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社員戦隊ホウセキ V/第25話;宝石合体・ホウセキング!

前回


 四月四日の日曜日の正午過ぎ、首都圏の港に三体の巨獣、カムゾン、ヅメガ、ギルバスが送り込まれた。十縷 = レッドはこれを迎え撃つべく、独断で宝世機・ピジョンブラッドで出現したが…。

 そんな彼の無茶を案じ、被害者を出すまいという光里たち四人の心の声に応じたのか、赤以外の四つのイマージュエルもそれぞれ宝世機の姿となった。


 新たな宝世機の誕生は、戦場から離れた場所にも届けられる。まずは寿得神社の離れ。映像を届けるのは、ちゃぶ台に置かれたリヨモのティアラだ。

「これで五色のイマージュエルが、全て宝世機の形を得た……。姫の予想通り、レッドが全員に影響を与えましたよ!」

 リヨモの方を向いた愛作は、興奮を抑えられない様子だ。対してリヨモは、空中に投影される映像をじっと見つめて、鈴のような音と耳鳴りのような音を同時に響かせていた。

(凄い……。この勢いなら、きっと伝説の想造神も甦ります。勝てます……)

 リヨモの様子は、固唾を呑んで見守ると表現するのが的確か。彼女に影響され、新杜も真剣な眼差しをティアラが投影する映像に送った。



 この映像は、寿得神社の離れでは感動を呼び起こしていたが、小惑星の地下空洞では全く異なる反応を生じさせていた。

「次々に宝世機が湧いてきよったぞ! ザイガよ、話が違うぞ!」

 銅鏡が映し出す映像に目を点にしたマダムが、隣のザイガに苦情のような感嘆を浴びせる。同じ鏡を見るザイガは顔に感情を表さない代わりに、鉄を叩くような音を体の底から鳴らしていた。

「地球のシャイン戦隊は、ジュエランドのシャイン戦隊よりは有能だと見ていたが、まさかこれ程とは……。予想以上だ」

 そう呟くと、ザイガは鉄を叩くような音に混ぜて、鈴の鳴るような音も立て始めた。まるで、戦いを愉しんでいるかのように。


 小惑星に映像を届けるゲジョーは、現地でその光景を見て震撼していた。

「シャイン戦隊が全員、イマージュエルを宝世機にしただと!? ジュエランドでは、ザイガ将軍以外にできる者はいなかったと聞いていたのに……」

 ゲジョーは驚きながらも律儀にスマホを戦いの方に向けていたが、その手は激しく震えていた。

 気付けば観覧車は下まで達していて、ゲジョーは係員に引っ張り出されて避難を促された。彼女は係員には反応せず、ずっと目を見開いて震えながら宝世機や巨獣に目をやっていたが、係員は「怖がっているのだろう」と受け取って異様がらなかった。そしてゲジョーは、撮影と震撼を続ける。

(何故、悪しき者たちに力が与えられるのだ!? 不条理すぎる……!!)

 心の中で、ゲジョーはそう叫んだ。誰にも届かない、心の中の声で。


 五つの宝世機は三体の巨獣と戦闘を繰り広げる。
 まずヘリコプターの姿を得た都合、ガーネットは空を飛ぶギルバスに対応した。トラバサミのような口で噛みつこうとしてくるギルバスを、ヒラヒラと自在に舞いながら避け続ける。

「威勢が宜しいですわね。でも、視野が少しお狭いでしょうか……」

 内部でガーネットを操るマゼンタは、意味深に呟く。彼女が目をやった地上では、トパーズとヅメガがぶつかろうとしていた。

「ブゥオォォォッ!!」

 野太い声を上げるヅメガが、跳躍からの突撃を敢行する。トパーズの中のイエローは落ち着いてそれを見据え、その後方で交戦するガーネットとギルバスも視界に入れていた。

(解かるぞ……。姐さん、こんなのを狙ってるのか?)

 唐突に、イエローの脳裏に作戦が浮かんだ。その作戦は彼の手から、大理石に乗った黄の半球を通じ、ショベルカーの姿を得たトパーズの機体に伝わる。
 するとトパーズはアームを振り上げ、跳んでくるヅメガを迎え撃つ。トパーズのアームの先はバゲットではなく、ペンチ状のグラップルになっている。このアームでトパーズは跳んできたヅメガの右腕を掴み、そのまま振り回して豪快に放り投げた。空中へと。

(あら、ワット君。私の思ったように動いてくださるのですね!)

