よつば

はじめまして。 255文字で本の感想を書いています。 選書の参考になれば嬉しいです。 …

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はじめまして。 255文字で本の感想を書いています。 選書の参考になれば嬉しいです。 https://bookmark-clover.com/ 〝Amazonアソシエイト・プログラムの参加者〟

最近の記事

『斬首の森』澤村 伊智

鬱蒼とした森の中に佇むぐにゃりと歪んだ建造物。 装丁から不気味さを醸し出している。 カルト企業「T」の内部で行われているのは、「レクチャー」という名の暴力行為。 この会社の異常さに気付いた水野鮎実は突如起きた火災により脱出。 男女五人で逃走を図るが逃げ込んだ森こそが斬首の森。 逃げた先に待ち受ける新たな地獄。 彼らの運命は一体…。 後半は一気にホラーの展開で、蠢く死体などグロ要素満載。 合間に水野の取材シーンがある事で彼女が無事帰還出来た事は確認出来るが、最後まで一

    • 『ナゾノベル「プロジェクト・モリアーティー」』斜線堂 有紀

      斜線堂有紀さん、初の児童書だが大人が読んでも面白い。 「この世界をちょっとだけ正しくしたいと思ってる」と言い切るのは謎の転校生・杜屋譲。 瞬間記憶能力を持つ和登尊とタッグを組み、絶対に成績が上がる塾の悪徳塾長と対決する。 中学生という立場をフル活用し、並外れた頭脳で相手をやり込めるさまは爽快。 相手が悪ければ悪い程、その爽快感は倍増する。 天才的な杜屋に対し、人間味もある和登。 キャラも魅力的で二人のコンビネーションが抜群。 杜屋の行動は正義とは言い難い面もあるけれど

      • 『それは令和のことでした、』歌野 晶午

        「彼の名は」 「有情無情」 「わたしが告発する!」 「君は認知障害で」 「死にゆく母にできること」 「無実が二人を分かつまで」 「彼女の煙が晴れるとき」 「花火大会」 8話収録。 それぞれの作品に令和の時代の生き辛さや多様性が反映されている。 一話から強烈。 独自の価値観で突っ走る母親を持ったばかりに起きた悲劇。 これは笑えない。 二話も悲劇だが、善意で取った行動が誤解を生み、まさかの顛末を迎える。 同情を禁じ得ない。 四話のオチにホッとしたのも束の間、その後も不穏で

        • 『冥婚弁護士 クロスオーバー』夏原 エヰジ

          「結婚なんてろくなもんじゃない」 「真実とクラッシャー」 「親心というものは、きっと」 三話収録の連作短編集。 『カワイソウ、って言ってあげよっかw』でハマった作家さん。 この作品もテンポが良くて面白かった。 幽霊になった幼馴染の琴子と、新米弁護士の祐一がタッグを組み事件を解決していく。 有り得ない設定もなんのその。 卑屈で毒舌の祐一と、天真爛漫で優しい琴子とのやりとりが最高に楽しい。 被疑者の供述にまんまと騙されそうになる祐一を、琴子のナイスサポートで嘘を暴いていく

        『斬首の森』澤村 伊智

          『二人目の私が夜歩く』辻堂 ゆめ

          「昼のはなし」「夜のはなし」 二部で構成されたミステリー。 主人公は交通事故で両親を亡くした高校生の鈴木茜。 寝たきりの患者を訪ねる「おはなしボランティア」に参加し、そこで29歳の咲子という女性に出逢う。 交通事故の被害者同士、共鳴し合った二人に起きた不思議な現象。 一部ではファンタジーを思わせる展開だが、二部で一気に反転する。 咲子へ抱いていたイメージはどんどん覆され、物語はイヤミスのような空気を醸し出す。 彼女に隠されていた真実と後悔。 誰もが犯す過ちが取り返し

