見出し画像

IOL2022体験記

○はじめに 的な何か

(長らく解説を更新しておりませんでした)ClObです。お久しぶりです。幸運なことに悲願であった国際言語学オリンピック日本代表に選出され、2022マン島大会に参加したため、それに至るまでの過程と大会の感想、反省点を書き記しておきたいと思います。
本編は書きやすさの問題で終始常体で書いております。ご了承下さい。
(旅程に興味がない、言オリ要素だけ読みたい、という方はJOL2022、APLO2022、マン島2日目(個人戦)、マン島4日目(団体戦)をどうぞ。)


■JOL2022

前回大会(JOL2021)が銅賞に終わってしまった悔しさを胸に国内一次予選にあたるJOL2022を受験。
問題の印象は、

  • 第1問→簡単。稼ぎ所。

  • 第2問→簡単。稼ぎ所。

  • 第3問→主語標識のつく語が変わる条件がわからず、点数を落としてしまう。

  • 第4問→親族名称???は???最後に回して時間なかったら勘で埋めよ

  • 第5問→文型をしっかり整理できればそこまで難しくない。nran。

といった感じ。

時間がなくなり第4問は最後に勘で埋めることになってしまったものの、全体的な手応えは悪くなかった。祈って結果を待つが、面接対象者ではないと通知される。

面接対象者から外れる。

昨年は銅賞以上で面接を課せられたため、銅賞ですらないと思い、絶望する…

銅賞。

が、参加者が多く銀賞以上が面接対象となったために面接が課せられなかった模様。しかし、依然としてAPLO進出とはならないため、がっかりしていた。
そんなある日。

!?!?!?

採点ミスによって点数が10点上がり、銀賞であったことが発覚、運営からメールを受け取る。
部活終わりに部室でこのメールを見て、文字通り飛び上がって喜んだことをよく覚えている。何はともあれ、APLO進出が決まった。

喜ぶClObの様子。

■APLO2022

新型コロナウイルス感染拡大のため、オンライン(zoomで監視を受けながら)での開催。5時間の長丁場に臨む。
問題の印象は、

  • 第1問→形態素分析を行った結果動詞にあたる形態素が見つからない事態になり、次の問題へ進む。(実は動詞を何も書かないことで主語が「熟している」ことを表す言語なので、この分析は正しかった。世界には本当に様々な言語がある。)1.5点/20点。

  • 第2問→音韻規則に関する問題。苦手なジャンルではあるが、なんとか食らいついて10.5点/20点を獲得。

  • 第3問→統語・形態、強勢付与に関するオーソドックスな言オリらしい問題。16.5点/20点を獲得。

  • 第4問→数詞??????第1問が解けなかったため、最後に戻ってくる時間もないだろうと判断し、記述に「10進法」とかなんとかだけ書いた記憶(実際には6進法)。堂々の0点。

  • 第5問→統語・形態に関する難しい問題。なんとか8.5点/20点を獲得。

といった感じ。全体的に難易度が高く、楽しめた第3問以外は正直解いていて苦しかった。
昨年の代表選出ボーダーが50点くらいだったため、さすがに代表にはなれないと思ったが…

!!!!!!!!
日本8位に滑り込み、代表入りが決定。人生で五本指に入るほど嬉しかったかもしれない。

この後、日本代表メンバーやAPLO参加国の代表たちなどと練習会を行った。非常に有意義なものになったと思う。


■IOL2022

今年は2年ぶりに対面開催が叶い、マン島(ブリテン本島とアイルランドの間に浮かんでいる島)へ渡航。日本入国前にPCR検査が必要になることや、スリランカを経由してイギリスに向かうことなどから、7/21~8/2と長めの旅程となった(大会日程自体は7/24~7/30)。

■日本脱出

諸事情により1人は残念ながら出国が叶わなかったため、チームリーダー1人と選手7人の計8人で出国することに。
7/21に成田空港からスリランカ航空のエアバスA380に搭乗。半無政府状態(?)のスリランカを経由してヒースロー空港へ。スリランカは数日前に新大統領がようやく決まったばかりであったが、空港は平和そのものだった。

