ』に続く新海誠2作目の作品です。これも正直よく覚えていないんですが、断片的にはいろいろ印象に残っています。日本が分割統治されていて、「塔」のある場所(エゾ=北海道)に行こうとする話です。

 この「塔」がなかなかエモくて印象的でした。関係ないんですけど、池袋のこの煙突をみると、この映画の塔を思い出すときがあります。

池袋の清掃工場の煙突


 内容は、普通に面白かったと思います。ただ、話が意外と複雑でした。

第6位 すずめの戸締り

 皆さんご存じ、最新作です。普通に悪くはなかったのですが、期待のわりには微妙だったのでこの順位となりました。3.11などの震災をテーマにしつつ主人公たちの成長を描いた作品です。

 なんですが、なんか色々テーマを詰め込みすぎて、とっ散らかった作品になってしまっていた気がします。皇居を舞台にしたシーンがあるので天皇制への批評があるとかないとか、(自然への)生贄がどうとか、わかるようでわかりません(笑)

 猫神様のダイジンがかわいそうだったなとか、ドライブのシーンでユーミンがかかってたとか、気になるポイントはいろいろあったのですが、結局何が言いたかったんだ? という気持ちになりました。一回しか観てないのでまた見直せば感想も変わりそうですが、今のところそこまでの気持ちはありません。

第5位 言の葉の庭

 『言の葉の庭』はもう……”エモ”ですね。短いわりに印象深い、人によっては名作といえるレベルの作品なのではないでしょうか。雨と新宿御苑の緑が美しいです。情景の切り抜き方、雰囲気の醸し出し方という点では、やはり新海誠はただ者ではないと思います。

 しかし、ストーリーがかなりご都合主義というか、無理やりな感じは否めません。まぁそんなこと言い出したらおしまいなのかもしれませんが、なんとなく「エモ」を人工的に作り出してる感がちょっとツライです。主人公ふたりの会話もキザっぽくて、ぼくの好みではありませんでした。

 でもぼくの父はこの作品が大好きなようなので(なんでだ?)、人によりけりなのでしょう。一ついえるのは、秦基博が歌う主題歌「Rain」が素晴らしいということです。この曲がなかったらこの作品は成り立たないくらい良いです。というか、新海誠の作品は音楽のセンスがどれもいいですね。逆に言えば音楽に頼りすぎな気もしますが、まぁ音楽も含めて映画ですからね。

第4位 秒速5センチメートル

 この作品には『君の名は』以前の新海誠の良さが詰まっていると思います。この作品は面白い構成になっていて、視点と時間の違う3つの小編によってできています。新海誠いわく

「最初に脚本として小説的なスケッチをいくつか書いてみたのですが、そのうちの3本をピックアップしたときに、登場人物がひとつにつながるなと思ったんです。そこで連作という形にしました。」

ウィキペディア

 とのことです。しかし全部で一時間しかないんですね。そのわりには見ごたえと余韻があります。それはおそらく主人公(男)の成長を、中学生から社会人になるまでの大きな視点で描いているからでしょう。思わず、人生とは……運命とは……偶然とは……と考えてしまうところがあります。

 社会人になった主人公がメールをするシーンがあるんですが、新海誠はこのメールというものがホントに好きですね。後で紹介する作品でもメールが意味深に登場してきます。人とのつながり、距離の遠さ、心の近さ(遠さ)、そういったテーマがいつも主題としてあるのでしょう。

 この作品もまた音楽が素晴らしいです。主題歌の「One more time, One more chance」はもちろんのこと、その他のBGMもグッドです。音楽が、やや断片的なストーリーをまとめ上げています。

 今現在(2024年2月5日)、東京ではめずらしく雪が降っています。第一章の桜花抄(おうかしょう)で主人公の貴樹が明里に会いに行くときにも雪がごうごうと降っていました。中学生が一人で東京から栃木まで行くなんていったら、これはもう大冒険です。しかも雪が降りすさぶ夜に。その心細さや、それでも止められない一途な思い、そういったものが上手く表現されています。

第3位 ほしのこえ

 これは新海誠の最初の作品です。監督・脚本・美術などを、ほぼすべて一人で行ったというなかなかすごい作品です。だからもちろん全体的に洗練されているとは言い難いのですが、なにか驚異的なものを感じます。

 この作品を一言で紹介すると、「携帯電話のメールをモチーフに、宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の遠距離恋愛を描く。キャッチコピーは、「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。(ウィキペディア)」となります。

 もう少しストーリーを詳しく説明すると、主人公のミカコとノボルは、お互いを好きなのですが、高校進学のタイミングでミカコは、地球外生命体と戦うために宇宙に行くことになってしまいます。いきなり何のこっちゃという感じですが、この〈日常の生活・身近な恋愛ー宇宙規模の戦い〉という構図はいかにもセカイ系という感じです。