          『二人目の私が夜歩く』辻堂 ゆめ

          『真実の口』いとう みく

          表紙はコンビニの前で一人ぽつねんと座り込む女の子。 もうこれだけで切ない。 物語は、半年ほど前のある雪の夜に、外で震えている少女に出会った場面から始まる。 少女の名前は眞中ありす(4歳)。 七海未央、青山湊、周東律希、中三の三人は凍死を心配し交番へと送り届け、その行動で後に感謝状を贈られる。 だが彼等の中に引っ掛かっていた事、それが現実だと知った時、ありすの為に何が最善かを考え動き出す。 警察や児相に連絡する事が正しいと思えなくなる社会では意味がない。 見て見ぬふりを

          『真実の口』いとう みく

          『終活シェアハウス』御木本 あかり

          小学校時代からの同級生、歌子・ 厚子・瑞恵。 彼女達はマンション『カーサ・ベラ・ビスタ』の最上階で共に生活する。 68歳の女性3人が暮らすシェアハウスに秘書としてやって来た大学生の速水翔太。 そこに新たに初期の認知症と診断された恒子も加わり悲喜こもごもの日々が始まる。 再就職に苦労したり、ロマンス詐欺に引っ掛かったり、老いらくの恋をしたりと彼女達の毎日は平穏無事とは言い難い。 ギスギスした雰囲気になる時もあれど、歩み寄り助け合う姿が胸を打つ。 翔太と翔太の彼女・美果の

          『終活シェアハウス』御木本 あかり

          『彼女がそれも愛と呼ぶなら』一木 けい

          様々な愛の形が描かれる。 高校生の娘・千夏と、三人の恋人と共に五人で一つ屋根の下で暮らすポリアモリーの伊麻。 束縛彼氏に不快感を感じながらも、交際を断ち切れない千夏。 伊麻の友人で主婦の絹香は、浮気+モラハラ夫との結婚生活に嫌気が差している。 多様性の時代、誰がどんな愛の形を選択しようと本人達の自由だと思うけれど、自分に置き換えるとどれも違和感しか感じなかった。 相互に等しい愛情があれば良いが、相手が束縛と感じその恋愛に苦痛を感じた時点で愛情の天秤は激しく傾いてしまう。

          『彼女がそれも愛と呼ぶなら』一木 けい

          『JK III』松岡 圭祐

          シリーズ第3弾。 家族を無残に殺された女子高生・有坂紗奈の復讐劇。 K-POPダンスの人気YouTuber・江崎瑛里華としてお金を稼ぎながら、ただ一人復讐の為だけに生きる紗奈の生き方が切なくも苦しい。 本作では、紗奈の指示の元、タワーマンションの一室で生活する飯島千鶴が物語の鍵となる。 閉塞感に耐え切れなくなった千鶴が、夜の街へ繰り出した事で生まれた新たな悲劇。 悪は更なる悪を呼び、敵は増え、紗奈の復讐は凄みを増していく。 「ひとりでも多くのゴミを地獄へ突き落す」 鬼

          『JK III』松岡 圭祐

          『クリームイエローの海と春キャベツのある家』せやま 南天

          創作大賞2023(note主催)朝日新聞出版賞受賞作で本作がデビュー作。 主人公は五年間勤めた大手商社を辞め、家事代行派遣会社に登録したばかりの永井津麦。 新しく担当する事になった織野家に出向き目にしたのは、床一面を覆いつくす洋服の山。 その光景は全体に薄っすら黄身がかったクリームイエローの海のよう。 5人の子どもを育てるシングルファーザーと津麦。 不協和音を奏でていた二人だったが、家事に対する意識に変化が生まれ、互いを理解していく過程が良かった。 完璧でなくても家族

