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『鴨川ホルモー、ワンスモア』5月4日昼大阪公演感想

上田誠が作・演出の舞台は、よっぽどのことがない限り見に行くので、観劇してきた。

↓過去作品の感想など

今回は、原作小説2冊(中学以来10年以上ぶりに再読)と、コミカライズ(初読)を読んだ上で観劇した。
別の役者のイメージがつくのが嫌だったので、実写映画の方はあえて見なかった。


あらすじ


2浪したのち京大に入学した安倍が、怪しい先輩の誘いと早良さんへの
一目ぼれに任せて入った「京大青竜会」なるサークルは、千年の昔から脈々と続く謎の競技「ホルモー」をするサークルだった。
当惑とときめき、疑いつつ練習、そしてこの世ならざる「奴ら」との
邂逅。
俺たちが開けたのはなんの扉だったろうか。
世界の謎よりも魅惑
的な彼女の鼻、そして押し寄せるリグレット。
すべては思い返せば喜劇。
鴨川ホルモー、叶うならワンスモア。

公式サイト INTRODUCTIONより

スタッフ・キャスト

スタッフ

原作:万城目 学(「鴨川ホルモー」「ホルモー六景」/角川文庫刊)
脚本・演出:上田 誠(ヨーロッパ企画)

キャスト

中川大輔 八木莉可子 鳥越裕貴 清宮レイ(乃木坂46) 佐藤寛太/
石田剛太 酒井善史 角田貴志 土佐和成 中川晴樹(ヨーロッパ企画)
藤松祥子 片桐美穂 日下七海 ヒロシエリ/
浦井のりひろ(男性ブランコ) 平井まさあき(男性ブランコ)
槙尾ユウスケ(かもめんたる) 岩崎う大(かもめんたる)

ストーリーへの感想

開演前の影ナレ

毎度手の込んだ開演前の影ナレは、中川さん(ヨロ企の方)がべろべろばあの店主に扮して行った。
途中から槙尾さんも参戦し、主にグッズ紹介を行っていた。
そして期待した通りもちろん、マキオカリーの宣伝タイムもしっかりあり、脳汁がドバドバ出た。

原作に忠実

本編はまず、原作小説の『鴨川ホルモー』に忠実に物語が進行していくことに驚いた。

昨年の『たぶんこれ銀河鉄道の夜』は、大幅設定や一つ一つのセリフなどが意外と原作小説に忠実なものの、舞台は現代に変わり、デスゲーム要素が加わるなど、大幅なアレンジも加わっていた。
一方今作は、一部登場人物の設定に大幅な変更があったものの、ストーリー自体はほぼ原作に忠実なかたちで進んでいった。
タイトルに「ワンスモア」とある通り、てっきり原作の後日談などが多めになるのかと勝手に思っていたので、個人的には驚いた。

パンフレットを読むと、

ホルモーの引力は強く、結果として原作をかなり忠実に踏襲したものになった。

鴨川ホルモー、ワンスモア パンフレット

と上田さん自身もおっしゃっているので、これは必然だったのだろう。

ホルモー六景の要素も全部組み込まれている

最も舌を巻いたのは、たった2時間の公演の中に、ホルモー六景の要素が全て組み込まれていたことである。

まず、『鴨川(小)ホルモー』の彰子と定子は、なんと京大青竜会のメンバーになっていた。
事前情報を極力ない状態で観劇したく、上田さんのキャスト紹介のポストもあえて見ないようにしていた弊害で、最初は「なぜ他大学の登場人物が青竜会の新歓コンパに参加しているのだろう……?」と、混乱してしまった。

『ローマ風の休日』の少年は、男ブラ平井さん演じる松永にその役割が引き継がれた。
前述の彰子と定子にも言えるが、原作ではあまり出番のない松永、坂上、紀野に、『ホルモー六景』の登場人物をうまくはめ込むことで、群像劇に昇華させた上田さんの手腕には感嘆した。

『もっちゃん』の時計は本舞台でも登場し、『同志社大学黄竜陣』の内容は、がっつり劇中に組み込まれていた。

そして『丸の内サミット』の内容は、舞台オリジナルキャラの清原と大江が就活で東京に行った際のエピソードとして消化されていた。

極めつけは『長持の恋』。
主役を美伽にした上で、映画の予告編のようなかたちでコメディとして再構成されていたのには感動したし、泣きそうになるほどいい話の原作とのギャップで大爆笑した。
ぜひ原作未読の方は、原作を読んで感動してほしい。

終盤の良改変2点

クライマックスにかけて、原作から改変して良かったなと感じた部分が二つある。

一つ目は、早良が安倍に謝るシーン。
原作では高村を通じて間接的に謝っていた一方、本舞台では青竜会メンバー全員を巻き込み、最終的には早良と芦屋がいちゃつくことで、早良のサークラ感が強調されていた。
この演出により、私は早良のことは余計に嫌いになった笑。

二つ目は、楠木のメガネ。
原作を読んでいた際、「メガネが割れていたから」というしょーもない理由でメガネをかけないことに違和感を感じていた。
責任感の強い彼女が、「大事な一戦なのに、そんな理由でメガネをかけないだろうか」と、腑に落ちなかったのである。

