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JOL2017-3 モンゴル語

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LevelB、文章

対応する二つの文章を比較して、語彙の特定を行う問題です。情報の整理を簡潔かつ正確に行う必要があり、少々センスも問われます。


出現する単語の種類が多いため、文法の正確な整理は困難です。そのため、まずは問題に従いつつ頻出の語彙を整理します。手始めにモンゴル語と日本語の両方を一文ずつ区切り、それぞれ十文ずつの対応を見やすくしておきます。(画像では、モンゴル語と日本語の対応する文章に①~⑩の番号がつけられています。以下、①等の記号はこれらの二言語の対応する文章の組を指します。)

モンゴル語 解説用


まずは(a)ですが、「流れ」という単語は題名にも含まれているため、題名の三つの語彙を「流れ」が多くあらわれる後半部分から探します。すると、 "урсгал" と似た単語がタイトルを除いて五個見つかります。

②モンゴル語 解説用

これらの情報から、「流れ」を意味するモンゴル語が "урсгал-" であることが分かります。ここで、題名に用いられている "урсгал" が原型であると考えられることから、モンゴル語では接尾辞が名詞につく場合があることが分かります。また、⑤から主語が文頭に来ることと主語には原型が用いられることが推測できます。
さらに、日本語文の⑩では二回現れている「流れ」がモンゴル語の⑩では一度しか現れていないことから、「時の流れ」の訳には "урсгал" が使われていないと推測できます。(言語が変わっても順接のコンマで区切られた複数の節が入れ替わることはほぼないため、日本語文⑩後半の「流れ」はモンゴル語文においてもコンマの後に出現するはずだと考えられます。解答では、「時の流れ」の「流れ」に対応するモンゴル語が括弧書きで示されていますが、与えられた問題文だけでこれを導くのはほぼ不可能です。)


次に、(b)について考えます。先ほど主語が語頭に来ることが分かったため、日本語文①の最初の単語が主語「日」単体であることから、モンゴル語⑩の文頭に来ている "наран" が対応するのではないかと見当をつけます。すると、「日」が主語「流れ」の修飾語の一部になっている⑨においてモンゴル語でも "наран" が "урсгал" の前に来ているため、「日」を意味するモンゴル語が "наран" であると分かります。(行間が狭いので画像では下線のみが引かれています)
また、モンゴル語文③にも "наран" が現れていることから、「日光」に対応するモンゴル語の語句にもこの単語が使われていることが分かります。

②モンゴル語 解説用


次に、(c)について考えます。「水」という単語は前半に集中しているため、前半部で多く現れる単語を探します。

②モンゴル語 解説用

すると、yc- の形をした単語が思いのほかたくさん現れます。そのため、日本語文と照らし合わせると「水面」や「水滴」にもこの単語が用いられており、③ではおそらく「日光」の周りの単語にも使われていると考えられます。(日本語文①には「水」が一つしかないのに対してモンゴル語文①の後半にはyc-が二つ現れるので仮にどちらにも印をつけておきます。→後述)
また、④についても二つ yc- の形をしている言葉が現れますが、これについては今後の問題に影響しないため、深堀りする必要はありません。

※実際は、③の3つ目と④の2つ目はуではなくүという文字が使われており、水とは関係ないのですが、活字が見づらく僕自身も初見では印をつけてしまっていたので、今回はそこを勘違いしていても解けるルートを解説しています。

多くの種類の接尾辞がついていますが、②の "yc" が全ての "yc-" に共通する部分で接尾辞がついていないと考えられることと、修飾語がついてはいるが主語であることから、 "yc" が「水」を意味するモンゴル語だと推定します。


次に、(d)について考えます。しかし、問題で問われている数字の「二」は日本語文にはないため、「二」と似た言葉を探していくと、日本語文③に「両手」が見つかります。これまでの問題で、「水滴」や「水面」等の言葉が複数の語句で表されていた(水の○○等)ため、ここでもモンゴル語では「両手」を「二つの手」と表現しているのだと推測します。
日本語文③に着目すると、「水」に先ほどの問題でつけた印がついています。ここで、モンゴル語文②の「ナリーン川の水は、」に対応する部分の構造が ナリーン川+水 となっているため、修飾語は修飾する単語の前に来ると考えられます。そのため、②場合は "Нуур нуднийхээ" が「顔や目の」を表していると考え、「両手で払って、・・・」の部分が "усыг"(「水を」) の後に続くと考えます。
すると、タイトルにも使われている "хоёр" という単語が見つかります。②の文では主語が省略されているため、タイトルと②で共通するのが「二」を意味する単語であり、モンゴル語では「流れと僕」が「流れ・僕の二つ」のように表現されると推測できます。
このことから、数字の「二」を意味するモンゴル語が "хоёр" だと推定できます。


