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【映画の噺(外伝)】クールな女刑事の活躍「THE BRIDGE/ブリッジ」

 『THE BRIDGE/ブリッジ(Bron | Broen, 2011) 2011年9月-11月』は、スウェーデンとデンマーク共作による刑事ドラマ。
 スウェーデンとデンマークの国境にある、オーレスン橋(オーレスン・リンク)。その中間にあたる国境線上で見つかった、不可解な遺体に端を発する事件を、両国の刑事が合同捜査で調査に当たります。

 そこで暴かれるのは、北欧の国々に立ちこめる闇の部分。
 人々の心が荒廃するのは、現代のウクライナ問題に通じる脅威が、背景にあるが故です。

 個性的な刑事によるバディもの。でも単なるバディもので終わらない、深い作品世界をのぞいてみます(ネタバレなし)。

(画像のImage Souse=Review: The Bridge or Bron/Broen Season 2 | everythingnoir)

Norbert PietschによるPixabayからの画像(オーレスンリンク)

オーレスン・リンクとは?

 映画ではないけど、英米にはない魅力にあふれた、北欧のTVドラマを取りあげる。
 原題の『Bron | Broen』は、言ってみれば「橋です/橋やねん」。
 スウェーデンとデンマーク共作による作品で、両国警察が合同調査を行う刑事ドラマだ。

 ”Bron | Broen”は、スウェーデン語とデンマーク語で、それぞれ「橋」のこと。セリフもスウェーデン語とデンマーク語が半分ずつ使われ、それぞれの国で相手側字幕をつける、といった懲りよう。
 両国を結ぶ海上/海中『橋』であるオーレスン・リンク上で見つかった遺体が事件の発端になる。

 オーレスン・リンクは、デンマークとスウェーデン(スカンジナビア半島)との間にあるオーレスン海峡を結ぶ橋。
 鉄道道路併用橋であり、また併用海底トンネルでもある。2007年7月1日に開通し、全長16キロに渡る。

 スウェーデン側から伸びた海上の橋が、デンマークに至る途中で海の中に消えているのだ。不思議!?
 海峡の真ん中に、人工島ペベルホルム島 (Peberholm) があり、アマー島からペベルホルム島まで海底トンネルで繋がっている。トンネルは 4050 m(海底部3750m)、島上ルートが4055 m、橋梁部が 7845 m。
 恥ずかしながら、こんなスゴイ構造物が北欧にあるとは知らなかった。

 このオーレスン・リンクのライトが突如消える。
 48秒後に電源が復帰したとき、橋上にある国境線上に切断された女性の遺体があった。
 上半身はスウェーデン側、下半身はデンマーク側、上半身はスウェーデンの政治家、下半身はデンマークの娼婦のものだった!?

イラストACより(作者Bellaさん)

女刑事サーガ・ノレーンの魅力

 北欧ミステリは重厚で嫌いではないのだが、一見無関係なエピソードが同時並行で進み、最後に一点に収束する、という構成がムズカシい。
 読むときも観るときも、集中力が途切れないよう気合いが必要だ。

 国境線上の殺人事件なので、両国の刑事による共同捜査が始まる。
 スウェーデン側はマルメ県警の女性刑事サーガ・ノレーン。デンマーク側からは、コペンハーゲン警察のマーティン・ローデが派遣される。

 サーガ・ノレーンは、英語版ウィキペディアでは独自の項目として扱われるほどの有名人。
「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」で、対人関係が苦手・強いこだわりといった性格の特徴をもつ。
 トレードマークはレザーパンツとブーツ。愛車はポルシェ。

 彼女は人目を頓着せず、署内でも平気で着替えをする。
 また捜査現場で足止めを食らっていた、患者搬送中の救急車ですら拘束する。見かねたローデが救急車を解放すると、怒って報告書に記載する、といった具合。

 そこで、ああ冷徹なコンピュータ刑事と人情デカのバディもので、このふたりが、いがみ合いながら解決に持ち込むのね、などと思ったら大間違い! 
 そんな生やさしいものじゃなかった!!

