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父は難しい…ロンドン観劇日記(5)『Mrs.Daubtfire』

ミュージカル作品の中には、人気映画を舞台のために作り替えることも少なくありません。ニューヨークでは、マリリン・モンローが出演している映画"Some Like it Hot!(お熱いのがお好き)"が上演されています。コロナ前にもダスティン・ホフマン主演の"Tootsie"(山崎育三郎主演で日本でも上演予定)が制作され、話題となりました。

2015年には制作が始まっていたものの、制作チームが変更になるなど、苦節の中生まれた作品、それが”Mrs.Daubtfire"です。なんと当初はアラン・メンケンが音楽を担う予定だったとのこと。2013年時点から、Mrs.Daubtfire"はブロードウェイ向きであるというプロデューサー陣の判断があったようで、オールスターチームを組む方向で進んでいたことが、予想されます。ただ結局、メンケンは降板。彼が関わっていたら、どのように作品が彩られたのか、見てみたかったのが正直なところです。

”Mrs.Daubtfire"はロビン・ウィリアムズ主演、1993年公開の映画です。お調子ものの父親ダニエル・ヒラードは、妻に離婚を切り出され、親権を得ることもできず、愛する子どもたちと離れ離れに。そこで彼は、変装をして家政婦Mrs.Daubtfireとして家庭に関わることにします。はじめのうちはうまくいっていたものの、諸々問題が発生していき、、、というドタバタ劇。笑いあり、涙ありの作品です。

この作品(映画も含めて)の見どころは、ダニエル=Mrs.Daubtfireの演技です。切り貼りできる映画とは異なり、舞台ではリアルタイムかつ瞬時に、化粧・着替え、そして演じ分けをしなければならず、ゆえの面白さもあります。その分、役者の演技力も必要です。驚いたのはMrs.Daubtfireの再現度の高さでした。映画で慣れ親しんできたロビン・ウィリアムズのMrs.Daubtfireが目の前にいるように感じます。

映画版のビジュアル
舞台版のビジュアル

この作品は、夫としての存在、年齢の異なる子どもたちそれぞれにとっての父としての存在であることの難しさを考えさせられます。仕事があまりできていないという大前提はありますが、子どもに楽しんでもらおうと一生懸命になっていたダニエルは、長女のリディアに「パパは父親ではなくて、キャラクターなの!」と言い放たれてしまします。もちろん口論の勢いで出てしまった言葉ですが、きっと心の奥底で感じていた本音だったのでしょう。子どもの成長過程にダニエルはついていけてなかったのかもしれません。かつそのようなキャラクター状態の夫は真剣な相談なども茶化してしまう部分があり、妻のミランダは愛想を尽かしてしまいます。家庭のために担っていた役目が仇となってしまった(恐らく本人はそんな自分が好きだったことは間違いないでしょう)。心に刺さるものがあります。

ただ、この物語は悲観的な終わり方はしません。その子どもたちを楽しませようとするキャラクターが、TV局のプロデューサーの目にとまり、番組を持たせてもらえることになります。

舞台も映画も同様に、ミランダが一人リビングでMrs.Daubtfireの番組を見ている場面でエンディングを迎えます。画面の中でMrs.Daubtfireは、「両親が離婚してしまい、私はもう誰にも愛されていないのか」と悩む少女から番組に寄せられた手紙に答えます。

映画の場合どうしても、Mrs.Daubtfireの姿を映すのみになってしまうのですが、舞台では、手前に番組で話すMrs.Daubtfire、奥にその番組を見るミランダが並びライトが当てられます。映画に比べ深層心理がより垣間見られるような好演出でした。

家族というひとつのコミュニティには、関わっている人数は少ないものの、複雑化した問題が多数ある。これはどの国であっても、どの時代であっても変わらないでしょう。ヒラード家のような選択肢もあるでしょうし、他の選択肢も多くあるはず。愛する家族がいる。これはかけがえのない、とても幸せなことだと思います。家族の中で、よく対話し、互いの未来に幸せのために、互いに納得のできる最善な選択肢をとる。”Mrs.Daubtfire"は、そんな家族のあり方を考えさせてくれる作品です。

カーテンコールより

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