警備員日記(美志・vol 20)

任されて鉄鋼ゲートを護るとき耳の奥まで海風来たる

朝の立哨、夜の動哨、一日を哨に充てつつわが生業(なりはひ)は

われもまた灯火のひとつ連なれる誘導灯の点滅のひとつ

巡回を終へて待機に入るときの安けさはふと祈りに似たり

この道二十年、といふ隊長の厳しき岩のごとき立哨

斎藤さんと敬礼をまた交はしあふ敬礼のみの付き合ひなれど

車、歩行者、車、自転車!車!われはうろたへる警備員なり

彼岸へと渡るしづかな船あればまだ聞こえざる警笛を鳴らす

駐車場にあまた群れ咲くあぢさゐを泡のごとしと思ひて過ぎぬ

制服の乱れを言はれ書き記す夜光ベストのボタンの位置を

怒鳴らるることにも慣れてきたるころ怒鳴らるること減りてゆきたり

営業の電話のごとくやつてくる横浜支社の出勤依頼

出勤の依頼をつひに断れず泣く泣く歌会を断るわれは

ダイエットコーラ飲み干し持ち場へと向かふうしろの方に陽光

喫煙派の葬式のごとく思ふかな煙に満ちしブリキのバケツ

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