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たい焼おばちゃんのカーネルサンダース

        〈中編〉


たい焼きは甘くておいしいお菓子や。「肉まん」はあかん。


その日、ササベとジョーは市場でチューブのチョコレートとカスタ―ドクリームを買って、たい焼きの屋台に向かった。おばちゃんはここが腕の見せ所と、腕まくりしてチョコ入りたい焼き、カスタードたい焼きに挑んだ。どちらもペーストタイプなので、あんことは使い方が違う。何度かチャレンジしてチョコレートとカスタードのたい焼きを30個ほど作った。試食はアメリカ人ふたりには大好評。「ボクはおいしいと思うけど、アメリカ人はあんこ食べる?好き嫌いがあるだろう。でも、このチョコレート味とカスタードクリームはアメリカで受けるぜ~!」興奮して叫ぶササベの言葉をジョーが通訳した。おばちゃんも試食したが、感想は「……」、うちはやっぱりあんこのほうがおいしいわ、という言葉を飲みこんだ。ササベが真剣な顔でジョーに何か言っている。ササベとジョーの戦略はおばちゃんの心証を悪くしないことだった。そこでジョーは「おばちゃん、チョコやカスターどクリームは最高や。先の話しやけど、アメリカ人のソウルフードのミートローフかハンバーグみたいなビーフテイストをたい焼きに入れるアイデア、どう思う?」そろそろと聞いてみた。おばちゃんがヒステリックに叫ぶ。「あかん、あかん、チョコやクリームは試したけど、たい焼きの肉まんはあかん!たい焼きは甘いお菓子なんや。肉まんと違う!」、ジョーが訳すとササベは真っ赤な顔をして「心配はいらん。必要な開発費は払う。今晩、アメリカの本社にこの件を報告する。まかしとけって!」といって、ジョーにじゃんじゃん写真を撮らせた。おばちゃんはどうしてこんなことになったのかと首をかしげる。ササベとひそひそと話し込んでジョーが「おばちゃん。この商品はアメリカの本社が求める商材にぴったりや。今晩アメリカに報告する。上司に説明したら、すぐ決まるで~」と通訳のジョーがウィンクしながら力説する。おばちゃんはぞ~としてきた。「長年ここでたい焼きで成果を上げてきた。うちの評価は高い。それを何でこんなアメリカ人の青二才にあれこれ言われなあかんの?」このめらめらする思いを胸の奥にしまって、ひとまず明日の朝に再会することにした。

アメリカ本社に送ったたい焼きプレート画像

強引過ぎるササベ、おばちゃんの気持ちを最優先にと進言

ジョーはおばちゃんの不安な心情を理解していた。なんでも強引に進めて、結果オーライのササベ。相手はおばちゃんなので、ササベはこの件も強引に自分がリードできると計算していた。通訳の立場で両方の思惑がわかるジョーは、今はおばちゃんをサポートすることが最優先とわかっていた。ササベはアメリカ版たい焼き開発による莫大な利益をおばちゃんに言えば、大抵のことは丸く収まると主張する。しかし、ジョーは強引過ぎるのはよくない。おばちゃんが逆上するか、怖がって逃げるとササベを説得。そこで2人はおばちゃんがこのプロジェクトをやりたくなる条件を考えようということになった。それまではあくまでもおばちゃんの気持ちを最優先に、仲良くなることからはじめようとジョーの戦略にのることにした。

たい焼きおばちゃんのキャラで売りだそう!

そしてその夜、日付が変わろうという頃、ササベとジョーはアメリカのビジネスタイムを待って、上司に報告した。ジョーが撮影した市場やたい焼き商品、たい焼きの屋台、周辺機材、たい焼きの屋台で焼いているおばちゃんなど大量の画像を添付し、ササベのアイデアの詳細を話した。上司はコーフン気味に「そりゃあいい!早速上に話しを通す。そのたい焼きおばちゃんをケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダース風に、たい焼きおばちゃんのキャラで売りだそう!」上司はノリノリで「このプロジェクトは絶対に当たる!」と自信を強めている。数日後、上司の秘書から緊急連絡が入った。会社では上層部も大賛成で、この事業の予算が決まった。上司はササベに指示を与えた。本格的に事業着手を前提に「おばちゃんとの契約をすぐに取れ」 
                           〈後編に続く〉


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