成田空港
スリランカ、バンダラナイケ国際空港

バンダラナイケ国際空港のトランジットホテルで一泊し、スリランカ時間の早朝にイギリスへ出発。ちなみに、日本~スリランカは8時間くらい、スリランカ~イギリスは11時間くらいのフライトとなる。長い。


■ロンドン1日目

7/23の昼にイギリスに到着、イギリス在住のもうひとりのチームリーダーと合流。空港につくなり "lift" と書かれたエレベーターの案内表示を見てイギリスを実感する。
ヒースロー空港から Heathrow Express(日本でいう成田エクスプレスのようなもの)で一気にキングズクロスまで移動。

King's Cross Station
駅構内で多数の魔法使いを目撃。

宿は駅近くのホテルだったので、荷物を置いてロンドン在住のチームリーダーの案内で駅周辺を散歩。UCL(University College London)を見学させて頂いた。学科ごとに別の建物(しかもどれも大きい)があり、特に言語学科は心理学科や社会学科との結びつきが強いとのこと。

UCL

宿に戻り、チームTシャツを受け取る。

かっこいい!

この日は部屋で買ったサンドイッチを食べ就寝。ちなみに、ロンドンでのルームメイトは山葵さん。

■ロンドン2日目

この日は、キングズクロスから少し離れた場所に観光へ。まずは大英博物館。

でかい。
言語学徒なら一度は憧れるスーパーアイテム、ロゼッタストーン

あまり時間がなかったためすべてをしっかり見ることはできなかったが、楔形文字やらヒエログリフやらが刻まれた壁画等を主に見て楽しんだ。これが言オリer。

それから、ビッグベンとバッキンガム宮殿も訪問。

ビッグベン(エリザベス・タワー)
バッキンガム宮殿

宿の周りを散策しながらイギリス限定のスタバのフラペチーノを嗜む(with山葵さん)。

ピーチ&パッション(僕)/バナナ(山葵さん)

イギリス2日目はこれにておしまい。

■ロンドン3日目

午前は再び観光、午後はいよいよマン島に移動。

まずはロンドン橋、タワーブリッジ。

タワーブリッジ
ロンドン橋

そして道中の Southwark Cathedral。

Southwark Cathedral

これらを通ってバラ・マーケット(Borough Market)へ。(スリが怖くてスマホを取り出せず、写真は撮っていない。)イギリス名物の Fish&Chips とやらを食す。味には触れないでおく。

脂が重い。

現代美術館にも行ったり。

Tate Modernにて

夕方にはガトウィック空港に移動。ここから飛行機でマン島へ。搭乗ゲートの発表を待つ間に、ウクライナ代表チームに遭遇。

小型ジェット機に搭乗

マン島に到着し、宿にチェックイン。この日はこれでおしまい。マン島での同室は狭熊さん。

宿泊場所、Soften Express

■マン島1日目

いよいよ他国の代表たちと対面。大会は基本的に King William's Collegeで行われる。城みたいな大学。

代表の集合写真。城やん。

主要都市ダグラスの貸し切り劇場で開会式。

開会式
参加者全員の集合写真。IOLの旗が掲揚されている。

こんな感じで一日目が終了。(交流、式典、事務作業が多めの一日だった。)

■マン島2日目(個人戦)

この日はいよいよ個人戦。(早い段階でスマホを没収されるため写真なし)
問題は載せていいか分からないため、IOL公式サイトからダウンロードしてご覧ください。
解いてみた感想としては、

  • 第1問→言オリらしい形態素解析の問題。人称による動詞の変化が難しい。動詞幹の変化条件がチームリーダーの出した解答速報(?)と同じだったので嬉しかったが、全体的に規則をうまく整理できなかった印象。記述がヘタクソ。

