【読書ログ】藁を手に旅に出よう(4/4)

全4回の最終回です。過去分は以下からご覧ください。
1/4回目(Session1~3)
2/4回目(Session4~6)
3/4回目(Session7~9)


要約

大きな蕪を分解する方法

寓話のあらすじ
お爺さんが蕪の種を植え、大きく育った蕪を抜こうとするが、まったく抜けない。そこに、いろんなひとや動物が手伝いにやってくる。みんなで力をあわせて何度も挑戦し、みごとに蕪が抜ける。

一般的な教訓
諦めず何度も挑戦することが大事。大変なこともみんなで頑張れば乗り越えられる。

✔ 問題解決のための成長
前回の花咲か爺さんの寓話では、自分の人生で重視するルールや価値観を考える重要性について考えました。ところが、そういった話に踏み込む前に、現実問題として目の前の問題が解決できないと悩みがいたずらに増えてしまうことがあり得ます。

人の成長と一緒で、他人の手を借りないと生きられない未熟な段階では、まず自分のことは自分でできるようになることが第一歩です。

著者は成長の観点から、人材はストック型とフロー型に分けられると考えます。フロー型は経験が残らずにすべて流れてしまう人のことをいいます。大してストック型は、一度の経験が確実に積み上がっていく人を指します。

成長は経験数×ストック率で表現できます。経験が蛇口から出る水の量だとすれば、ストック率はそれを受け止めるバケツに穴が開いていない状態になっていないかです。いくら大量の経験を積んでも、ストック率が悪ければ成長には繋がりません。

✔ 目的を考え、分解する
仕事ができない人の典型的なパターンは、分解がうまくできていないことにあります。仕事を任されたら、いきなり「まず何をすればいいか」を考え始めてしまいます。本来必要なことは、はじめに仕事の成果や目的を考え、そこから分解していくことです。

例えば、著名人をゲストにしながらお客さんを集客するイベントを任されたとします。ダメな例は、まず何をしよう?誰をゲストに呼ぶか決める?会場の確保から?スケジュールの確定では?と考え始めてしまうことです。

そうではなく、まずはイベントの成果、目的を明確にする必要があります。それによって必要な具体的行動は変わってきます。新規リードの獲得や知名度の向上など、このイベントの目的を明確に定義します。

まずは抽象的なレベルで全体像を網羅し、それを三つから五つの塊で全体を表現します。ここに最大限の知恵を使います。それさえできれば、その抽象的な塊をある程度ざっくり具体化してタスクに落とし込んでいけばいいため楽になります。

✔ 大きな蕪の寓話が仕事の話だったら要注意
大きな蕪の寓話では、フロー型人材が良くやってしまいがちなことが描かれています。まずはとにかく目の前のことに対して力技で対処しようとしてしまっています。本来は、この「大きな蕪を引き抜く」という成果を上げるために、必要な要素の塊を分解して考えるべきです。

蕪のどこを引っ張るか、引っ張る際には体重はどこにかけるか、どっちの方向に引っ張るか、そもそも何人ぐらい人手が必要になりそうなのか、などなど。このストーリーではこれを無視して全力疾走していて、最後は抜けたから良いものの、この手の仕事に駆り出される人はなかなかしんどいものがあります。

何より大事なのは、引き抜いた後に「抜けて良かった」で終わっていないか、です。これをやってしまうとこんな大きな蕪を引っこ抜いた経験がストックとして積み重なっていきません。お爺さんは農家ですから、この経験を次に活かすことが望ましいです。

しっかりと仕事の仕方をフォーマット化しておかないと、「大きな蕪が抜けたぞ。さて次の蕪を抜くか!」と非効率な作業を延々と繰り返してしまうことになりかねません。

経験の数はもちろん大事ですが、同時にバケツの穴も塞いでストック率を高めないと、経験に比例した成長はできない点は要注意です。

ティファニーちゃんが問いかけるあなたにしか見えない未来

寓話のあらすじ
目的もなく金銀財宝を奪う三人組の泥棒が、ある日馬車を襲うと中には女の子のティファニーちゃんしかいなかった。仕方なく連れて帰るが、翌朝ティファニーちゃんは三人組に「そのお宝どうするの?何に使うの?」と問いかける。

