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【科学夜話#14】鳥インフルエンザのややこしい話

 今年度(令和4~5年)は鳥インフルエンザの当たり年だそうで、農林水産省によると1月9日までに23道県56事例発生し、約998万羽が殺処分対象となったとのことです。
 卵は値上がりするわ、卵サンドは店頭から消えるわ、卵パックでお肌はよみがえるわ。
 鳥インフルエンザは、いったい何が怖いの? 卵を食べたらヤバイの?
 さっぱり要領を得ない、ニュースの内容について調べました。

どうして話がややこしい?

 鳥インフルエンザの情報がややこしいのは、鳥の話なのか人に感染した場合の話なのか、わかりにくいと言うこと。
 間違いなくニュースを読んでいるアナウンサーも、わかってない。 
 そもそも「鳥インフルエンザ」という言葉自体、言っている人記載している人によって、意味合いがちがっているのだ。

 野鳥など鳥を主題にした記載では、鳥から鳥に感染する鳥の病気を「鳥インフルエンザ」と言っている。
 この同じ言葉が、鳥からごくごく稀に人に感染し発症する、人の病気としての「鳥インフルエンザ」と区別なく使われる。

 同じウイルスに由来する同じ病気なのだが、鳥が発症しているのか、人で発症する可能性があるのかでは、まったくちがったものになる。

 結論から言うと、日本で鳥から人にインフルエンザが感染した事例はない。
 鳥からインフルをもらうのは、自分の家が隕石に当たる確率より低い。

「鳥」が主語の話、「人」が主語の話

 日本語は主語を抜いて曖昧さを楽しむ特殊言語だから、特に話がわかりにくくなる。

 ①鳥から鳥に感染し「鳥が←(主語)死ぬ」率としての話
「高病原性」鳥インフルとは「『鳥』に対して病原性が高い」という意味である。
 多くの人は、これが人に感染したら病原性が高いから、もったいなくても鳥を処分するのだ、と思っているはず。

 8羽のニワトリにウイルス液を静脈内接種した時の、10 日以内の死亡率が、6羽(75%)以上のとき「高病原性」と言う。

 ②鳥から人へ感染し、「人が←(主語)」発症する場合の話
 2014年以降、中国などで49例の鳥からヒトへの感染例が確認されている。2020年9月以降は,、中国で13例、ラオスで1例。

 仮に鳥インフルエンザにかかった鳥の肉や、卵を食ったとしても大丈夫。
なぜなら、
(1) 鳥インフルエンザ・ウイルスは熱に弱く、加熱調理で分解する。
(2) 鳥インフルエンザ・ウイルスは酸に弱く、ヒトの体内で胃酸等の消化液により死滅する。
(3) 鳥インフルエンザ・ウイルスが細胞に侵入するには、ウイルスがもつカギと細胞表面のカギ穴(受容体)が一致しなければならない。
 しかし、鳥インフルのウイルスに合うカギ穴が、ヒトの細胞には存在しない。
 例外的に人の肺の奥(肺胞)には、鳥インフルと合うカギ穴が存在するが、感染鳥を直接解体するような作業を、何日も続けなければウイルスが肺胞まで達して感染することはない。

 ③鳥から人へ感染した場合の「人」の症状の話
 WHOによると2003年-2019年2月までの約16年間で、累積患者数は世界で860人、うち死亡数が454人。
 致死率は53%できわめて高い。

 ④さらに「人」から「人」への感染の話
 事例はない。鳥への濃厚な接触歴がない人の発症は、確認されていない。
つまり人から人へ感染するウイルスは、まだ出現していない。

なぜ養鶏場では全数処分するのか?

 国内の家禽飼養場で鳥インフルエンザが発生したら、家畜伝染病予防法に基づいて、発生した農場の家禽の殺処分、焼却、埋却、消毒、移動制限などの措置が取られる。

 これは周囲の養鶏場への伝播を防ぐため。すぐにも人間に感染する畏れがあるから、ではない。
 ただ感染鳥が増えて母数が増加するということは、予想できない変異ウイルスが出現する確率を増やすことになる。だから間接的には、人への波及を防ぐ意味もある。
 その確率は、隕石が自分ちに落ちてくる可能性より低いけど。

 そもそも鳥インフルエンザ・ウイルスは、カモなどの野生の水鳥の多くが腸内にふつうに持っている。これらの鳥は、このウイルスと共存していて発症しないからだ。
 だから、何らかの原因で死んでいた野鳥を調べたところ、鳥インフルに感染していることが「わかった」のは当たり前なのだ。

 NHKなどはすぐに気候変動がSDGsした結果、人間の発電によって鳥インフルが加速した、などと言い出しがち。
 変わったのは「検査法」で、今までは野鳥が死んでいてもウイルス検査などできなかったが、RT-PCRなどによって簡単に検査できるようになった。
 だから野鳥などが元から持っていて共存している、鳥インフルのウイルスが検出できるようになった、と言うことだ。

 これが「種」を越えてニワトリなどに感染すると、「鳥の」致死率が高くなる。
 養鶏場のように、同じ性質の鶏が一箇所に集まっている場所は、感染が広がりやすい。

 ふつう人には感染しないが、肺の奥に感染する可能性のある細胞があり、ウイルスをもった鶏の解体作業などを連日行った場合、人にも感染した事例がある。その場合、致死率は高い。

ワクチンや薬はあるのか?

 鳥へのワクチンはあるが、養鶏場では使用しない。
 発症を抑えて鳥インフルエンザ・ウイルスの侵入に気づくのが遅れては困るから。

 コロナウイルスでも実は存在するのだが、点眼や点鼻、すなわち鼻などの粘膜にシュッシュッすることで、効果が出るワクチンがある。
 霧状に噴霧しておくことで対処できればいいのだろうが、コストが見合わないだろう。

 人へのワクチンはない。
 治療薬としては、タミフル、バロキサビル、ペラミビルなどのインフルエンザ治療薬が有効。

 日本メディアや専門家の悪弊として、例外的な話をことさら大きく広げてしまう、ということがあります。
 受け手がもつ印象と真の情報が、大きく乖離しているケースがよくあるということです。

 事実と異なる風評が広がって、消費者が得することは何もない、という事を知って、正しく怖がるようにしたいものです。

#鳥インフルエンザ #感染 #ワクチン #治療薬

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