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高校の授業で生成AIを使ってみた〜生成AIが引き出す生徒の「創造力」と「健全な不安感」〜

こんにちは。みんなのコード未来の学び探究部の永野です。

昨年は生成AIの普及が急速に進んだ1年でしたね。学校現場でも、どのように活用していくか、文部科学省が2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表しました。このガイドラインに基づき、一部の学校がパイロット校として指定されました。これにより、今年はさらに多くの学校で生成AIを用いた授業が実施されることが予想されます。

昨年は、みんなのコードでも、多くの学校のみなさんの協力いただき、小学校、中学校、高等学校の各学校段階で、生成AIを活用した授業を行いました。

本日は、昨年3つの高校で実施された、生成AIを取り入れた授業の様子についてご紹介したいと思います。特に、先生方に、生成AIがどのように教育現場で活用されているかを分かりやすくお伝えできればと思っています。

鹿児島県立奄美高校の実践 〜AIで地域の魅力再認識!〜

8月24日に鹿児島県立奄美高校で、「AIを使って旅行プランを考えよう」と題した講座を実施しました。
この講座は、大島地区高等学校商業教育研修講座の一環として開催されたもので、奄美大島、喜界島、鹿児島本土から6校の高校生が参加しました。奄美大島内の生徒は、奄美高校に集合し、その他の学校はオンラインで参加、各学校には民間企業のボランティアの方にサポートしていただきました。

画像認識AI・生成AIを自由に使った後、AIの仕組みを知る時間を経て、「自分のまちの旅行プランを提案しよう」というワークを行いました。

  • 対象と時期を設定する

  • 参加者に何を知って、何を感じてもらいたいか考える

  • プランとキャッチフレーズを作成する

などの条件で、2時間グループワークに取り組んでもらった結果、「高校生最後の恋する奄美バイク旅」「漢旅 マッスル編(大学生のための筋トレ旅行)」「東京在住、定年退職後の夫婦のための自然に触れる旅行」など、個性豊かなプランが生まれました。

生徒たちからは次のような感想が寄せられました。

  • 自分の住んでいる地域のいいところを知ることができたし、AIを利用する際のコツを掴めた。

  • AIが書いたことがすべて正しいとは思わず、判断しながら利用しようと思った。

  • 事実を知りたいときには、生成AIではなく、グーグルなどの検索エンジンを利用しようと思った。

カリキュラムに「観光ビジネス」を設置している奄美高校商業科の「これからの観光産業を担う生徒たちに新しい価値観を醸成したい」という想いに応えることができたと考えています。なお、奄美高校のブログにも当日の様子がレポートされていますので、ぜひご覧ください。

千葉県立市川工業高校での実践 〜”電気を制する者は未来を制す”〜

10月5日に千葉県立市川工業高校で「生成AIを使ってみよう」と題した授業を実施しました。
この講座では、はじめにAIの種類を学び、生成AIの簡単な体験を通して生成AIの特性を知り、生成AIを上手く使うコツを学びました。その後「AIを活用して市川工業高校「電気科」のキャッチフレーズを作ろう」というグループワークを行いました。

  • AIを使う前に、「電気科」にどんな特性があるか考えよう

  • 見た人に「電気科」をどのように感じてもらいたいか

  • キャッチフレーズのコンセプトをグループ内で相談しておく

などの共通の条件を確認した上で、2時間のグループワークに取り組んでもらった結果、
「次世代力ここで磨け!」
「あなたの熱意が電流に乗り、無限の明日を照らし出す」
「明るい未来を照らす電気科」
「電気科で未来を照らそう!楽しさと忙しさの中にやりがいを見つけて!」
など、インパクトのあるキャッチフレーズが生まれました。また、発表スライドの背景に、画像生成AIを活用していたグループもいくつかありました。

発表では、キャッチフレーズの目的・コンセプト、想定する相手、プロンプト、AIを使って困ったところ、良かったところ、工夫したところなどを各グループごとに共有しました。

「生成AIを使うときに気をつけようと思ったことはありましたか?」というアンケートに対して、生徒たちからは、次のような意見が寄せられました。

  • AIを使うにはやはり、自分の言語能力が問われると思いました。理解はできるが、「何て言えばいいかわからない」ということがあると、思った通りの答えが返ってこないなどのことがあるので、「質問をわかりやすくする」というところを意識しながら使用しようと思います