三人組はお宝を何に使うかを考え始め、みなしごたちが集まって仲良く暮らしている国の姿を思い浮かべる。そこから三人組は国作りに奔走し、豊かな国を作っていく。

一般的な教訓
改心すれば善い行いができる。些細な一言が大きなことを成し遂げるきっかけになることがある。

✔ リーダーシップとは何か
リーダーシップは様々な意味で捉えられがちです。ビジョンがある人、巻き込む力がある人など。サカモトくんたちの研修では、やり取りを通じて「先の未来を信じきっていて、他の人には見えない未来が見えている人」というリーダー像が浮かび上がります。

「リーダーシップの旅」という本の中に、以下の一節があります。

「頭」と「心」を一致させること。旅に出ることが大事だと考え、頭の中で出来ると信じ、心の中でもどうしてもやりたいと感じること。そういう「吹っ切れ」がなければ、リーダーシップの旅は始められない。

研修参加者が石川さんに「リーダーシップを身に付けるにはどうすればいいか」と質問すると、「今すぐにカレンダーに考える時間を予定しなさい」と指示が出ます。結局こういう抽象的な願望は、具体的なスケジュールに落とし込まないと、永遠に願望のままで終わります。

この時間は仕事の時間にはせず、メールも見ないしSNSの通知もオフにしてスマホは遠ざける。そして徹底的にどういう未来にしたいか、自分がそこにどう関与していきたいかを考えます。浮かんでくるこだわりたいキーワード中心に据え、言葉を具体的に考えていきます。

結局こういうことは時間の確保がすべてですから、無理やりにでもスケジュールに落とし込まないと「いつかやろう」が永遠に続いてしまいます。

✔ 「哲学的な問い」と「実務的な問い」
「自分が見たい未来は何か?」といった抽象的な問いに慣れるのは非常に大事なことです。日常に追われていると、「売上を上げるためにどうすべきか?」「顧客や上司に伝えるべきは何か?」といった具体的な問いが日常を支配しがちです。これらはこれらで大事な問いではあります。

しかし「具体的な問い」はせいぜいこの先3か月ぐらいには答えが出るような話が多く、未来を考えることに繋がりません。なりたいリーダーになるためには、時間軸が長くて抽象度の高い問いに向き合う必要があります。この会社は何のために存在しているのか?私は何のために生きているのか?といった哲学的な問いです。

✔ ティファニーちゃんの問いかけ
「すてきな三にんぐみ」という絵本の中で、ティファニーちゃんは金銀財宝を奪っていた泥棒に問いかけます。「そのお宝、どうするの?何に使うの?」と。

泥棒たちはこの問いかけにハッとして、このお宝を何に使うかを考え始めます。考えた結果、彼らには一つの未来が見えました。みなしごたちが集まって仲良く暮らしている国の姿です。そこから三人組は国造りに奔走し、豊かな国を作っていきます。

日々色々なことに追われていると焦りもありますが、腰を据えて哲学的な問いに向き合っていれば、やがて未来が見えてきます。それを信じて歩き続けましょう。人生は長いマラソンです。

君はレンガの先に何を見るのか?

