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コーダに指文字を“先に”教えたほうがよいですか?

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《コーダ子育て中の親向け》
コーダ子育てサロン(対面・オンライン)にご参加いただいた方達の、子育てに関するお悩みやご相談いただいた内容をまとめました。
※コーダ=聞こえない親を持つ聞こえる子どものこと
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Q.コーダに指文字を“先に”教えたほうがよいですか?

A.私たちの経験上、お勧めしません。

まず、手話と指文字の違いについて説明します。
指文字は手話とは違うもので、手話のフリガナ的な存在です。

決まった手話のない人名や地名、漢字のルビや外来語などに指文字を用います。よって、指文字だけのコミュニケーションはありません。


さて、コーダに指文字を“先に”教えてしまうとどうなるのか…?

コーダは、耳に入ってくる新しい言葉(この言葉に対する手話を知らない)を親に身振りや手振りで伝えますが、指文字を覚えることで、新しい言葉を指文字で表すことが多くなり、指文字だけのコミュニケーションになってしまいます。

コーダが、アニメやマンガのキャラクターの登場人物の特徴を「○・○・○・○・○・○・・・」と指文字で表したとします。

指文字を見て、すぐ理解できましたか?
一つ一つ集中して読み取り、理解していくのは大変です。
まるでスパイが送った暗号を読み解くイメージですよね。 

30年ぶりにマンガを描いてみた💦

聞こえない親は、指文字を理解していても聞いたことのない名前だった場合、すぐに名前が思いつきません。

コーダのイメージしている内容を探るために、絵本や図鑑など、手掛かりとなるものを持ち寄って確認しますが、あれこれ聞いてもコーダは「違う!これじゃない!」とイライラするばかりで、親としては、困り果ててしまいます。

指文字で表しがちなコーダと接する際、親は指文字で聞き返すのではなく、手話や身振り手振りで確認するよう心掛けてください。

これを繰り返すことで、コーダは“あ、なるほど!こうやって伝えればいいんだ”と理解するようになります。親への伝え方を理解した後は、手話や身振り手振りを手掛かりに伝えてくることが増え、次第に指文字から身振り手振り、手話へと切り替えられるようになります。

コーダにも、親と話したい気持ちがあります。いま、指文字だけで育ててしまっていても、まだ間に合います。

コーダではない聴児の場合でも、声で「おおきいの、まるいの、〇〇みたいの!」という言い方であれこれと話し、聴児の言いたいことが理解できた親は、「あ、これは○○○だね。」と新しい言葉を伝えるといった会話の流れがありますね。これと一緒です。

「指文字と声(音声日本語)」で育ったコーダが入園したらどうなるか…?

音声日本語が飛び交う環境にいる時間が長くなると、コーダは耳で日本語を覚えるようになります。

親子だけでいられる時間が短くなり、手話で話す機会が少なくなると、「あのね、○○○、○○○、楽しかった!」と指文字と声で伝えられても、親は“この○○○って何のこと?”と分からないことが増え、親子の会話がスムーズにいかなくなります。

コーダが赤ちゃんの時から「手話」を言語として育てることをお勧めしていますが、「指文字と声」で育ててしまった場合でも、あとから「手話」への切り替えはできます。

年齢に関係なく、手話への切り替えはかなりの労力が必要です。できるだけ早い時期に切り替えることが大事ですが、少しずつ気長に取り組んでいただければと思います。

当然、パートナーの理解と協力も不可欠です。 ▶手話子育てがいい理由(後日掲載予定) 

コーダを育てる中で、これだけは気をつけてほしいことがあります。

それは、コーダが覚えてきた新しい言葉を、親が手話で表したにもかかわらず、「指文字と声」で話してきたときに、「さっき教えたでしょ。手話で話してみて!」「聞こえないから手話でお願い!」とせかしてしまうことです。

コーダはたまたま手話を思い出せなかったかもしれません。また、指文字を手話と同じだと思い込んでいて、つい「指文字と声」で話しただけかもしれません。コーダの気持ちを考え、手話を強要するようなことはできるだけ避けましょう。

このようなことがあると、親に話したいという気持ちが失せ、言われたことに納得がいかず、理不尽に感じてしまうことがあります。(地団駄を踏む、癇癪を起こすこともあります。)

幼いコーダほど、手話表現は完全ではありません。また、手話と日本語の二つの言語を身につけるのは簡単なことではありません。かなり時間がかかりますから、親は「傾聴と辛抱」が必要です。待つことも大事です。

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最初に、指文字を読み取ることは、暗号を解読するくらい大変だと書きました。

指文字から手話に置き換えるための会話術を紹介します。 

まず、コーダが指文字で表現します。

指文字「ウ ル ト ラ マ ン ノ メ ハ ス プ ー ン ダ ッ テ 」

話し言葉の日本語「ウルトラマンの眼は スプーンだって!」

耳で聞けば、簡単に理解できますね。手話に置き換えても同じです。
コーダの言いたいことが分かったら、親は手話でこのように表現します。

日本手話「ウルトラマン(シュワッチ)/ 眼 / スプーン+(大きな頷き)」

★プラスアルファ★
「へえ~」「なるほど」「おもしろい!」などの相槌の手話も取り入れると会話の幅が広がって、やりとりが楽しくなります。(3歳前後でのやりとり)

小さい子が表現する「へえ~」の手話は何度も見たくなるほど、とても可愛いですよ。 反抗期真っ只中の子が表現する「へえ~」の手話は何となく憎たらしくもあって、やはり手話は魅力的な言語ですよね。  ★おわり★

ここまでお読みいただいた方には、「指文字と声」で子育てをすると、「親子間でのコミュニケーションがスムーズにいかなくなることがある」ということを理解していただけたかと思います。

まとめ & 指文字の伝え方

簡潔にまとめますと👇

「指文字と声」で育ったコーダが、「指文字と声」で話してきたら、親は傾聴しながら手話や身振り手振りで内容を確認し、理解できた内容を手話で復唱する形で返すことで「指文字と声」から「手話」へ切り替えられるようになります。

それを繰り返しながら、手話メインでのコミュニケーションへと近づけます。手話は楽しくおしゃべりするという感じでやりとりした方がずっと身につきやすいです。

指文字のことで長らくお話しましたが、

聞こえない親は、コーダにも手話が必要と分かっていながら、自然と身につけさせるにはどうしたらいいか悩んでいます。コーダの手話獲得は、実践的な経験や見本がないと、とても難しく感じますね。

親子間での会話術を知ってから、解決・改善できたというケースが多いです。こういう方法をぜひ、周りの人たちに広めていってください。
(▶実践方法を手話動画にする予定)

【指文字の伝え方】

コーダは文字に興味をもつ年齢になると、指文字を覚えたい気持ちも出てきます。

指文字表や指文字入りのあいうえお表を使って指文字を覚えさせる方法もありますが、できれば、普段の生活の中で指文字を取り入れながら、手話でやり取りしてほしいのです。

コーダには、手話での表し方がわからない言葉があった場合は空書きするよう普段から伝え、空書きした言葉に手話がなければ、親はその言葉を「指文字」で表します。

以下、例文です。

子「今/友達/会う/スミレ(空書き)/」
親「あなた/友達/スミレ(指文字)」と復唱

子「ゲーム/作る/マイクラ(空書き)
親「ゲーム/名前/マイクラ(指文字) これ/何?」と復唱プラスアルファ

このように指文字を取り入れることで、コーダは、指文字に偏らずに手話で表現しながら、指文字も自然と習得できるようになります。


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