 トパーズがヅメガを投げ飛ばした時、マゼンタはそう思った。と言うのも投げられたヅメガの延長線は、ガーネットを追うギルバスの延長線と交わっていたからだ。
 マゼンタはすぐそれに気付いたが、ギルバスは躍起になってガーネットを撃墜しようとしていたので、ヅメガが真横に迫ってきた時ようやくこの事態に気付いた。
    しかし、もう遅い。ギルバスは投げられたヅメガを食らい、二体は交錯して墜落。錐もみしながら海に落下して、豪快な水飛沫と荒波を立てた。

「レッド、ブルー! 私たちも行きますよ!」

 トパーズとガーネットの連携に触発されて、グリーンが叫ぶ。
 その意思を受けて、F1カー型のヒスイは巨大なカムゾンに向かって走っていく。その速度はやがてヒスイの車体を浮き上がらせるに至り、ヒスイは見えない坂を駆け上がるような形で、高いカムゾンの頭に体当たりを見舞った。
    カムゾンは怯み、ふらついて後退した。

「続くぞ、レッド! 援護を頼む!」

 ブルーが叫び、ホバークラフト艇になったサファイアが動く。
 船体下部のスカートから豪快に空気を吐き出し、船体後部に備えた二つの大きなプロペラを回し、浮き上がって滑るように突き進んだ。ところでブルーは、無意識で理解していた。グリーンが追撃を期待していたことを。そしてレッドも、説明されなくてもブルーの意図を理解していた。

「了解です!」

 レッドはピジョンブラッドを走らせず、遠方からカムゾンの胸を狙って梯子の先から放水する。その激流がカムゾンの胸に直撃するのと同時に、突進してきたサファイアがカムゾンの膝に体当たりを決める。
 これでカムゾンの巨体はバランスを崩し、先は耐えられた放水と自分より遥かに軽いサファイアの突進に屈した。カムゾンは軽々と岸壁まで運ばれ、そのまま海に突き落とされた。
    カムゾンを押し出したサファイアはその勢い海上に駆け出し、海面でUターンして船着き場の辺りまで戻った。


 五つの宝世機に巨獣たちは圧倒されるが、屈してはいなかった。突き落とされた海の上に上半身を出し、宝世機を睨みながら威嚇の咆哮を上げる。
    しかし宝世機を操る五人はそれに怯えるどころか、むしろ更に勢いづこうとしていた。

「皆さん。僕、凄くインスピが湧いてるんですけど……。付き合ってくれますよね?」

 ピジョンブラッドの中のレッドが、思わせぶりな発言をした。額面だけでは彼の意図を読み取れないが、今の四人には理解できる。

「ジュエルメンのジュエルオーみたいに、合体しちゃいましょう!」

 続けてレッドが放った言葉は、随分と突拍子の無いものだった。
 しかし今の四人は否定しない。グリーンが「そう言うと思ってた」と言ったのを皮切りに、全員が頷く。かくして合体の敢行は全会一致で決まり、示しを合わせたかのように五人は同じ言葉を叫ぶ。

「宝石合体!」

 その声を合図に宝世機は合体を始め、巨人のような姿になる。

 最も大きなピジョンブラッドが胴体と両肩、そして頭を構成。その巨体を支える両脚になるのは、馬力があるトパーズ。小型のヒスイとガーネットは、それぞれ右腕と左腕としてピジョンブラッドに連結し、サファイアはピジョンブラッドを挟むように、胸と背の装備として連結する。

 合体は思ったより短時間で完了した。かくして、五色の宝石が集まったド派手な巨人が、ここに生まれた。


「これが想造神……。ジュエランドを救った、伝説の……」

 寿得神社で、棒読みのリヨモが鈴のような音と鉄を叩くような音を響かせ続ける。その隣で、愛作は余りの凄さに言葉を失っていた。


 言葉を失ったのは、現地のゲジョーも同じだった。観覧車を降り、遊園地内の別の場所まで移動していた彼女は、遠巻きに想造神の姿を目にして呆然と立ち尽くしていた。
 その表情は絶望というのが正確だろうか。それでも律儀に、スマホによる撮影を続けていた。


 ゲジョーが撮った映像を小惑星で見ているマダムとザイガも、ゲジョーと同じく呆然としていた。

「地球のシャイン戦隊は、わらわや其方と同じ域に達したようじゃな」

 銅鏡を見つめたまま、マダムが呟く。いつものような甲高い声ではなく、力の無い小さな声で。
 その隣でザイガは、鉄を叩くような音を小さく鳴らしていた。

「五人揃った時にシャイン戦隊は真価を発揮すると言われていたが…。あれは本当だったのだな」

 ザイガの声は音の羅列だが、棒立ちで銅鏡から視線を逸らさない姿勢が、彼の驚きを強く表現していた。


 反応はそれぞれ異なるが、想造神への合体成功は確実に見た者全員の度肝を抜いていた。


「完成! ホウセキング!!」

 レッドがこの想造神に命名した。
    その時、五人は同じ空間に居た。透明な半球を備えた大理石の台が五つ並んでいて、その前にレッドを中心にして、彼から右にグリーン、イエロー、左にマゼンタ、ブルーの順に並んでいた。
 いつの間にか一箇所に集まっているのは不思議だが、そんなことを気にしている暇は無い。敵が来るからだ。

「敵が向かって来る! 全員、臨戦態勢だ!」

 一同の気持ちを引き締めようと、ブルーが叫ぶ。気迫を全面に押し出して迫り来る巨獣に対して、迎え撃つ五人は負けじと己を昂らせた。

「さあ、想造力爆裂です! 皆さん、インスピ湧かせまくってください!!」

 レッドの呼び掛けが合図となり、ホウセキングと命名された想造神は動き出した。本当に度肝を抜くのは、ここからだと言わんばかりに。


次回へ続く!

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