寓話のあらすじ
三人のレンガ積み職人が並んでいて、それぞれ何をしているのか問いかけをしてみる。一人は「レンガを積んでいる」とつまらなそうにいう。別の一人は「壁を作っている」といい、この仕事のおかげで自分は家族を養っていけるという。最後の一人は「人が祈る教会を作っている」といい、人々のためになる、歴史に残る教会建築に携われることに誇りをもっている。

一般的な教訓
目的意識の重要性。目の前の作業がどんな大きな目的に繋がっているかを意識することでモチベーションも仕事の質も変わる。

✔ ネガティブ・ケイパビリティ
上述の「リーダーシップの旅」という本の中では、キャリアが「竹」に喩えられています。竹に節目があるようにキャリアにも節目があります。節目の時は、精いっぱいキャリアのことをデザインする必要がありますが、節目を経たら思うがままに漂流してみることも大切です。

キャリアの節目にいるときに意識すると良い言葉があります。イギリスの詩人ジョン・キーツが提唱した「ネガティブ・ケイパビリティ」です。答えの出ない状態を抱え続ける力のことをいいます。

大局にある「ポジティブ・ケイパビリティ」は問題解決能力のような力を言います。言うまでもなくこれも重要です。しかし、この力しかない人は、すぐに答えを出すべきでなくて深くて複雑な問題に対しても、すぐに答えを出してしまうことがありえます。

言うまでもありませんが、キャリアや長い人生の生き方は、すぐに答えの出ないものの典型です。皆このモヤモヤした状態を何とかすぐに解消したいと思いますが、モヤモヤした状態を楽しむぐらいの感覚で抱え続けることが正解ともいえます。

✔ 目的のピラミッド
レンガ積みの職人では、目的意識の重要性を学べます。さらに大事なことは、目の前の仕事がどんな大きな意義に繋がるのかを考えることです。目的は何か?何のために?どんな意味があるのか?何の役に立っているのか?このように問いかけ続けて抽象度を上げていきます。

サカモトくんが仕事の目的のピラミッドを作ってみると「もっと価値のある仕事への注力」と「豊かな世の中の実現」の間で、途端に言葉が嘘っぽくなってしまいました。この間の線を「ウソの線」といいます。

引用:藁を手に旅に出よう 荒木 博行 文藝春秋

この付近の言語化に向き合い、ウソっぽくない言葉で語ることができれば、仕事がもっと面白くなります。

また、今やっている仕事も上位の目的を考えることができれば、それを実現するための別の手段も思いつきます。

答えのない状態を抱え続けることは重要ですが、答えが降ってくることをただ受け身で待てば良いのかというとそうではありません。積極的に応えを出しにいく必要があります。そのためにすべきことが、この「目的のピラミッド」を作って具体的に考え続けることです。

✔ 星座とキャリア
スティーブ・ジョブズはスタンフォード大学の卒業式でスピーチをしました。キャリアというものは、後付けでできあがるものだと。ジョブズ自身はアップルのような会社を創るなんて想像していなかったけれど、振返ってみると、やってきたことが全て繋がっているように見える、と。

つまり、今打っているドットの意味はわからないかもしれないけど、後からドットは必ず繋がる日が来る。だからそれを信じて前に進めというメッセージです。

著者はそれを星座に喩えて話します。「こいぬ座」という星座は、プロキオンとゴメイサという二つの星でできています。たった二つの星で犬だと言い張るのだから大したものです。しかしながら、星座はみんなこんな感じです。星の並びから考えたら、かなり強引なものばかりです。

そしてここにキャリアとの共通点が見いだせるといいます。つまり、仕事上の一つひとつの経験は1個の星のようなものです。大事なのは、星がある程度溜まってきたら、自分で「これは何座だ」と言い切ってしまう事です。

星がちゃんと並んでなくても大丈夫です。こいぬ座のいい加減さを思い出しましょう。大事なのは、そのランダムのような点の集合が自分にとって何が見えるのかということです。一度無理やり星座の形に定義できたら、あとは足りないところに意図的に星を置いていきましょう。

星はたくさんあるほど形を想像しやすくなります。たった2つで子犬と想像できる強者もいますが、やはり星はそれなりにあった方が良いです。今は意味が分からなくても、できるだけの多くの経験をしましょう。やがて、その意味のわからない星の集まりが、ふとした拍子に何かの形に見えてくるかもしれません。

サカモトくんは研修を終え、窓を開けて既に暗くなった空を眺めます。
「さて、明日からまた長いキャリアがスタートする。この人生を通じて、この空にどんな星座を描いてやろうか」

