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社員戦隊ホウセキ V/第26話; 勇敢と無謀は違う

前回


 四月四日の日曜日の正午過ぎ、ニクシムによって送り込まれた三体の巨獣と、それを迎え撃つ社員戦隊の宝世機が激闘を繰り広げていた。
 その戦いの中で社員戦隊の想造力は高まり、五つの宝世機を合体させた。ジュエランドで語り継がれていた伝説の想造神が、現代の地球で甦ったのだ。ホウセキングという新たな名を得て。


 ヅメガが豪快に跳躍し、ホウセキングに飛び掛かろうとする。しかし、中の五人は動じない。

「レッド。お前の武装、俺の技で使うぞ!」

 これに対応したのはブルー。
 彼の意思を受けたホウセキングは、左腰に刀の鞘のように備えたピジョンブラッドの梯子を前方に向け直し、先端部から放水した。ヅメガに向けて。
 跳び上がったヅメガは空中で方向を変えることがかなわず、寸分違わず自分を狙ったこの激流を受けるしかなかった。ヅメガは敢え無く、反対方向に吹っ飛ばされる。

「すぐさま二の矢の攻め……! これが大事なんですよね!」

 次はグリーンの意思を受けて、ホウセキングは右腕に備わったヒスイのタイヤを回転させる。
 するとホウセキングの全身が緑色に発光し、目にも留まらぬ速さで走る。巨体に似合わぬ高速移動で、ホウセキングは瞬時にヅメガの落下点に走り込んだ。

「その次はこうして欲しいとお考えですわよね?」

 次はマゼンタの意思がホウセキングに作用し、左腕に備わったガーネットのプロペラを回転させる。そしてまだ宙を落下しているヅメガに、この左腕を振るった。
 吹っ飛ばされているヅメガにこれを回避する術は無く、無抵抗で高速回転するプロペラに切り裂かれた。切り裂かれたヅメガはピンクの光に包まれ、そのまま光の粒子と化して一帯に散らばった。

「キシャアアアアアッ!!」

 ヅメガが倒されると、今度はギルバスが空を泳ぎながら向かってきた。

「こっちも飛びますよ! 今度は僕が、ブルーの装備を使いますね!」

 今度はレッドが叫び、彼の意思を反映してホウセキングは動く。
 背に備えたサファイアの二つのプロペラが回転し、豪快な風を巻き起こしてホウセキングの巨体を浮かせた。ホウセキングはぐんぐん高度を上げ、ギルバスより上空に舞い上がった。
    この巨体での飛翔は驚きだが、ギルバスは怖気づくことなく相手を追い、高度を上げる。対するホウセキングはこれをしっかりと見据え、ギルバスが十分に近づいたと見るや、迎撃するべく黄の右足からキックを繰り出した。
 しかしギルバスは軟らかく身をくねらせ、これを回避。ホウセキングのキックは空振りに終わったと思われたが、それは早合点だった。

「避けられたと思うなよ」

 ホウセキングの右足はトパーズ由来で、折り畳まれたショベルアームが備わっている。イエローが呟くと折り畳まれたアームが伸び、キックの射程が一気に広がった。
 これにはギルバスも面食らい、足から伸びたショベルアームでそのまま殴打された。これが決定打となり、ギルバスは黄に輝いて無数の光の粒子と化し、四方八方に舞い散った。

「残るは一体。さあ、一気に決めちゃいましょう!!」

 地上に降りて来たホウセキングの中で、レッドが呼び掛ける。この時、全員の脳裏に次の攻撃が浮かんでいた。
 その思考を反映するべく、ホウセキングは動く。刀の鞘のように左腰に備わった梯子に手を掛け、そのまま抜刀するような動作で取り外した。
   すると梯子は、ホウセキングの右手の中で巨大な剣に変化していた。鍔に赤、緑、黄、ピンク、青の五つの宝石を備えた、ブロードソードのような刃を持つ剣に。その切っ先はカムゾンに向けられた。

「ガゴオォォォォッ!!」

 残り一体となったカムゾンだが、決してその戦意は衰えておらず、強靭な口を全開にしてホウセキングに向かっていった。
    ホウセキングの方は剣を中段に構えて、イマージュエルの力をこれに集中させる。その力は刃に宿り、赤、緑、黄、ピンク、青の光として可視化される。十分な力が蓄積されると、いざホウセキングも走り出した。

「ホウセキングカリバー! 豪華絢爛……宝石斬り!!」

 五人が声を揃えて叫び、ホウセキングは大きく振り被った剣を豪快に振り下ろした。五色に光るその刃は、カムゾンを脳天から一刀両断にする。
    カムゾンの果敢な突撃は、儚くも死地への疾走となってしまった。斬られたカムゾンは五色に輝き、そのまま五色の光の粒子と化して四方八方に舞い散った。ヅメガ、ギルバスと同様に。


 圧巻の戦いで、三体の巨獣を意図も簡単に撃破した想造神、いやホウセキング。その姿は、見た者たちの心をいろいろな意味で震撼させた。

「マ・スラオンから聞いていた伝説の想造神を、まさか見る日が来るとは……。豪華な姿に途轍もない強さ……。凄すぎる……!!」

 寿得神社の離れで映像を見た愛作は、感激していた。五つの宝石で作られた宝飾品のようなその巨人の強さを、彼はひたすら頼もしく感じていた。それはリヨモも同様である。

(光里ちゃん、伊禰先生、ジュールさん、時雨さん、和都さん……。本当に凄い五人が揃いました。五人で力を合わせて、ザイガでも無理だった想造神を生み出した。彼らなら、絶対にニクシムの陰謀を阻み、地球を守り抜けます)