次に、(e)について考えます。(この問題は難しいので最後に解くことをお勧めします)「八」が出てくるのは③の「四方八方に」の部分です。(c)で「水滴」がモンゴル語では複数の単語で構成されていると分かったため、 "дуслууд" が「滴」を意味するモンゴル語だと考えられます。
また、後の問題で分かりますが、モンゴル語では動詞は基本的に文の最後に置かれます。また、一桁の数詞が二語になることは無いだろうと考えられるため、「水滴が」の後の "дервен зүг найман" が「四方八方に」を意味し、「散る」という動詞が "зовхист үсчин" と二語で表されていると考えられます。モンゴル語が何種類もの接尾辞を持つことは前の問題で分かっているので、この真ん中に挟まれた単語 "зүг" は「四方八方に」の一部かつ接尾辞でない単語で、「四方」と「八方」をつないでいると考えるのが妥当です。

そのため、日本語文が「四方八方に」となっていることから後に来ている "найман" が「八」を意味するモンゴル語だと推測します。


(f)では、動詞の終止形語尾が問われているため、まず文中に複数現れる動詞がないか探します。すると、「立つ」という動詞が
「立ち上がる」(③)
「立たせない」(④)
「立つ」(④)
という三つの形で使われています。そこで、モンゴル語文③、④の中で共通する言葉(④には二つ)を探すと、бос- が見つかります。ここで、④の「立つ」が原型であるため、その語尾を見てみると -но となっています。また、この文章からモンゴル語では動詞が文の最後に来ることが分かります。
そこで、同じように文の最後に動詞の現在形終止が使われている部分を調べます。(モンゴル語は接尾辞がかなり多そうだということが分かるので、多くの言語で動詞の原型が用いられる現在形終止に絞ります。実際に過去形終止の語尾が使われている動詞の位置が文の最後だと考えられる⑧を見ると、後述する規則に則っておらず、動詞の終止形語尾ではないと考えられます。)

②モンゴル語 解説用

(動詞の現在形終止に黄色の丸がついています。)

これらの情報を整理すると、動詞の語尾に規則が見えてきます。問題に題意に適した書き方をすると、

-н+母音

となります。(эが母音であるか確証が持てないため、-н- でも点数はもらえると思います。実際には「エ」と発音される母音です。)


(g)~(j)は「僕」を意味する単語の格変化を問う問題です。


(g)「僕(は)」を日本語文中から探します。ここで注意が必要なのは、タイトルにある「僕」です。(d)にて、タイトルでは特殊な語順が使われていることが分かっているため、何らかの変化が加わっている可能性があることを頭に入れておく必要があります。

②モンゴル語 解説用

緑色の四角で囲まれているのが該当部分です。
日本語文⑥では「僕は」が主語として文頭に現れるため、モンゴル語文でも同様に文頭に現れる "Би" が「僕は」と対応する単語だと考えられます。裏付けを得るために①の前半部とタイトルを見てみると、 "Би" と "БИДЭН" が見つかるため、 "Би" が原型であり、タイトルの "БИДЭН" は語尾が変化した形だと推定できます。


(h)で問われている「僕の」は日本語文中で②と⑦に一回ずつ現れます。そのため、モンゴル語文②と⑦を比較して既出の語彙以外の共通した単語を探します。(緑色の丸で示してあります)

②モンゴル語 解説用

すると、 "минь" が「僕の」と対応するようだということが分かります。また、②においては「ナリーン川」に対応する言葉の直前、⑨においては文章の最後に "минь" が来ているため、この言葉は後置修飾として使われていることが分かります。そのため、これ以降の問題でも「僕」を含む修飾語が被修飾語の後に置かれる可能性があると推測できます。


次に、(i)について考えます。「僕を」は日本語文④にしか現れませんが、④は文章が長いので文構造を整理する必要があります。
まず、④の後半部(日本語文の読点の後)にある前の問題で分析済みの「立たせない」「流れ」の二つの単語を起点に分析をします。モンゴル語文では "урсгал" (流れ) の前に "босгохгүй" (立たせない)があるため、「流れ」にかかる修飾節「僕を立たせないというような」は前置修飾になっていると分かります。
さらに、④の前半と後半に一度ずつ使われている「ような」についてモンゴル語文で比較すると、"мэт" という単語が共通しており、この単語が「ような」を意味すると考えられます。
この二つのことから、"босгохгүй" (立たせない)と、"мэт" (ような)に挟まれている "гэсэн" が "мэт" (ような)とセットになる「という」に対応すると考えるのが自然です。そうすると、後半部でただ一つまだ分析していない単語が「僕を」となりますが、「立たせない」の目的語であるこの単語は前の節に干渉せず後半部の節の中にあると考えられるため、「僕を」を意味するモンゴル語が "намайг" であると特定できます。


最後に、(j)では「僕から」について問われています。まずは、この単語が現れる⑧のモンゴル語の動詞を特定します。⑧の動詞は「遠ざかって逃げた」ですが、動詞「逃げる」は⑥にも複合動詞の一部として出てきます。そこで、共通している単語を探すと "булт-" が見つかるため、これが「逃げる」に対応するモンゴル語だと推測できます。また、⑧でこの動詞の前についている "алслан" は複合動詞の相方である「遠ざかって」を意味するのだと推測できます。
これにより、⑧において分析が済んでいないのは「いたずらな」と「僕から」になりますが、(d)で分かったようにモンゴル語では基本的に前置修飾が使われることや、「僕から」は動詞の補語に当たるため動詞の隣にあると考えられることから、 "надаас" が「僕から」を意味するモンゴル語だと分かります。

↓解答(公式ページから引用)

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