感想

問題解決の重要性

本書の多くの部分は、主体性やキャリア選択、人間関係など、答えのないものの重要性に焦点を当てているように思います。一方で「大きな蕪」の部分では問題解決の重要性についてフォーカスしています。

近年は、答えの出ない状態を抱え続ける力であるネガティブ・ケイパビリティの重要性が取り沙汰されるようになってきて、そこには共感するところが多分にあります。VUCA時代と言われるこの世の中、すぐに答えを出しようがない問題が多くなっているように思います。

だからと言って問題解決が不要になったのかといえばそうとは言えません。やはり答えのある問題解決も同じように重要で、より高い難易度の問題をより早く解決することは物事の基本動作の1つともいえます。

特に、問題解決能力がないままにいきなり「答えのない問題と向かい合う重要性」に焦点を当ててしまうと、本来解決すべき問題と向き合わないまま、あるいは問題を解決する能力を高める努力を怠ったまま、答えのない(又は能力が足りないがゆえに答えを出せない)問題と延々と向き合い続けるといった事態になりかねません。

解決できる問題も解決しないまま放置していると、悩みが余計に増えてしまったり、人間関係が悪化してしまったり、キャリアの幅が狭まったりしてしまいます。ネガティブ・ケイパビリティも重要ですが、やはり問題解決(=ポジティブ・ケイパビリティ)も無視してはならないかと思います。

抽象度の高い問い

ポジティブ・ケイパビリティの重要性を謳った直後ですが、今度は逆側のネガティブ・ケイパビリティの話に移ります。リーダーシップや人間関係など、必ずしも答えのない問題については、時間軸が長くて抽象度の高い問いに向き合う必要があります。

この本にはそのための具体的なアクションが明示されています。内容は「今すぐ考える時間を決めてカレンダーに入れよ」です。極めて具体的です。

抽象度の高い問題は、向き合うのにストレスがかかります。一人で向き合う時間を決める、分解して具体化する、コーチングを利用してみるなど、普段とは違った視点で色々と試してみると新しい気づきがあるのかもしれません。

経験から学びを言語化する練習をしてみる

どのような経験からどのような気づきや学びを得られるかは人それぞれです。ある人にとっては些細な出来事でも、別の誰かにとっては人生を変えるような出来事ということもあり得ます。

例えば自分は、一度高校を中退したあとで、通信高校卒業間近に、先生に公認会計士試験の受験を勧められたことがある意味で人生の転機の1つになりました。一方、それ以前は先生からのアドバイスなど口うるさいだけと思っていた時期もあります。

人は日々具体的な出来事を様々に経験しますが、そこから何かしら意味を見出すのも自由ですし、何も面白いことが起こらないと捉えるのも自由です。そして何を学び取るかも自由ですし、それをどう表現するかもまた自由です。

本書でも記載がありますが、キャリアと言うと分かりやすく差別化されたものでないとなかなか主張しづらい側面がありますが、現実にはエイヤで言い切ってしまえば面白い機会が舞い込んできたりもします(ずっとハッタリだけというのはいかんですが…)。あとはしっかりとそれを裏付けるような経験を集めていけば、それが良いキャリアに繋がるのかもしれません。

ただし、それを堂々と人に伝えるにはちょっとした慣れと勇気が必要になるでしょう。そのために、普段の経験から何を学んだかを言語化するようにすれば、経験から自分が学んだことやキャリアを説明することの助けになるのではないかと思います。NoteやXで発信してみるのもまた面白いことにつながるきっかけになるかもしれません。

ぜひ読んでみてください!

現実的に向き合うべき問題とその具体的な取り組み方法、そもそも答えのない問題への向き合い方などなど、非常に多くのことを学べる一冊です。興味のある方はぜひ読んでみてください。

最後までお読み下さりありがとうございます。最初から読んでくれた方はさらにありがとうございます!

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