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たい焼おばちゃんのカーネルサンダース

〈後編1〉


たい焼きおばちゃんのキャラで売り出すゾ‼

アメリカに連絡してササベは上機嫌だったが、ジョーは日本育ちのアメリカ人。日本人の複雑な心情を自分のことのように理解している。いや、ジョー自身、日本人の性格になってきている。よく語学はその国の文化まで身にすくと言われるが、ジョーは見た目のパッケージはブロンドヘア、青い目でも、中身のコンテンツは日本人情緒を備えている。それだからこそ、今回のプロジェクトに欠かせない人材だが、ササベは通訳としての役割を最大限に考えていた。もちろん、日本情報はジョーがフォローしてくれて助かってはいたが、ジョーがいることでおばちゃんにどれだけ安心感を与えているか。ササベは力ずくてねじ伏せるタイプで、センシティブな配慮に疎い男だった。「なあ、ササベ。明日これ全部をおばちゃんに言うとショックが大きすぎる。ここは小出しに少しずつ話して、おばちゃんがわかった、やると言ってから次を出す、そんな方法で進めよう」ジョーはおばちゃん攻略の戦略を立てるが、ササベはまどろっこしいと感じる。しかし、ここで相談しておき、明日おばちゃんに会ったときは、ひとまず仲良くなること、お互いの思いを話し合うことから始めようと説得した。日本をよく知るジョーは通訳として不可欠だ。納得したわけではないが、ササベは渋々承諾した。

アメリカ本社企画、たい焼きおばちゃんのキャラ

市場のたい焼きおばちゃん、アメリカに上陸計画

「オハヨウゴザイマス!」市場が開くと同時に、ササベが元気よくやって来た。昨晩遅くまでかかってササベにおばちゃんが自然にこのプロジェクトを受け入れるためには、まず信頼関係を築くしかない。そのためには定期的に顔を出すのが一番だと説得した。ササベは見た目の日本人の風貌と違って、内面は非常に欧米的。これではおばちゃんとは水と油だ。そこでジョーは日本人と仲良くなる一番基本的な方法をササベに提案したのだ。ササベは日本語ができないので、今のところジョーが必要だ。しかし上司からはおばちゃんの契約を早くとれと言われている。

チョコ味、クリーム味のアメリカの好みのたい焼き

「おはようさん、あんたら、えらい張り切ってるなぁ」おばちゃんが真っ赤なエプロン姿で屋台の前でたい焼きの準備中だ。「おばちゃん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」とジョー。「昨日会社の上司に説明したんやけど、その話ししてもええか?準備で忙しい?」、ジョーは丁寧な口調で、おばちゃんの心情をくんだ話ぶりにおばちゃんはまんざらでもない様子だ。「ええよ、手を動かしながら聞く」、「おおきに。そしたら報告からや、昨晩、アメリカ本社の上司に電話したんやけど、おばちゃんのたい焼きのノウハウのすばらしさと、商品の魅力やら、商品の味覚、アメリカ人向きの商品開発、あ、これはチョコレート味とクリーム味のたい焼きのことや。この発想がえらい気にいられてなー。数日で上層部を必ず説得する。予算もつける、と意気込んでやる気満々やった。ササベさんの説明がよかったんやと思う。上司はたい焼きをアメリカで大ヒットさせる壮大な夢も話していたよ」おばちゃんにわかるテンポで、目と姿から理解できているかを判断しながら、ジョーの説明は一旦ストップした。ここでジョーはおばちゃんの顔を見た。ほんのりピンク色に染まっている。するとササベは「肉入りのアイデアも話したか」と聞くが、「いや、まだや。様子見て、おばちゃんが逆上せんように、おばちゃんのメンツをつぶさんように考えて話してるんや」、これを聞くとササベが切れそうになる。しかし、ここはジョーにまかせて、今はおばちゃんの「YES」を引き出すことに集中することにした。

アメリカ作、たい焼きPR素材1
アメリカ作、たい焼きPR素材2

FEDEXで届いた、たい焼きおばちゃんのPR素材

朝一番のササベからの呼び出しコール。まだ朝8時やないか…まったくササベは。「ジョー、FEDEXが来たぞ!どうする?会社は本気だぞ!」朝から超コウフンな声だ。このまえ送った画像に、「たい焼き屋台ののぼり」と「たい焼き屋台ののれん」、データも添付しておいたからこういう流れは予測できた。ササベは会社から何か言ってくるたびに大騒ぎせず、順序だてて考えたら次に何があるか分かるはずじゃないか。今日はこのプロジェクトを整理しておばちゃんに理解してもらうために、ササベは会社対応が忙しいことだし、ジョーは一人で市場に出向くことにした。

おばちゃんと進行深めるジョーの複雑な深層…

中高学生のお客さんがいっぱいいる。テスト期間なんかなあ。お客がひくのを待って「おばちゃん、大盛況やなあ」「そうなんや。テスト中の中学生や高校生のお客さんがいっぱい来たから、たくさん作ってん。1つ食べて」ジョーに手渡す。「おおきに。アツアツでおいしい!なあ。おばちゃん。今度のアメリカの件やけど、本当はどう思てんの?」おばちゃんはジョーのやさしい言葉に、うるうるきていた。「そうやな~。ありがたい話しやけど、うちもええ年やし、この店もあるしなあ。あんたほんまにええ子屋から聞くけど、あんたがわたしやったらどうする?」ジョーは誠実におばちゃんに接してきて、信頼されていることを知った。これからおばちゃんにアメリカ本社が狙っている事業化を話したら、どうなるかと思うと胃のあたりがきりきり痛んできた。しかしジョーも会社の人間。「そうやなあ。別になくすもんないんやし、嫌やなかったらやってもええんちゃう?」あ~あ、言うてしもうた。「そうやなあ。わたしのことを思ってくれるあんたがそう言うんやったら、やってみようか」
この朗報を早速ササベに報告した。「よっしゃ!それでこそ、われらがジョーだ。早速今晩上司に報告するゾ」ノリノリの大興奮ササベはジョーの進言などもう聞きそうにない。これが悪い方向へと進むのでは。ジョーは急に嫌な感じに胃がキリキリした。  
                          〈後編2に続く〉                                       








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