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「空間」の多様性を活用する2️⃣

東京人と関西人

東京で単身赴任していた頃、同僚と昼食を食べている時に「東京の人と関西の人の違い」がよく話題になった。私は学生時代も関東に住んでいたので東京には馴染んでいた方だと思うのだが、私が話す関西弁に触発されて、この話題を思いつくらしい。

そしてよく言われたのが「関西の人と言えば、ボケとツッコミだよね」ということなのだが、内心は「またこの話題か」と思いつつ、「まあ、そうだね」と答えていた。確かに関西の人は誰かと会話している時に、ツッコミをどこで入れようかと常に頭をぐるぐる動かしているようなところがある(もちろんそうでない人もいる)。ツッコミ前提で相手の話を聞いている。

東京の人は多分そんなことはしない。素直に相手の話を聞いている。ツッコむ隙はないかなどと余計なことは考えない。

頭の中のプログラムの違い?

それに関西の人は普段生活する中で自分が体験したことをボケとツッコミの観点から分析して解釈して、誰にどう話そうかと考えていたりする。子どもの頃からそうするように頭の中がプログラミングされているかのようだ。

頭の中で大きく違うプログラム(もちろん、サルと人間ほど違うわけではない)が動いているのなら、東京の人と関西の人ではこの世界の認識の仕方も違うのではないかと言う気がしてくる。

ところがこれは東京の人と関西の人の違いという程度の話ではなく、日本人、いや、人類全体で考えても、どの一人を取ってみてもこの世界に対する認識の仕方は違っていて、同じ世界を見ているようでも、実は人それぞれみな見えている世界が違うのだ。

脳にある情報フィルター

それは、こういうわけである。

そもそも人は五感を通じて自分が受け取った情報を全て認識しているわけではない。情報としては受け取っているのだが、その一部しか意識には上がってこないのだ。

もし五感から入ってきた情報を全て情報処理して認識に上げたとすると、脳内処理に必要なエネルギーが膨大で、人間は餓死してしまうほどらしい。だから脳が手抜きをするために、自分にとって重要な情報だけを認識に上げるようにRAS(Reticular Activating System、網様体賦活系)という情報のフィルターのような仕組みがあるのだ。

一人ひとり重要だと思う事が違う

さて、人は一人ひとり違う人生を歩んでいる。生まれた時代や環境も違えば、生まれてから受けてきた教育も違う。親、兄弟、姉妹はもちろん違うし、友人や同僚、これまでに出会った人も違うだろう。そのうえ、日々受動的に受け取っているメディアからの情報も違えば、自分が積極的に取りに行く情報も違う。生まれてからこれまでに脳が受け取って来た情報が一人ひとり全く違うのだ。

外から取り入れた情報が違うのだから、一人ひとりが個性的で誰一人として同じでないのが当たり前である。そして、個性的であると言うことは一人ひとり自分にとって重要だと思う事が違うということだ。

例えば衣食住を考えると、住みたい場所、好きな食べ物、好きなファッションは人それぞれ。趣味も違えば、興味のあるスポーツも違うし、読みたい本や見たい映画も違う。

思いつく事のどれをとっても、人それぞれ好みや意見は同じではないのだ。

みんな違う世界を見ている

そして先ほど言ったように、人は自分の重要だと思うものしか認識できないから、同じ時間に同じ場所で一緒にこの世界を眺めても、それぞれが重要だと思うもので出来た別々の世界を認識していることになる。

そう、一人ひとりが違う世界を見ているのだ。

会社の中の仕事空間

では、それはビジネスパーソンにとってどんな意味があるだろうか?

何年も同じ会社で一緒に仕事をしていると仕事についての考え方が似通ってくる。それは多分、その会社特有の習慣やルール、オーナー社長が率いる会社なら社長の個性が会社運営に反映されて「うちの会社の仕事空間」を共有するからだろう。それは、その会社にとって重要な事が決められた空間と言える。

そして、その会社の仕事空間で上手く立ち回った人が評価が上がり昇進して権限を握っていくのだから、そういう人たちに支配された仕事空間で働いていれば自然と考え方が似通ってくる。

同じが良いとは限らない

でも、いつも同じ仕事空間を共有しているのが良いとは限らない。

ビジネスが上手くいっている時はみんなが同じ仕事空間を見ている方が運営上では効率が良いかも知れないが、ビジネスがうまく行かなくなった時はどうだろう?同じ仕事空間にいて同じように見ている人ばかりでは、きっと思いつく打開策は似たり寄ったりで、すぐに行き詰まってしまうのではないだろうか?

でも大抵は会社の中で、違うように仕事空間を見ている人が少しはいるものである。そういう人を上手く活用できれば、会社が復活できる可能性は増すに違いない。

仕事以外の空間

もう一つ指摘できる事がある。それは社員一人ひとり別々の仕事以外の空間を持っているということだ。仕事以外の時間の使い方を見てみると、頭の中にどんな空間があるのかが分かる。

まず家族や友人と過ごす時間があるだろう。それに趣味に没頭する時間やスポーツで身体を動かす時間もあるだろう。何か新しいことを学ぶことに時間をかける人もいる。そうやって多様な時間の使い方の中で知識を得たり、学んだり、または感じたりすることで、一人ひとり個性的で唯一無二の内面の空間が作られていく。

だから、例え同じ仕事空間にいることで似通った仕事についての考え方や価値基準を持っていたとしても、それ以外の「空間」では社員それぞれがバラバラなままなのだ。

「空間」の多様性を活用する

そういう多様性があるということは、違うように見る事ができるということだから、会社においてこれまでのやり方を変える、成長を加速する、大変革を行う、ブレークスルーするなどの変化を期待するなら、その多様性を上手く活用するのがいいだろう。

逆に、例えば仕事での拘束時間を長くすることは、実は会社にとってリスクを高めていると言える。人が多様な生き方をすることを妨げることによって同じような考え方や発想の人を増やしてしまい、危機への対応力であるレジリエンスを下げているのだから。

このように一人ひとり内面にたくさんの「空間」を持っていると考えれば、会社が管理したい仕事空間においても、これまでと違ったパフォーマンスやモチベーションの上げ方があるかもしれない。


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