  • 第2問→めちゃめちゃ難しい語対応。頻度解析でゴリ押そうとするも、必ずどこかで数が合わなくなり爆死。チームリーダーでも一日では解けなかったという難問。アンケートでは約半数の受験者が最難と回答。

  • 第3問→いかにも言オリな統語の問題。複数存在する人称代名詞の使い分けが難しかったものの、語形変化がないうえ助詞のようなものも存在するため日本語話者にとっては解きやすかったのかも。手応えは悪くなかった。

  • 第4問→IOL、お前もか。またもClObに襲いかかる家系図問題。最後に回し、結局手を付けられなかったが序盤は簡単だったらしい。やればよかった。食わず嫌いは本当によくない。

  • 第5問→音韻に関する、ありそうでなかった歴史言語学味のとても強い問題。いちおう解いたけど、なんだかなあ…とすっきりしない後味。作問者がIPA子音チャートTシャツを着ていたので好き。(まさか同じデザインの服を着ている人間に出会うとは思わなかった。)

といった感じ。圧倒的に実力・経験不足。なんとか喰らいつけた問題もあったが、これでは入賞には程遠いよね…精進します。

6時間の戦いを終え、虚無になる。この日の写真が一枚もないほど虚無になってた。この日は仲間内で問題の振り返りをし、大学内で行われた謎のダンスパーティに巻き込まれた後、就寝。

■マン島3日目

この日は「エクスカーション」と称したマン島の観光地ツアー。

マン島の街並み。

汚染が進む日本とは異なり当たり前のように白浜が存在し、きれい。対岸の街並みと、岬に見える中世の見張り塔(?)の遺跡の風情が素晴らしい。

砂浜。らぐるすさんは水切りがうまい。

続いて、ピール城を見に行く。いかにも中世のお城。この城からはうっすらとアイルランド、ブリテン島のさきっぽが見える。

(改修中)

この日はマン島鉄道に乗って宿のある街に戻る。明日はいよいよ団体戦。まさか夜中までカタンをするなんてことはないだろう。まさかね。

マン島鉄道。蒸気機関車。

■マン島4日目(団体戦)

この日は4人チームを組み4時間で問題を解く団体戦。ClObはJapan NINJAチームで出場。各チームに大学の教室一つと試験監督一人が割り当てられ、話し合いながら問題を解いていく。

JAPAN NINJAの教室。よく見ると時計が謎。

団体戦の問題は、マン島のマンから連想したという満州語からの出題(作問者談)。団体戦にしては珍しく大問がいくつか用意されており、その内容は文字、対応、数詞、統語など多岐に渡る。問題数が多いので、分野ごとに4人で分担しながら作業。大問4の後半の問題を除いてはほぼ解くことができた。
例年の団体戦の問題はめちゃくちゃ難しい大問一つを4人で解き、問題の解答とともに見つけた規則を記述することも求められる形式だが、今年は問題量が多く、記述が求められない上、記号問題も存在するという異例の形式だった。(このことも今回善戦できた要因かもしれない。)

団体戦終了後、ルーシェン城を訪れる。

ルーシェン城。よく見るとIOLの旗が掲揚されている。

その後、主要都市ダグラスの劇場のようなところでダンスパーティ。これこそカルチャーショック。何でみんなこんなに社交ダンスできるん?(なんだかんだ踊るのは楽しい)

イギリスとアイルランドの人たち無限に踊ってません?の図

そんなこんなで4日目終了。

■マン島5日目(表彰式)

午前中は問題の解説と問題ごとの最優秀解答賞の発表。問題の解答解説に関してはIOLの公式サイトを御覧ください。
たかみーさん第4問最優秀解答賞おめでとうございます🎉