  • 生成AIの回答を鵜呑みにしないというところです。あくまで自分の想像力を補うように、利用するのが正しい利用方法だと思いました

電気科の生徒のみなさんならではの視点を活かしながら、生成AIを使うことについて学ぶ時間ができたと考えています。なお、市川工業の電気科だよりにて、当日の様子がレポートされておりますので、ご覧ください。

後日談になりますが、授業で考えたキャッチフレーズは、10月下旬に実施された中学生向けの体験入学で人気投票が実施されました。中学生や保護者の方も、授業で生成AIを活用していることに驚いていたとのことです。ちなみに、中学生が選んだ人気No.1は、「電気を制する者は 未来を制す」でした。

山口県立防府高校の実践 〜生成AIとディベート〜

3校目の山口県立防府高校では、10月17日に1年生を対象に「AIの特性と今後の利用について考えよう」という授業を行いました。
授業の冒頭では、1校目・2校目と同様にAIに関する特性や種類について学んだ上で、生成AIを使ってみました。ある程度生成AIの使い方に慣れてきたところで、本題の生成AIとディベートにチャレンジしました。ディベートにも種類がありますが、今回は「即興性重視型ディベート(パーラメンタリーディベート)」にチャレンジしてもらいました。

ディベートのテーマは私が用意して、生徒たちに選んでもらいました。

ディベートに入る前に、生徒たちにはAIがどういった答えを出してくるのかあらかじめ想定してもらいました。あるチームは、「学生のAIの使用について」というテーマを選びました。AI側は学生のAIの使用について禁止、人間側は禁止すべきではないという、それぞれの立場でディベートをすることになりました。そして、AIがどんな主張をしてくるのか、自分たちの主張もチームで議論をした上で、AIとディベートできるようにプロンプトも事前に考えました。

実際に、AIとディベートした内容はこちらです。

授業を受けた生徒たちからは

  • 「単語ではなく、詳しい文章で回答がくるので驚いた」

  • 「自分にはなかった視点で疑問を投げかけてきた」

  • AIが間違ったことを教えるのは知識として知っていたけど、今日実際に使ってみてそのことを身に染みて感じることができた。結局、自分たちがどうAIを活用するかによって結果も変わってくるので、使い方に気を付けようと思いました。

  • 生成AIにも得意不得意があって、人がAIの最大限の力を出せるためにはそれらを把握しておかなければならないと思った。

AIとのディベートに悪戦苦闘しながらも、どうAIと対話をしていくか生徒たちは考えながら取り組んでいる姿が印象的でした。授業の様子は朝日新聞で記事にしていただきました。ぜひ、ご覧ください。

アンケート結果の比較 〜しくみを理解した上での体験の重要性を示唆〜

3校それぞれで、授業の実施前後にアンケートを取りました。そのうち、AIに対するイメージに関する設問についての結果をご紹介します。

2020年に消費者庁が実施した「第1回消費者意識調査結果(AIに対するイメージについて)」を参考に、以下のようにアンケートを取りました。

Q. AIに対するイメージのうち、当てはまるものを全て選択してください
暮らしを豊かにする/生活にいい影響を与える/親しみが持てる/使うのは楽しい/人間よりも作業が早い/なんでもできる/ミスをしない/正しい判断ができる/不安である/なんとなくこわい/私にはあまり関係ない/

有効回答数は、奄美群島27、市川工業高校77、防府高校35。全体のうち、上記のイメージの項目を選んだ割合を比較した結果が以下の通りです。

3校とも、AIに対するポジティブなイメージは増加傾向。

過度な期待イメージ・ネガティブなイメージを抱いている生徒は元々多くないが、授業後はさらに減少傾向。

なお、授業後も「不安である」を選択した生徒の授業の感想には「生成AIの回答を鵜呑みにしないように注意する必要がある」といった「きちんと注意した上で、生成AIと向き合っていかなかなければならない」という「健全な不安感」とも言える回答が見られたことも印象的でした。

