【読書ログ】歴史思考

書籍情報

タイトル:世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考
著者:深井 龍之介(株式会社COTEN代表取締役)
ジャンル:世界史、思想
オススメする読者層:世界史が好きな方、悩みの多い方、メタ認知を身につけたい方
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歴史上の偉人たちの人間くさくておもしろいエピソードを通して、新しいモノの見方・考え方を獲得することをテーマにした本です。歴史が好きな方や物事を違った視点で捉えたい方にお勧めです。

要約

スーパースターも凡人だった

SNSを見回して目立つのが、「ダメ人間である自分が嫌だ」という声です。そういう人は、人間を「すごい人」と「すごくない人」に二分して考えているのではないでしょうか。そして自分を後者だと考えて悩んでいるというわけです。

たしかに歴史を振り返れば、そこにはたくさんの偉人がいます。しかし、本当に凡人には価値がないのか、偉人と凡人との区別はそんなにはっきりしたものなのでしょうか。歴史上の偉人を見ると、意外そうとも言い切れないことがわかります。

✔ イエス・キリストは元大工の政治犯
最初に紹介する偉人は、後世への影響という点では、間違いなく史上最強の一人といえるイエス・キリストです。キリスト教は今も西洋世界のベースにあり、日本などほかの地域への影響も大きく、キリスト教がなければ、科学も資本主義も現在のような形では生まれなかったかもしれません。地球の歴史を変えてしまったと言っても過言ではないぐらいのスーパー偉人です。

しかし、そんな惑星クラスの偉人も、30歳くらいまではただの大工だったそうです。彼は現在のイスラエル北部にあたる地域で大工をやっていたそうです。当時の大工は、社会的地位があまり高くなく、奴隷の1つ上ぐらいとのことで、イエスはどこにでもいる平凡なユダヤ人大工の1人に過ぎませんでした。

そんな仕事を続けていたイエスですが、ある日大工を辞め、ユダヤ教の刷新運動をしていた宗教家のヨハネに弟子入りします。イエスはこのヨハネの右腕のようなポジションになり、イエス自信も少しだけ弟子を持ちつつ、ユダヤ教の新説を唱え始めて、ユダヤ教の中心地だったエルサレム近郊で活動を行います。

そのことでユダヤ人を支配していたローマ帝国から脅威とみなされるようになり、30歳を過ぎたころに弟子のひとりに裏切られて捉えられ、今でいう政治犯として処刑されます。イエスは十字架に磔にされたことで有名ですが、十字架刑は政治犯に適用される罰で、イエスだけの特別な刑罰だったわけではないそうです。

イエスの弟子たちも「十二使途」というと何だか格好良いですが、要するに弟子が12人しかいなかったともいえます。

資料が乏しく研究者によって見解は様々なようですが、ざっくりとイエスの生涯を要約すると上記のようになります。大工も政治犯も世界中にいくらでもいます。裏切られた人だってたくさんいるでしょう。そう聞くとあまり偉人感はありません。

そんなイエスがなぜこんなに有名になってしまったかといえば、端的にいえばたまたまです。歴史は物凄く複雑であり、遠い将来を予測して動ける人なんていません。だから、人間の評価を短期的なスパンで下すことにあまり意味はありません。

✔ 逃亡生活に明け暮れた孔子
イエスに並ぶくらいの影響力の超偉人として、孔子が挙げられます。彼はアジアの億単位の人間に影響を及ぼした、儒教の基本を作った人です。そんな孔子ですが、彼の人生もいまいちパッとしないものだったといいます。

彼は魯という小国の政治家でした。初期の仕事は牧場の管理等で、大して偉かったわけではなかったようです。一度政府の要職に登用されますが、政争に巻き込まれ失脚。そこから70歳近くまでほぼずっと逃亡生活を送る羽目になります。

結局、政治家としては本人の望んだ結果は得られず、弟子は多かったようですが、特に目をかけていた優秀な人は若くして亡くなってしまったといいます。孔子の息子も孔子よりも先に息を引き取りました。だから孔子は、けっこうな絶望の中で生涯を終えた可能性があります。

✔ イエスと孔子の共通点
彼らの人生の一番大きな共通点は、あまりうまくいかなかったことです。そして、彼らの残した「新約聖書」も「論語」も死後にかなりの時間が経ってから後世の人間たちによって書かれました。イエスや孔子が自ら筆をとったわけではありません。

