3月 生まれた世界線が違ってただけ

「ぱぶまんさんに会いに来ました」

そして彼は俺のことを「もう1人の自分かもしれない」と言った。

東の都からはるばる初対面の友が来てくれた。ありがたい。自分の住んでいる県でお迎えするのは初めてのこと。緊張する。そして🔪のスタンプを頓服代わりに使う男。大丈夫か?問題ないよ。いざとなればフィジカルで何とかすればいい。

シュッとした優男。目がデカい。わざわざお土産をいただく。目が少し泳ぐ。もちろんお互いに。だって初対面だもの。

とてもアメリカンな喫茶店に入る。デカいスイーツを頼む。さてさて。君のことを教えてくれ。俺のことも知ってくれ。ほほう。ほうほう。いやいや。だいぶ俺の上位互換じゃん。挙動不審なのは似てるか。人生における『もうどうすることもできなくなってしまったこと』について語らう。うんうん。そうだな。何か分かんないけどさ、生きてればさこうやってさ、スイーツが美味しく食べられるわけよ。そしてやっぱりスイーツがないとブラックコーヒーの苦味は時に有り難がれないこともあるよな。

店を出て散歩する。クネクネと街を歩く。喫茶店。アーケード街。立ち飲み屋。市営温泉。大人のお風呂屋さん。終着地点に着いた。さてどうしようか。

終着地点あたりにあった温泉。ホテルでタオルを調達して戻ってくる。木造。創設100年以上。天井が高い。男湯。服を脱いでそこからさらに階段で降りる。洗面器。バスチェア。湯船。キンキンの水が出る蛇口。金ネックレスをしたおじさん。湯加減。ほぼ釜茹で。はぁ…。ふぅ…。各々の体と向き合う。半熟ぐらいに仕上がる。着替える。座敷でしばし休憩をして湯屋を出る。

吸い込まれて個室へ。魔法の水。人によっては気狂い水。美味しい肴。盃を交わす。2人深い所へ降りていく。やはり『もうどうすることもできなくなってしまったこと』を中心に。家族。死と生活保護。愛。好き嫌いと快不愉快。人の歴史。呪い。俺たちを引き合わせた浮浪者。泣いて笑って。吐き出しては呑み込んで。弾みが付いたので次の店へ。

海沿いのパリッとした酒場。ギネス。青いお洒落なナントカントカ。カレー。溶け合う境界。隣に居るだけでいい。やっとここまで来れた。もうこの夜に思い残す事はない。悩める🔪ニキのホテル前にて解散。

俺たちよく生きてきたよなぁ。俺は君の人生だったら生きられなかっただろう。苦労の大きさとかがどうこうではない。人は他人の人生を生きる事はできないから自分の人生を生きるしかない、という意味でだ。昨日までの自分や明日の自分も今日の自分からするとたぶん他人なんだよな。まぁそれはいい。

自分の人生を生きていこう。『呪い』や『後悔』も何もかも抱えていこう。ここに居られなかったり来れなかった奴らの為に俺たちができることはそれぐらいしかないだろ。もし、そいつらの『思い』や『形見』があるのならそれも抱えていけばいいし捨てたきゃ捨てればいい。遠くへ行こう。なるべく遠くへ。そう、『私』が誰で『呪い』や『後悔』が何だったのか忘れてしまうくらい遠くへ。

またどこか遠くでお会いしましょう。
君の幸せを心より願っています。

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