 ミカコは(ガンダムのようなエヴァのような)ロボットで地球外生命体と戦うために、宇宙船に乗ってどんどん地球から離れていきます。二人はメールのやり取りをしているのですが、距離が離れるにしたがって、電波が伝わるのに時間がかかるようになっていきます。最終的に一つのメールが届くのに8年とかかかるようになり、二人の想いは物理的距離に引き裂かれるのだが……という感じです。

 まぁなんですか、「オタクが好きそう」な作品かもしれません。最初に見たのは高校の倫理の時間なんですが(!)、かなり印象に残っています。


第2位 君の名は

 ここら辺の順位は迷ったんですが、新海誠最大のヒット作の『君の名は』は第2位とさせていただきました。正直5位あたりからはどの作品にも良さがあるので、順位はまぁ目安です。

 ぼくはこの作品、3回ほど見たんですが、最初のうちは時系列をつかみ切れていなかったんですよね。結構複雑じゃないですか? 前の記事でも書いたように、公開当初は逆張りで見ていなかったのですが、少したってから見てみると、やっぱり面白いなと思いました。

 ただ、めちゃくちゃ刺さったかといえば、そうでもなかったです。ストーリーは上手くまとまってるし、RADWIMPSの音楽もマッチしてるし、画面もとても綺麗なのですが。その理由は、キャラ造詣がやや典型的だからかもしれません。「これはこういう人物」という方向性がしっかりしているので、それで「フィクション感」を感じてしまうとか。

 とはいえ、『君の名は』はこれ以降のアニメ映画の方向性を大きく定めたように思います。たとえば現実の街をリアルに描くというのも、一つ大きなポイントだと思います。よく出てくるのは新宿とか。新海誠は新宿がほんとに好きですね。観ている方もここあそこだ!となるし、「聖地巡礼」とかいって話題にもなるし、良いことづくめなのかもしれません。

第一位 天気の子

 というわけで、第一位は『天気の子』です。周りの感想をなんとなく見る感じ、『天気の子』は君の名は以降の作品のなかではあまり人気がない気がするのですが、個人的には好きです。

 この作品から、気候問題とか震災とか、そういう「社会派」な要素がはっきりと出始めている気がします。警察やネカフェをさまよう帆高、親のいない陽菜・凪の描写もそのひとつですね。

 バックにグランドエスケープが流れながらのクライマックスは、新海誠の映画のなかでも随一のカタルシスがあるんじゃないかと思います。あと個人的には、よく行く池袋が出てきたのがうれしかったです。

 天候を晴れにする力を使うことで消えてしまうという陽菜の設定も、突飛なようでいて意外と違和感なく組み込まれているのではないでしょうか。陽菜を犠牲にして晴れを手に入れるのか、あるいは晴れを諦めるのか、という主題には惹かれるところがあります。まさにセカイ系という感じですが、こういう葛藤がぼくは好きなのかもしれません。

 ただ、ひとつ疑問なのは、最後のシーンで帆高と陽菜が再開するときに、雨がちょっと止んで空が明るくなっていた点です。帆高は陽菜を選択したのだから、当然東京は水浸しです。そうやって東京が(つまり社会が)ひどいことになるからこそ、帆高の選択が重みをもってくるのに、最後のところではその悲惨さが弱められていたように感じます。女の子一人を選んで水浸しというのではちょっと救いがないから、最後に光を射すことでそのショックを和らげようとしているような、そういう姑息さを感じます。

 実際、帆高の選択は「普通に」考えたらかなりやばいものです。でも、だからこそ意味がある。帆高以外のほとんどの人間からしたら、陽菜という知らない女の子の存在(命)よりも、日常の晴れの方が大切なはずです。でもそれでいいのか。ここにこの作品の重心があるのではないでしょうか。

 功利主義的に考えたら、もしかしたら陽菜は犠牲になった方がいいのかもしれない。陽菜には身内もほとんどいないみたいだから、悲しむのは凪と帆高くらいでしょう。社会はなにもなかったかのように晴れを享受できる。でも帆高はそういう論理に、つまり社会に反逆する

 それで実際、東京は水浸しになったわけですが、最後のところで新海誠はちょっと日和って「イイ感じ」にまとめてしまった気がします。もちろんこれはエンタメ映画だから、気持ちよく映画を見終えるようにする必要があるのでしょうが、ぼくは少し残念でした。


 以上、ぼくの思う新海誠映画ランキングでした。こうみると近年の新海は、「秒速」的エモエモの実の能力者からかなり変化しているようにも見えますね。似たような立ち位置の映画監督に細田守がいますが、ぼくは圧倒的に新海派です。細田のあの「絆が一番!」みたいなノリにはときどき蕁麻疹がでそうになります(なんか解釈を間違えていたらごめんなさい)。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

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