 米国版のリメイクがあり、アメリカとメキシコの国境を舞台にしてダイアン・クルーガーが主演を務める(『ブリッジ ~国境に潜む闇』)。また、イギリスとフランスでは、『THE TUNNEL』と名前を変えてリメイクされている。

 だが何と言ってもハマリ役なのは、本国版のソフィア・ヘリーン(Sofia Helin)。美人だが唇の上に傷があり、24歳のときの自転車事故でうけたものだそうだ。二児の母。
 日本ではハンデになりそうな特徴を、逆に生かしている。
 役柄とは別のインタビュー動画などでは、快活に笑っていて、違和感がハンパない。

PhotoACより(コペンハーゲン)

現代の北欧社会に潜む闇

 二カ国共同作品なのだが、ス側の被害者が政治家で、デ側が娼婦といったように終始『おバカなデンマークvsお利口なスウェーデン』という構図。
 日本などが隣国相手に、このような設定の作品を作ったら、大問題になりそうだ。

 ここで扱われるのは、北欧が抱える様々な社会問題だ。
 移民の増加に伴う不公平感、臓器移植、精神疾患、子どもへの虐待、環境問題と過激な環境問題啓発テロ。

 こうした暗いトーンは、この作品が作られた2010年という社会背景もあるだろう。スウェーデンは、2010年まで徴兵制が施行されていた。
 デンマークも徴兵制が施行され、こちらは18歳から32歳までの男子が対象。兵役期間は4ヶ月。
 両国とも良心的徴兵拒否が認められるが、これがまた新たな火種。兵役拒否者は代替役務に就くが、それが可能な人たちとの差別だと感じる者もいる。

 現在、世界のおよそ3分の1にあたる約60カ国が、徴兵制を敷いている。女性への徴兵義務を課す国もあり、ジェンダー問題は別の様相がある。
 
 そして今、スウェーデン政府は2017年から、廃止していた徴兵制を復活させた。18歳から女性も徴兵対象となっている。
 2014年のクリミア併合に続いて、ロシアがバルト海周辺で活動を活発化させてきた、という外部事情や内部事情が重なったためだ。

 我々日本人は、ドラッグや暴力やマスク着脱などの社会問題に関して、自分たちの価値基準で断罪しがち。
 仮に前線での任務に就かずとも、人生の一番良い時代を拘束される人の気持ちは、その立場に置かれないとわからない、とも思うのだが。
 またロシアがクリミア併合と、ウクライナ侵攻を果たした年の米政権がどうだったか、を考えると平和維持の複雑な側面も見えてくる。

Susan CiprianoによるPixabayからの画像

他にもある北欧の傑作

 北欧ミステリの傑作と言えば、『ミレニアム(Millennium)』だろう。
 スウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンによる「ドラゴン・タトゥーの女(2005年)」「火と戯れる女(2006年)」「眠れる狂卓の騎士(2007年)」三部作。
 残念ながら、作者のラーソンはこの作品の世界的成功を見ずして、出版前に亡くなっている。

 スウェーデンで映画化され、リスベット・サランデル役のノオミ・ラパスが良かった。
 ハリウッド版リメイクでは、007のダニエル・クレイグがミカエルをやっている。

 ミステリではないが、『ぼくのエリ 200歳の少女(2008年)』は、スウェーデンの作家リンドクヴィストの『MORSE -モールス-(Let Me In)』を原作にしている。
 こちらもハリウッド版リメイクがあり、クロエ・グレース・モレッツがヒロインを務めた。

 ちなみに原題の” Let Me In(中に入れて)”とは、バンパイヤは対象が自ら屋内に招じなければ入れない、という伝承に基づく(余談ながら、むかしこの設定でホラー小説を書いたのだが、原稿を無くした)。

 どちらもハリウッド版のほうがエンタメ性が高いが、あの独特な陰鬱さや暗く冷たい闇の質感など、北欧版のもつ雰囲気にはかなわない、と思う。

 テーマ曲である「Hollow Talk (by Choir of Young Believers)」の陰鬱極まりない曲調と、暗い空をうねりながら飛ぶムクドリの群れが、実にストーリーにマッチしていて、クセになります。

 シーズン4で完結ですが、自分は最終シーズンを観ていません。
 なんせこの作品を観るとエネルギーが消耗されるので、老いさらばえた今では体力が持ちそうにないからです。
 ただ北欧ミステリは、デンマークが生んだ『特捜部Q』シリーズなど、目が離せない作品があります。

#スウェーデン #デンマーク #オーレスン・リンク #ザブリッジ #北欧ミステリ


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