今回の舞台では、「視野を広げるためにコンタクトにしたが、自意識が邪魔をしてさらにメガネをかけてしまい、視力が合わない」と、楠木が本領を発揮できない理由が変更されていた。
そして早良と芦屋のいちゃつきを見て、「こんなことで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなった」と、メガネを外す
感情の動きが楠木の性格に合ったものになっている点と、「裸眼→メガネをかける」ではなく「メガネ→メガネを外す」という行動に変更することで、楠木の能力がリミッター解除される感じがより出ている点が、良いアレンジだったなと感じた。

冒頭のシーンとラストシーン

本舞台は、冒頭とラストで同じシーンが2回繰り返される。
最初は誰が誰の役なのか頭に入れるので手一杯だったが、2時間彼らの物語を見た上でラストにもう一度見る同じシーンは、感じ方が全然違った
特に冒頭と違いラストシーンでは、スクリーンにオニが表示されているという演出がかなりニクかった
こういうのを”エモい”と言うのだと思った。

カーテンコール

二度目のカーテンコールが終わった後、安倍役の中川さんがオニを呼び込み、スクリーンにオニがたくさん出てきておじぎをする演出には感動した。
オニも大事な登場人物(人物?)だものね。

キャスト陣の感想

筆者の趣味上ヨロ企メンバーおよび芸人さんへの感想が中心で、かつ当人演技以外のストーリー面への言及も含まれるが、ご容赦いただきたい。

レイちゃん

舞台なので大声を出さなければならないことと、コミュ障の陰気な雰囲気を出すことをしっかり両立させていて、シンプルに感嘆した。
原作小説の楠木は、「こいつ本当に安倍のことが好きだったの……?」と個人的に疑問に感じてしまうほど、物語前半は安倍への態度が悪い。
一方でレイちゃんが演じる楠木は、安倍へツンツンしてしまう部分はしっかり残しながらも、最初からそれとなく好意が感じられるのが良かった。

鳥越さん

今回はヨロ企先行でチケットを取ったのに、席が2階後方だったため、ちょんまげ姿をぼんやりとしか目に収められなったのが少し残念だった。
ちなみに、ステージ全体の様子を見ることを優先したいため、観劇中にオペラグラスは使用しない派である。

石田さん

冒頭、安倍と高村を京大青竜会に誘うシーンは、石田さんが演じることでヨーロッパ企画印が如実に出ていたと思う。
これは褒め言葉だが、本当に宗教の勧誘みたいで笑ってしまった。
石田さんは、さすが胡散臭い役が似合うなと改めて実感した。

酒井さん

柿本は原作であまりバックボーンが描かれていないことを逆手に取り、酒井さんらしく、びわこ・くさつキャンパスの学生という設定になっていたのが良かった。
劇団の本公演ではなく外部のプロデュース公演で、酒井さんの自作発明品が拝めるとは思っていなかったので、とてもうれしかった。

角田さん&浦井さん

ヨロ企もお笑いも大好きなので、いくら2階席後方でも、角田さんと浦井さんを見分けられる自信があった。
実際角田さんの方が恰幅が良いし、しゃべり始めたら声が全然違うし、基本的には角田さんが上手側、浦井さんが下手側にいることが分かってからは全く迷わなくなったが、判別するまでに思っていたより時間がかかったのがショックだった。

ちなみに公演中、石田さんがストーリーに投稿していた角田か浦井かクイズは、さすがに間違えなかった。
またお二人の共演の機会があるとうれしいなと思う。

また、今回オニは角田さんがデザインしている。
とてもかわいくて、個人的にお気に入りである。
パンフレットの表紙が角田さんデザインのオニだらけでうれしかったのだが、欲を言えばオニのアクキーが欲しかった。

土佐さん

社会人ホルモー」のくだりに全部もっていかれた笑笑。

中川さん(ヨロ企の方)

中川さんは、べろべろばあの店長としてだけでなく、事前予告されていたさだまさし、そして時事ネタをからめて山崎まさよし(どちらもMCが長い笑笑)としても、出演されていた。
原作小説では安倍が部屋で一人思案しているシーンに、さだまさしや山崎まさよしの替え歌が加わることで、新たな笑いや演劇としての盛り上がりが生まれていたのが良かったと思う。
そして何よりヨロ企ファンとして、中川さんの歌唱が聴けたのがうれしかった。

槙尾さん

槙子ちゃんの女装が大好きなので、2時間ずっと槙子ちゃん状態の槙尾さんが見られることを楽しみにしていた。
赤いワンピースがとてもお似合いだったし、2時間通してずっと女声がおきれいだった。

う大さん

原作小説を読んでいた際はそんなイメージはなかったのに、実際う大さんが演じると菅原のイメージがう大さん色に染め上げられるのがすごいと思う。
また1回生を引き連れるシーンでの会話、偏差値に関するセリフ、「月刊ホルモーがあるなら、表紙になっているよ」というユニークな比喩など、う大さん発案したと思われる面白いワードをたくさん堪能できたのもうれしかった。

最後に

大阪公演ということもあり、京都の地元ネタ(京大の怪しい立て看板、京産大は登山通学、「今出川通を鴨川より西には行かない」など)で笑いが起きていた。
当方遠征民のため、地元ネタを理解できる関西勢がうらやましかった

『続・時をかける少女』以降、ニッポン放送×ヨーロッパ企画の演劇公演は1~2年に1回は上演されている(コロナで中止も含む)。
かなうのであれば、また来年もこの座組のお芝居を見たいと思う。

【次回の観劇予定】
ナイロン100℃ 49th SESSION 「江戸時代の思い出」北九州公演

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