午後はいよいよ表彰式。日本代表の名前が次々呼ばれる中、ClObは個人戦での入賞ならず。来年リベンジしたい。
それにしても、またも金賞2人(たかみーさんは史上初の2大会連続金)、すごい。受賞した方々、改めておめでとうございます。
団体戦は前述の通り問題形式が問題形式だったため、ある程度解けたものの全体での位置がどのくらいなのか見当がつかなかった。そのため、3つ目の銅賞受賞チームとしてJapan NINJAが呼ばれた時、一瞬自分たちのことだとわからなかったが、日本初の団体戦メダル獲得、そして、日本にメダルを持って帰れるという事実がとにかく嬉しかった。
そして、もう一つの日本チームSAMURAIは、3人での出場にも関わらず銀賞を獲得。すごい。団体戦で日本代表チームが2つともメダルを取る時代になったらしい。

左端4人がJapan NINJA
銅メダル獲得チーム。日の丸を持ってき忘れたのがちょっと残念。

この後IOL2023の開催地ブルガリアが発表され、表彰式は終了。
King William's Collegeに戻り、洋楽を熱唱する海外勢を横目に夕食をとる。洋楽は教養らしい。これでIOL2022の全日程が終了。お疲れ様でした。

■ロンドン4日目

早朝にマン島を出発。初めて乗るプロペラ機でマンチェスターへ。

かわいい。そして速い。

マンチェスター空港でPCR検査を受け、待機。結果は陰性。

M&Sのめっちゃおいしいジュース。
濃縮還元してない100%無添加ジュース。

マンチェスターからバスで6時間かけキングズクロスに移動。キングズクロスからホテルに向かう道中、石畳にやられスーツケースのキャスターがひとつ逝去。南無南無。

逝去したキャスター。😇

壊れたスーツケースを引きずって先週と同じホテルに宿泊。ルームメイトはマン島に引き続き狭熊さん。

地下鉄駅の竣工記念看板に書かれた落書き。不憫なジョンソンさん

■ロンドン5日目~

午前中はCovert Gardenを散策。チャイナタウンを歩いたり、土産を買ったり。

チャイナタウン

午後にヒースロー空港に移動し、夜にスリランカ行きの便に搭乗。この日は機内泊(深夜までアボカドスマッシュで遊んでたけど)。

■日本帰還

12時間ほどのフライトの後、現地時間昼前にスリランカに到着。トランジットホテルの部屋を借り、ボードゲームアリーナなどで時間を潰す。夜の便に搭乗し、いよいよ成田に出発。人手不足によりセキュリティが混乱しており、出発が1時間ほど遅れてしまった。
寝不足だったのでこのフライトはほとんど寝ていた。

利根川

いよいよ成田空港に到着。着陸直前のアナウンスで成田の気温が32℃であると知り、絶望する。日本暑すぎ。

諸事情で全員での帰国は叶わなかったが、とりあえず無事に日本に帰還。成田空港で解散。お疲れ様でした!


■振り返り

ずっと目標としていた国際大会出場が叶い、個人戦入賞こそ叶わなかったものの、団体戦ではメダルを獲得することができた。また、何人かの他国代表とも交流をもつことができ、非常に有意義な大会になったと思う。個人戦に関しては、来年またリベンジしたい。最後に、備忘録も兼ねて良かった所と反省点を書き留めておく。

<よかったこと>
・団体戦銅メダル獲得
・代表仲間と仲良くなれた
・何人かの他国代表とtwitter交換したりできた
・お店などでちゃんと英語のやりとりができた
・楽しかった
・無事に帰ってこられた

<反省点>
・個人戦で入賞できなかった(練習不足)
・各国代表のサイン集めるやつやればよかった
・日の丸忘れた
・飛行機はうるさいので寝るならヘッドホンかイヤホン必須


○おわりに 的な何か

ここまで読んでくださってありがとうございます。改めて、日本代表チームのみなさん、チームリーダーのお二人、ここまで応援してくれた方々(特に家族)、ありがとうございました!!
来年はまた国内予選から出場します。もしこれを読んで興味を持たれた方がいらっしゃれば、ぜひぜひJOLに挑戦してみてください。
長い記事になってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。(最後にJOLとIOLのサイトのリンクを貼っておきます。)

日本言語学オリンピック公式サイト

国際言語学オリンピック公式サイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?