さらに、授業を受ける以前の、生成AIの使用経験の有無に分けて整理をしてみました。
その結果、生成AI使用経験あり群の方が、経験なし群に比べて、AIに対してポジティブなイメージを持っているが、同時にネガティブなイメージも抱いている傾向がありました。

  • 家庭等で積極的に使ったことのある生徒は、その経験から生成AIの可能性を感じているものの、自己流で触るだけでは「なんとなく怖い」などという思いも抱いてしまう可能性がある

  • きちんと生成AIの仕組みや特性・限界を知った上で体験することによって、ネガティブなイメージが払拭されたり、健全な認識になっていく

ということが言えるかもしれません。 

生成AIを使い始める時のポイント 

この1年間ほどの生成AIの発達はあまりにも急激であったことから、学校での利用について慎重になるのは当然かと思います。
ハルシネーション(AIが事実ではない情報を生成する現象)をはじめ、どのような危険があるかについて先生や大人たちが十分把握した上で生徒に利用させる必要があります。同時に、生成AIの可能性についても今後の社会を生きる生徒たちにしっかり理解してもらうべきだと感じます。生成AIが万能であると過信せず、留意点や危険性について理解しつつも、それをどのように生かしていくか、という観点が必要です。

ただし、「生成AIの回答には間違いがある。嘘に注意するように。」と先生が釘を刺してから生徒たちが生成AIを使うと、あまり活発に試してみようとはしません。

「AIなんて大したものではない」とたかを括ってしまうのです。

発達段階も考慮しなければなりませんが、はじめは、ある程度自由に使ってみることも重要だと思います。個人情報を入力しないなどの最低限の注意事項はしっかり伝える必要がありますが、まずは生成AIの利用方法について、ほとんど指示せずに使ってみてもらいます。
自由に使わせてみると、生徒たちは大人たちが想像もしないようなユニークなやりとりをAIと始めます。

まず、この子どもたちならではの「発想」を萎縮させないようにすべきだと授業実践を通して感じました。

授業を通して、生徒たちがAIとやり取りしていく中で、自然と「この情報は古いな」「これ、間違っている!」という声が上がってきます。この現象は、小中学校を含めこれまでに実践を行った全ての学校で見られました。

その後、感想を聞いてみると、
「便利だけど、全て信じてはいけない」
「自分で事実確認することが重要」
「指示がしっかりできていないと、回答もあまり良いものが帰ってこない」
としっかりとAIの特性について感じとっていました。

その上で先生が生徒たちの発言や体験を拾いながら、生成AIの留意点や危険性について生徒たちとまとめていくのです。
そして、学習データはある期間までのものが用いられていること、生成AIに感情などはなく、確率を用いて言葉を繋いで文章を生成するプログラムであること、学習データそのものにバイアス(偏った情報)があると回答も当然偏ったものになることなど、簡単な仕組みについて確認します。すると、生徒たちはAIがなぜ古い内容を回答したのか、なぜ間違いや嘘をつくことがあるのかについて理解し、AIの特性を考慮して回答を得ようと工夫していくようになります。

体験、実感して活用に向かう

このように、先生や大人たちがフォロー、サポートすることは不可欠ですが、教え込むのではなく、生徒たちが新たなテクノロジーの特性を肌で感じ、自ら体験、実感するといういくつかの段階を踏んで学んでいくことが重要なのだと思います。

学びを経て生成AIを有効に使う経験をしていけば、子どもたちにとって生成AIは問題解決や創造的な活動のヒントになり得ると思うのです。

レポートや課題を生成AIに丸投げするのはよくありませんが、このことについても生徒たちは意外と冷静に判断しています。「知ったかぶり」や「パクリ」は彼らにとっても恥ずかしいことなのです。いずれにしても大人たちは課題やレポートの出し方については改めて考え直さねばならないでしょう。

生成AIのメリットは、事実を調べることや、人間が考えなくて済むようになることではなく、「人々の視野を広げ、新たな情報を作り出すヒントとすること」です。

生徒たちの創造的な学びの実現に向けて、みんなのコードは先生や子どもたちと生成AIについて学び続け、支援していきたいと思います。



ここまでお読みくださりありがとうございます。

みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をビジョンに掲げ、2015年の団体設立以来、小中高でのプログラミング教育等を中心に、情報教育の発展に向け活動し、多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでまいりました。

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