 彼女は鈴のような音を鳴らし続け、静かに頷いていた。


 三体の巨獣を撃破した五人はイマージュエルを先に寿得神社に帰し、自分たちはコインパーキングに待たせていたキャンピングカーに乗って帰路に就いた。
    今回は景気の良い話が多かったので、帰りの車内は賑やかだった。リヨモがブレス越しに想造神の凄さを語り、十縷と伊禰がそれに乗っかる。主にこの三人の間で、楽し気な会話が展開されていた。

「そうだ! 想造神の名前がホウセキングに決まったことですし、この際ジュエルメン的な名前も付けちゃいましょうよ!」

 いきなり十縷はそんなことを口走った。名前はホウセキングに決まった訳では……というツッコミも許さず、十縷はこの勢いで喋りまくった。

社員しゃいん戦隊せんたいホウセキほうせきファイブって、どうですか? ホウセキブルー、ホウセキマゼンタ、ホウセキイエロー、ホウセキグリーン。で、僕はホウセキレッド!」

 十縷は隊の名前を声高に挙げた後、一人ひとりに手を差し伸べながら名前を与えていく。何故か皆、シャイン戦隊ではなく社員戦隊だと理解できた。そして、単純極まりないこの名前は、皆に苦笑を浮かべさせた。

「俺たちは対ニクシム特殊部隊だ。変な名前を付けるな」

 と、時雨は即答したが、何故か表情は明るかった。それは伊禰や和都も同じだ。

「ジュール君って、光里ちゃんと近いセンスをお持ちですのね……。ホウセキチェンジという掛け声や、ホウセキアタッカーやホウセキディフェンダーなどの名前、光里ちゃんがお付けになられたのですのよ」

 そう語る伊禰は満面の笑みを浮かべていた。十縷は思わず「そうなんですか!?」と光里に話題を振ろうとしたが、この時になって彼はようやく気付いた。光里が不機嫌そうな表情をしていることに。思えばこの帰路の間、光里は話題に加わらず、ずっとこの表情だ。
   そのことに気付くと、十縷ははしゃいでいられなくなり、少しおとなしくなった。


 そして、一行は寿得神社の離れに帰還した。いつも通り、彼らはリヨモと愛作に出迎えられ、リンゴで労われる。

 リヨモが絡んでくると、ようやく光里は少し表情を綻ばせたが、いつも程の笑顔は見せない。その理由は、愛作が十縷に話し掛けた時に明らかとなった。

「熱田。勇敢と無謀を履き違えるなよ。今後、強行出撃は控えろ。今回は、他の皆がイマージュエルを宝世機に変えたり、想造神ができたり、結果として良いことに繋がったけど、毎回そうなるとは限らない。肝に銘じておけ」

 愛作はほぼ向かいに座る十縷を、称えると同時に叱った。その時、十縷は「すいません」と苦笑しながら頭を掻いていたが、その様子から深刻さは感じられなかった。
 愛作もこれ以上厳しくする必要は無いと感じていたので、十縷の態度を叱責することはなかった。しかし、光里は違った。

「ねえ、熱田君。社長の話、真剣に聞いて。本当に大事な話なんだから」

 愛作の右側に座っていた光里が、そう言った。この声は離れの中に響き渡り、思わず十縷だけでなく他五人も表情を引き締めた。光里の右側に居たリヨモも、堪らず耳鳴りのような音を鳴らす。
 そんな中で、光里は続けた。

「前回と今回は上手く行ったけど、上手く行かなかったら死んでたかもしれないんだよ。そうしたら、ここに居る皆がどんな思いをするのか、考えた? 私たちだけじゃないよ。貴方の家族、友達……。残された人たちが、どんな気持ちで生き続けるのか、考えてた?」

 まさか、こんなことを言われるとは……。
 不覚にも想定外だったので、十縷の耳に鋭く突き刺さった。「光里ちゃんが僕を心配してくれてた!」などとはしゃぐ気にはならない。自分が考えていなかったことを突き付けられ、十縷は重い気分になった。

「残された子がどんな気持ちで生き続けるのか、あんた知ってるの? お願いだから、もう止めてよ! あんな辛い思い、他の子にさせないでよ!」

   

    連鎖的に、光里がスケイリーに放った言葉が十縷の脳裏に甦る。まさか、同じようなことを自分が言われるとは……。
    更に十縷は思い出した。彼は過去にも、似たようなことを言われたことがあった。

(中二の時、溺死しかけたのを助けてくれた女の子も、似たようなこと言ってたな。「お前が死んだら、お前の家族はいつまでも悲しむんだぞ」とか、そんな感じだっけ……)

 そう、あの少女だ。顔は思い出せないが、言われたことは思い出せる。そして思い出すと、益々気持ちは重くなり、十縷は調子に乗っていた自分が恥ずかしくなってきた。

「だから、お願い。そこまで考えて行動して」

 そう言った時、光里の目は赤く充血し、涙で潤んでいた。そんな目で、彼女は十縷をしっかり見ていた。一方、十縷の方は光里を見られず、視線を下に落としていた。

「迷惑掛けて、ごめんなさい……」

 十縷は【迷惑】という単語を選び、己の軽さを静かに詫びた。


次回へ続く!

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