つまり、イエスや孔子の言葉が「直接」世界を変えたわけではなく、多くの人の手を経て、間接的に波及していったわけです。にも関わらず新約聖書も論語も、どちらも人類史に残るベストセラーになりました。

上述のように彼らの人生を振り返れば、イエスにはキリスト教をつくった自覚はなかったでしょうし、孔子にも儒教を始めた意識はなかったはずです。二人の存在は、後世に波及していき、大きなうねりとなりました。生前の短いスパンと、その後の長いスパンで、彼らの評価は全く変わっているといえます。

人生のクライマックスは終盤に現れる

✔ カーネル・サンダース
著者はベンチャー畑でビジネスに関わっていますが「若くして成功すること」が現代社会での絶対的な価値になっているように感じるといいます。逆にいえば、それを達成できなかった人は、劣等感に悩まされるということでもあります。

カーネル・サンダースは、世界数十か国に2万店舗を超えるケンタッキーフライドチキンの創設者です。間違いなく大成功者といえるでしょう。

そのサンダースは、10代の頃に陸軍に入りましたが、2か月も持たずやめてしまったそうです。理由は船に弱かったからだとか。

サンダースは幼い頃に父を亡くしており、それもあって働く母親に代わって家事をしなければならなかったといいます。その一環で母の料理を手伝ったことが、のちの成功の伏線となります。

その後彼は諸事情により家を飛び出しますが、学歴は日本で言う小卒程度ですから、その後は大変な苦労に見舞われたことが想像できます。

彼が経験した職業を時系列に沿ってあげてみると…
陸軍、機関車の灰さらい、機関士、路面電車の車掌、ペンキ塗り、弁護士、保険外交員、フェリー会社の経営、商工会議所の秘書、ガスランプの製造販売、タイヤのセールスマン、ガソリンスタンド経営などなど。

弁護士というとエリートに見えますが、当時のアメリカでは資格はいらなかったそうです。その他フェリー会社の経営から商工会議所に移ったのはスカウトされたからですが、フェリー会社はサンダースが手を引いた途端に儲かり始めたといいます。

ガスランプの製造販売では、不運にもガスから電気へ移り変わる時代で、この事業失敗でサンダースは全財産を失ったといいます。その後もタイヤのセールスでようやく優秀な成績を残したと思いきや、自動車事故で大けがを負い解雇されてしまいました。

その後も紆余曲折ありましたが、ケンタッキーフライドチキンのビジネスを成功させたのは、70歳近くなってからです。なお、当時の米国人男性の平均寿命は60歳未満だったといいます。

30代や40代くらいで「成功した」「失敗した」というのはまだ早いかもしれません。サンダースに限らず、歴史上の偉人は多くが遅咲きといいます。あなたの人生はまだ、ちまちまと伏線を張っている段階にすぎません。クライマックスはまだまだ、ずっと先なのかもしれません。

感想

要約では3名の偉人しか取り上げられませんでしたが、他にも面白いエピソードが多く紹介されています。特にゴータマ・シッダールタ(釈迦)の考え方は、人の悩みを知る上で知っておいて損はないように思います。

また、人は「やったこと」よりも、ただ「いること」が大事で、歴史的に見ても存在することが決定的な意味を持つ場面が多くあるといいます。上述のイエスや孔子は生前は大きなことを成しえたわけではありませんが、その存在自体がものすごく影響を与えました。平たくいえば人間は誰も生きているだけで、周囲にものすごく影響を与えています。

日々仕事や人間関係の中で過ごしていると、頭を悩ませる出来事に多々見舞われます。しかし、歴史のような大きな視点で見たり、この本で紹介されている歴史上の偉人の行動や状況と比べてみると、また違った見方ができるようになるかもしれません。

自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上でコントロールすることをメタ認知といいます。これを身につけると、視野が狭くなったり、自分中心にしか物事を考えられなかったり、短期的な目線しか持てなかったりするのを防ぐことができます。

著者の深井さんは、歴史を学ぶことがメタ認知を身につけることに非常に有効と主張します。歴史を学べば、現在は当然と思われている価値観も、長い歴史で見れば色々な価値観が存在していて、必ずしもそれが良いわけではないことがわかります。

価値観を相対的に捉えることができるようになれば、思うように出世できなかったり、希望の企業に就職できなかったり、受験で失敗してしまったりしても、単なるネガティブな出来事とは違った体験として捉えることができるようになるかもしれません。

この本をきっかけに、興味のある時代や人物に焦点を当てて調べていくのも面白いように思います。

最後までお読みくださりありがとうございます。

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