          『クリームイエローの海と春キャベツのある家』せやま 南天

          『あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか』天祢 涼

          真っ直ぐ問いかけてくるタイトルと、不安定な状態を思わせる装丁に惹かれ手に取った。 物語は同じ会社で働く三人の男女を中心に展開する。 子供時代に父親から「はっきりしない子」と言われた事で、自分の気持ちを言葉に出すのが苦手になった藤沢彩。 毒親の元で育ち暗い過去を持つ田中心葉。 心葉と同期の佐藤千暁。 親しく交流していた三人だったが、ある事実が明らかになった事でその関係性は崩れ出し、突如起きた殺人事件でより疑心暗鬼に陥っていく。 奥深い社会派ミステリーを期待していたので現

          『あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか』天祢 涼

          『もう明日が待っている』鈴木 おさむ

          以前読了した「僕の種がない」に続き本作もとても良かった。 本文中に"この物語は「小説」である”の一文があったがほぼ実話に近いと想像する。 読み終えて真っ先に沸き起こった感情は切なさ。 デビューから決して順風満帆だったわけではなく、メンバー、マネージャー、スタッフ、皆の努力が実を結び花開いていったであろうに。 公開処刑とも言われた番組中の謝罪をリアル視聴していた時の心のざわつきを思い出す。 事務所の圧力に屈するしかなかった彼等の無念を思うと胸が締め付けられる。 作者の

          『もう明日が待っている』鈴木 おさむ

          『怪談刑事』青柳 碧人

          「繰り返す男」 「猫に憑かれた女優」 「トンネルとマヨイガ」 「物の怪の出る廃校」 「対決・仏像怪談」 「生霊を追って」 6話収録の連作短編集。 主人公は、警視庁・深川署の刑事課から、警察庁に属する『第二種未解決事件整理係』に転属命令が下った只倉恵三・55歳。 娘の恋人で怪談師の関内炎月と共に奇怪な未解決事件を追っていく。 数々の怪奇現象めいた事件は人ならざる者の仕業なのか? 怪談嫌いの只倉が科学的根拠で真相を暴いていく姿は流石の一言。 普通はゾッとする怪談も全く怖く

          『怪談刑事』青柳 碧人

          『ぼくらは回収しない』真門 浩平

          「街頭インタビュー」 「カエル殺し」 「追想の家」 「速水士郎を追いかけて」 「ルナティック・レトリーバー」 5話収録の独立短編集。 前作の『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』より更に面白くなっていた。 1999年生まれ、東京大学大学院在中のまだ若い作家さんだが、1話読み終えるごとに上手さに唸ってしまう。 真相に辿り着いたかと思えば鮮やかな反転、注意深く読み進めていても、裏をかくその手腕にやられっぱなし。 第十九回ミステリーズ!新人賞受賞作に輝いた最終話も良い

          『ぼくらは回収しない』真門 浩平

          『私はヒロインになれない』小桜 菜々

          「私はヒロインになれない」 「ただそれだけのこと」 「愛とセックスはイコールだと思ってた」 「君との未来のために」 「サレカノ」 「沼恋の先に」 6話収録の恋愛短編集。 自分とは正反対のキラキラ女子を彼女に持つ男に片思いする女性、レスに悩む男女、『一番』になりたい女子など、20代女性の恋愛事情が赤裸々に描かれる。 誰かモデルがいるの?と思えるリアルさ。 自分の気持ちを押し付けて玉砕したり、自己嫌悪に陥ったり。 20代~30代の女性が読めば共感を覚えると思う。 この年代

          『私はヒロインになれない』小桜 菜々

          『鼓動』葉真中 顕

          圧巻。 引きこもりを題材にした作品の中で過去イチ良かった。 物語は、長い引きこもり生活の末に罪を犯した草鹿秀郎と、事件の真相を追う刑事・奥貫綾乃の視点で交互に語られる。 たらればを言ってもしょうがない。 だが、中学時代のいじめがなければ…。 就職氷河期のタイミングと重なっていなければ…。 一人でも彼の存在を肯定する人がいたら…。 何かが少しだけ変われば彼の人生は全く違うものになっていただろう。 引きこもり問題を深く掘り下げた社会派小説であるが、上質なミステリーでもあ

          『鼓動』葉真中 顕