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(123)67歳の乙女心①

キレイでいたい(前編)

母は自分のことを「おばあちゃん」とは絶対に呼ばせなかった。理由は「おばあちゃん」と呼ばれると、心も顔も本当に「おばあちゃん」になってしまうので絶対に呼んではならぬ、と。

きっかけは2000年に放送されていた、
NHK朝の連続テレビ小説「私の青空」。
加賀まりこさんが祖母役を演じていた。脚本家の内舘牧子さんはドラマの中で「おばあちゃん」ではなく「おたまちゃん」と呼ばせていた。そのドラマの影響から「おばあちゃん」はNG。「玲子ちゃん」になった。

さらに遡って娘が3歳のころこと。
玲子ちゃん67歳。母の美意識は強く、フェイシャルマッサージとナイトクリームは絶対に欠かさない人だった。しかし表情筋の「筋トレ」はしていなかったため55歳を過ぎてから「まぶたの下垂」が始まった。まぶたがたるんで落ち、まつ毛が全て目の中に突き刺さるようになった。目を開けるとまつ毛がチクチク目を刺して開けられず、まつ毛をいつも抜いていた。「眼瞼下垂(がんけんかすい)」と言われる症状のこと。
どうにも衰えていく自分の顔に母は落ち込み、近所の大きな総合病院を受診して形成外科で「まぶたの切除」をした。

ところが、その切除して縫い合わせた線はまるでジグザグミシンのような跡になってしまった。
母の乙女心はザックリと傷つき精神的にも大ダメージ。母は「まぶたがギラギラ腫れている」と嘆き悲しみ、母の目がどこにあるのか?分からないほどの色の濃い大きなトンボメガネのサングラスをかけるようになった。性格はすっかり塞ぎ込み、しまいには外に出るのを嫌がるまでになっていた。明らかに「鬱」。

「美に執着」のある母にとって、それは「耐えがたい事件」だった。

続く

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