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これ以上”美しい”舞台はあるのか?ロンドン観劇記録(2)『Aspects of Love』

ミュージカルや演劇を観て、言葉の重みや演技、華麗なダンスパフォーマンスや歌唱に感動することは多いかと思います。

実際その時は、「かっこいい」と感じたり、感情移入して涙を流したり、はたまた言葉にできないモヤモヤが残ったりするのではないでしょうか。
ただ、なかなか「美しかったな」と終演後に感じる、余韻に浸る舞台は多くはないように感じます。今回ロンドンで、そんなプロダクションに出逢うことができました。

その創り手は、あのアンドリュー・ロイド=ウェバー。日本でも上演された『オペラ座の怪人』や『CATS』『エビータ』の作者であり、レジェンドです。現代ミュージカルの歴史は彼なしではありえなかったといっても過言ではないでしょう。メロディーメーカーとして、スティーブン・ソンドハイムと並び、ショービジネスを牽引してきました。

今回の作品『Aspects of Love』は、かの『オペラ座の怪人』の次の作品にあたります(1989年)。『オペラ座の怪人』などと同様、台詞と歌唱部分が分かれているミュージカル形式ではなく、切れ目がほとんどなく全て音楽で語られるオペラ形式で、創られていることが特徴です。

中心となる登場人物は4名。今回のキャストとともに紹介していきます。
*Rose Vibert(ローズ)
女優。冒頭アレックスに口説かれ恋に落ちるものの、兵役のため去るアレックスとの別れから、おじであるジョージと関係を育み、後に結婚。一人娘のジェニーを授かる。

■Laura Pitt-Pulford
2015年上演の『Seven Brides for Seven Brothers』でローレンス・オリヴィエ賞にもノミネートされた実力派。『Sunset Boulevard』のノーマも演じた経験があるなど、役にぴったりなイメージでした。歌唱力、特に終幕直前の混乱状態の演技は卓越していました。


*Alex Dillingham(アレックス)
おじのジョージに世話になっている若者。17歳の時にローズを口説く。
兵役で帰ってきたのち、ローズとジョージの関係を知り、怒りのあまり発砲。ローズを傷つけてしまう。しばらくしてジョージにも許され、ローズとジョージの一人娘ジェニーとの関係が築かれようとするが…

■Jamie Bogyo
2021年上演のミュージカル『ムーラン・ルージュ』のクリスティアン役でデビューをした新進気鋭。低めで色気を持ち、のびのある声色が魅力的です。4役の中では、最も劇中での年齢的な価値観ギャップがあり、難しい役だと思いますが、ローラとマイケルに挟まれながらも堂々としたパフォーマンスでした。


*Sir George Dillingham(ジョージ)
サーの称号も授かる実力者。愛に対して寛容な考えを持つ。アレックスが連れてきたローズにも惚れ、やがて結婚。一人娘のジェニーを溺愛するがあまり、アレックスとの関係をよく思っていない。

■Michael Ball
略歴が挙げられないほどのキャリアを持つイギリス演劇界を牽引する俳優のひとり。1989年の『Aspects of Love』の初演時は、アレックス役のオリジナルキャストを務めました。圧倒的な存在感をはなっており、劇中のナンバー「Love Changes Everything」では大盛り上がりでした。


*Giulietta Trapani(ジュリエッタ)
ジョージの愛人の一人。ジョージと5日ほど結婚していた過去を持つ。ジョージと同じく、愛(性別に関しても)に寛容な考えを持っている。登場頻度は高くないが、ターニングポイントに必ず登場する曲者。

■Danielle de Niese
やけに上手いなと感じて、観劇後にプロフィールをみたところ、ニューヨークのメトロポリタンオペラをはじめ、コヴェントガーデン、スカラ座でもキャリアを積む、バリバリのオペラスターでした。ただ舞台デビューは18歳の時の『レ・ミゼラブル』。16歳の時にはエミー賞も受賞しており、存在感抜群な理由がわかりました。

本作は、ジュリエッタの歌唱で終幕します。全ての影、全ての行為の亡霊としてジュリエッタがストーリーテラー的に存在していたことを示すような演出。シェイクスピアの『夏の夜の夢』のパックのような存在感を誇っていました。

この4役に加えて、娘のジェニーを演じたAnna Unwin(本作がウエストエンドデビュー)も素晴らしく、スター街道まっしぐらではないでしょうか。第二幕のジョージとのデュエット「The First Man You Remember」はマイケルと本当の親子のような微笑ましさを感じさせました。

これらキャストとロイド・ウェバーの素晴らしい音楽に加え、この作品を美しくさせた理由。それが、舞台美術と映画のように進行する舞台転換です。

まず舞台美術ですが、今回が初めてウエストエンドプロダクション参加となったJohn Macfarlaneが担当。これまではバレエやオペラの美術デザインを主に活動し、巨大な水彩画を描く創作プロセスで舞台を彩ってきました。
本作もまるで絵の中の人物が動いているように感じさせるものがありました。

切れ目のないオペラ形式のミュージカルということもあり、舞台転換も流れが重要です。舞台の1/4程度の幅のスクリーンが上手下手を横切り、
その横切りに合わせて気づいたら次のシーンに進んでいるという映画を見ているような進行。ここにJohnの背景も加わり、美しいという表現がぴったりな演出でした。

ロンドン時間で19日(土)で千秋楽となってしまうことが惜しいほど。
また美しいと感じられる作品に出逢えるまで、噛み締め続けたいと思います。


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