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夫婦の時間

 ちゃんと恋愛したはずなのに……

 結婚するとなんでこんなに合わないのだろう。
 きっと既婚者なら一度は思ったことかもしれない。
 恋愛中は見えない何かが結婚するとはっきり見えてしまう。
 その見えない何かというのは確実に二人の仲を裂いてくる。

 何についてそんなに口論するのかというと、実はそんなに思い出せない。
 とにかく、些細なことで言い合いをする。言い合いをする中で『そんな言い方しなくてもいいじゃん!』という言葉が飛び出してしまう。

『いや、そういう言い方しなくてもいいじゃん』
『言い方の問題? あたし、間違ったこと言ってる?』
『言ってないよ。だからそこは申し訳なく思ってるけど、そういう言い方されると気分悪いじゃん』
『だって何回目? そんなんイライラするし』

 こんなやり取りのあと無言になってしまう。
 何を言われても優しい言葉なんかかけられない。

 新婚時代って一番いい時期に見られがちだけど、実はそんなことはない。

 ん?
 違うかな?
 もしかしてボクらだけかな??

 いやいや……だったら何で世の中にはこんなに離婚するカップルが多いのだ?
 それはまさにこういう些細な間違いを修正できないまま『別れる』という選択をしてしまうからではないだろうか。

 まあ、新婚の頃はお互いの距離感がつかめないということもあるので、簡単に口論になって喧嘩にまで発展してしまうということがよくある。
 これがある時期を乗り越えてしまうとそうでもなくなる。

 あきらめ?

 そんな言葉も頭に浮かぶけど、まあ、それもある。
 ただ……あきらめだけではない。
 相手に敬意を払うということができてくるのだ。
 自分のことばかり考えず、相手のことをちゃんと頭に入れて行動するということが身についてくる頃、今までは恋人だった二人はちゃんと夫婦になっていくのである。

 敬意を払うことができるようになると自分と合わないことがあっても相手に無理強いはしないし、逆に少し相手に合わせてもいいのかなという気持ちになる。

 ただあらためて夫婦の時間が長くなると、ふと……なんでこんなに合わない人を自分は人生のパートナーに選んだのだろうと考えてしまうことがある。
 とにかく趣味という趣味がすべて合わない。
 恋人だった頃にあんなに盛り上がっていた会話が今では朝の挨拶程度……。
 おかしい……。
 なんでだ??

 そんなこと言いながらもお互いを嫌いになったわけではない。
 それなりに愛しているという気持ちは持ち続けている。

『うおおおいっ!! 早くしてくれ!!!』
『ちょっと待ってよ』
『切羽詰まってるんだ……早く……』
『ごめん。しばらくかかるわ』
『ええ……』

 合わない夫婦であってもどこかしら合うところはあるのだ。

 それが朝のトイレの時間である。
 大抵、ボクが入ろうとするとかみさんが先にいる。

 ん?

 いや……もしかしたら嫌がらせなのか??
 そんなわけはないだろう。
 しかし、なんでこんなところだけ気が合うのだろうか。

 夫婦と言うのは不思議なものである。

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